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小森 利絵
フリーライター えんを描く

おてがみじかん ライフスタイル 2021-08-18
誰宛てでもないお手紙~Мさんより~

知っている誰かだから書けることがありますが、具体的な誰かではないから、その時々に感じたり思ったり考えたりしたことを気ままに書けるということもあります。

そんなふうに、誰宛てでもなく、気ままに書いたお手紙を、時々掲載しています。

今回は、Мさんより、2021年6月末に届いたお手紙です。
見知らぬあなたへ

雨音を聴きながら、ドキドキしつつ、便箋に向かっています。あなたが退屈せずに最後まで、この手紙を読んでくれるといいのだけれど。

長らく私にとって手紙は旅先で書くものでした。外国の見知らぬ土地から、駅や空港のベンチで次の乗り物を待ちながら、カフェや屋台で往き交う人々を眺めながら、宿のベッドに腰かけて1人ぼっちを味わいながら、親友に宛てて書くのが常でした。

今では用件だけをlineで済ませますが、小学校卒業と同時に離れ離れになってから、彼女とはずっとペンパルでした。これまでの手紙の束はかなりのもので、お互い愛想のないlineの文量とは比べものにならないほどです。

つい先月、私の43才の誕生日にも手紙をもらいました。なんだか照れますね。恥ずかしついでに打ち明けると、小学校の頃は交換ノートに、お互い詩を書いたりしていました。見知らぬあなただから暴露してしまったけど、親友よ、許せ。
子どもが生まれてからは、手紙を書くことがほとんどなくなりました。

年に1度、サンタに扮して娘に愛を伝えているけれど、そろそろ筆跡でバレるかな、と昨年はパソコンで印刷し、それっぽいサインを添えました。友だちが続々とサンタの正体に気がつく中、娘はサンタからの手紙シリーズを時折読み返し、涙ぐんでいます。それを見て母も「尊いな」と涙ぐみます。こんな母娘、あなたはどう思いますか?

ちなみに私が娘と同い歳の頃、例の親友と世の中をナナメに見ては先生を批判しながらも、詩を交換したり、石けりや木登りに興じていました。やっぱり尊いのかもしれません。

見知らぬあなたは、どんな時に手紙を書くのでしょう? 誰に向けて、どんな気持ちでペンを走らせるのでしょうか。私は今からあなたに向けて、誰にも言えなかった気持ちを書いてみようと思います。見知らぬあなたも、私の気持ちも、はっきりとはビジュアル化できなくて、うまく向き合えるかわかりませんが、とにかくやってみます。
5年、いやもっと前に、私は趣味を通して、ある男性と知り合いました。楽器を演奏する集まりで、週に1度通っている所に、楽器を生業とする彼が遊びに来ていたのです。

当時の私は、シングルマザーながら、仕事と子育てをどうにか両立し、趣味も諦めたくないと必死に時間を作って続けていました。多少娘にも負担をかけることになりましたが、母でも仕事人でもない、個人の私を取り戻す、とても貴重な時間でした。

アマチュアながらレベルが高く、しっかりした集まりなので、ついていくのに必死でした。だから、いつ、どんな風に彼と出会ったのか、初対面の印象もよく覚えていません。でも、彼はそのシーンをとても鮮明に記憶していて、私に話してくれたことがあります。親友と話していても思うのですが、一方が全く思い出せないことを、他方が事細かに話して聞かせるのって、不思議な感じがしますね。

離婚後、生活を立て直して趣味まで続ける私には、異性との出会いなど想像すらしないことでした。男性に懲りてもいました。なのに、わからないものです。

きっかけは合奏中、私の力量に配慮した発言をしてくれたこと、楽器を構える姿、指の動きが思いがけず、綺麗だと気がついてしまったこと、そんなささいなことでした。知り合って数年は経っていましたし、異性として意識している、と自分が認めるまでに更に1年はかかっています。10年以上恋愛から遠ざかっていたとしても、我ながらに呆れるほどの牛歩です。
あなたはシングルマザーの恋愛など興味ないかもしれませんね。まあ、いくつになろうが、人は久しぶりに恋をすると、中学生のように妄想したり浮かれたり、かと思えば、ちょっとしたことで傷付いたり絶望したり、バカみたいに気持ちが乱高下するものです。

それでも、私たちの関係は少しずつ進展し、穏やかに育っていきました。勘の良い娘にはすぐに気付かれたし、母子家庭で育った親友の忠告通り、きちんと報告もして、お付き合いが始まりました。そうなる前から、娘は彼を慕っていて、それでも娘は複雑な気持ちもあったでしょうが、3人で遊びに行ったりもしました。

ていねいに関係を築いてきたつもりでしたが、崩壊は一瞬ですね。ほどなくして私たちはお別れしました。さよならも言わずに。

お互いのほんのちょっとした考えの違いや思いの出し方、受け取り方の違いから思わぬ方向に行ってしまい、不本意な結末になってしまったのだと思います。では、なぜ誤解が解けるまで話し合わなかったのか。私は大人になって、自分でも驚くほど、臆病になってしまっていたのです。
これ以上傷付くことが怖くて、向き合う勇気が持てなかったのです。そのくせ、必要以上に自分と向き合い、思い出し、何度も反すうしてはまた傷付き、落ち込み・・・の無限ループでした。

もうそろそろ、そんな感情も手放してもいいかな、と決心して、見知らぬあなたへ手紙を書いてみたのです。恋愛に疲れた頃に結婚して失敗し、もう懲りたはずなのに、また人を好きになって傷付き・・・ホント、何をやってるんでしょうね。

恋愛はおやつみたいなもので、なくても死にはしない。でも、あったら、日々にメリハリと彩りができるよね、くらいに思っていたのです。特にシングルマザーの恋愛なんて、オマケでしかない、と。なのに、そのおやつで重篤な食中毒を起こしてのたうち回るなんて。

娘も当然勘付いて、もう二度と父親がほしいなんて言わなくなりました。痛みが残る結末ですが、その痛みも時間が解決してくれるはずです。

最後まで読んでくれてありがとう。いつかあなたに会えたなら、その時は笑って、この話ができればいいな。あるいはまた新しい恋の話を懲りずにしているかもしれません。優しいあなたなら、笑って聞いてくれますよね。

それでは、また。お元気で。
2021.6.21 Мより
<お名前>Мさん
<自己紹介>Мです。そろそろ年頃になるはずの娘と暮らしています。日々慌ただしく賑やかに、猛スピードで毎日が過ぎ去ります。大切なものを見失わないように、時々手紙を書きたくなります。

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レターセットや絵葉書、季節の切手を見つけるたび、「誰に書こうかな?」「あの人は元気にしているかな?」などアレコレ想像してはトキメク…自称・お手紙オトメです。「お手紙がある暮らし」について書き綴ります。
小森 利絵
フリーライター
お手紙イベント『おてがみぃと』主宰

編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』
 
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『関西ウーマン』とのコラボ企画で、一緒にお手紙を書く会『おてがみぃと』を2ヵ月に1度開催しています。開催告知は『関西ウーマン』をはじめ、Facebookページで行なっています。『おてがみぃと』FBページ

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