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小森 利絵
フリーライター えんを描く

おてがみじかん ライフスタイル 2021-07-21
お手紙とわたし~津玲子さん編③~

私のまわりにいる「日常の中でおてがみじかんを楽しんでいる人」にインタビュー。5人目は津玲子さんです。お手紙の思い出や楽しみ方などについてうかがったインタビューを4回に分けて紹介しています。

これまでに「自分の気持ちや想いを乗せやすいツール編」「お手紙が『今、ここ』以外の世界とのつなぎ目編」とお話をうかがってきて、第3回目となる今回は「年に1度、その人とやりとりできるチャンス編」です。

年賀状を書く枚数を減らすなどした時期もあったという津さんが、年に1度の機会を大切にしていこうと思い直した出来事についてお話をうかがいます。
「年賀状じまい」という言葉を聞きます。私もこの数年、「来年から年賀状じまいします」「来年からはLINEでよろしくお願いします」といった連絡をもらうことがありました。津さんは年賀状を書くことを大切にされているそうですね。

津さん:新年のご挨拶はメールでもLINEでもできますが、年上の方や親戚にはメールでというわけにはいきませんし、やっぱりお手紙が好きなんです。

それに、いつでもやめようと思えばやめられるものだからこそ、できるだけ続けていきたいと思っています。

年賀状を送っているお一人おひとりのことを想うと、「こんなことでお世話になったな」「そういえば、こんな思い出があるな」と大切にしている思い出があるので、このご縁は絶やさずにいたいなって。

私にとって年賀状は「あなたのことを忘れていませんよ」「つながっていたいと思っていますよ」という気持ちを、年に1度伝えるツールになっているような気がします。

年賀状と言えば、どこか風習的に思われがちですが、そうではなく、「あなたのことを忘れていませんよ」「つながっていたいと思っていますよ」という気持ちを伝えるツールとは素敵です。そう思われたのは、なぜですか?

津さん: 私自身、年賀状をいただくと、わざわざくださったんだな、気にかけてもらっているなと嬉しい気持ちになるんです。

また、年賀状を一度送らなくなってしまうと、再びつながることが難しくなるという経験もしたからでしょうか。

喪中はがきや転居はがきをいただいたタイミングで翌年年賀状を出しそびれたり、自分の中で断捨離ブームが起きた時に年賀状も整理しようと、こちらが送っても返事がない相手に出すのを控えたりした時期があったんです。

数年後、「どうしているだろう?」と何かのきっかけにふと思い出す、あの人やその人がいて、年賀状のやりとりが途絶えたら連絡をとらなくなってしまい、久しぶりに連絡してみたくなっても、今さらしづらかったり、連絡先もわからなくなったりしていることもありました。

「ああ、あの人ともうつながっていないんだ」「私、あの人のこと、好きだったな」「昔、ずいぶんお世話になったな」「また、お話ししたかったな」とさみしくなったんです。

年賀状という細いつながりであっても、つながっていることには変わりがないんだと気づきました。年に1度、その人とやりとりできるチャンスをなくしてしまったことを後悔したんです。
年賀状だけのやりとりになってしまうと、どこか形式だけになっているかもしれないと不安に思うことがあります。でも、細くともつながっているということの意義を、お話をうかがいながら感じました。

津さん: 日頃は意識しないかもしれないけれど、頻繁に連絡を取り合わなくても、思いやる誰がいることに支えられているなと感じることがあります。

たとえば、「あの人、どうしているかな」「元気にしているかな」と思いやれる誰かがいることが、自分の心を豊かにしてくれます。また、年齢を重ねるごとに、人とのつながりが人を支えることもわかってきました。つながっていることが、自分はもちろん、相手を支えているかもしれないと思うと、大切にしたいなと思うんです。

私はどうして年賀状を書くんだろうと改めて考えると、相手から返事がほしいわけでも、ギブアンドテイクを求めているわけでもなく、私が相手に感謝の気持ちを伝えたいからなんだと気づきました。

言ってしまえば、私の自己満足です。相手に気持ちが伝わったら嬉しいですが、感謝の気持ちを伝えたいという、それだけで十分じゃないかなって。

自己満足でもいい。年に1度、自分の気持ちや想いを伝えるために年賀状を書くというのは素敵ですね。

津さん: お手紙のよさはそういうところにもあるのかなと思います。

年賀状や寒中見舞い、暑中見舞い、クリスマスカードなど季節ごとに出せる、久しぶりの連絡でも不自然ではないタイミングがあり、いずれも季節の挨拶を目的にしていますから、返事を求めるものではありません。

一方でメールやLINEだったら、日常的な連絡ツールになっているので、受け取ったら返事しなきゃと思いますし、まったく連絡のなかった人から久しぶりに連絡があったら、「急用?」「何かあったのかな」とびっくりすると思うんです。

昔は「年賀状を送っても迷惑かな」と送るのを遠慮しようかと思ったこともありました。でも、お手紙は緊急性の低い、用事ではない余白を持つツールだから、受け取った後のことは相手に委ねればいい。読まれなくても、捨てられてもいいんだって。

ただ、私は自分の気持ちを伝えていこうと思ったんです。

津さんから今年いただいた年賀状。毎年デザインはどうされているのかをうかがってみたところ、「印刷会社のデザインフォーマットから、子どもの成長を知らせるための写真を小さく掲載できるもの、メッセージを書くスペースがあるものを選んでいます。また、お一人おひとりの顔を思い浮かべる時間を持ちたいので、宛名と一言メッセージは手書きしています」と津さん。
(2020年10月取材)
<お話をうかがって>

私も、年賀状を送って相手から返事がない場合や、私の年賀状が届いてから急いで送ってくださったんだろうなと感じた場合は、相手に迷惑かもしれないから送るのを控えようと思っていたことがありました。

でも、過去の年賀状を見返す中で、「ああ、懐かしいなあ」「お元気にしているかな?」と懐かしく思う方々がいて、何かのきっかけで年賀状を送らなくなってしまって、途切れてしまっているご縁があることに気づきました。

「本当に大切なご縁だったら、年賀状以外でもつながっているのでは?」と思うかもしれません。でも、常時つながっているわけではなくても、「あの時に出会った」「こんなことでお世話になった」「こんな話をした」という始まりや思い出、ご縁があり、年賀状をやりとりするくらいの関係性が生まれたということ。

「あの時に出会った」という一時の出会いであったとしても、年賀状をやりとりしたことのある方には、何年経っても思い出せる何かがあるんです。

自分の気持ちや想いを伝えるために送るというシンプルな動機でいい。また、津さんが年賀状を「『あなたのことを忘れていませんよ』『つながっていたいと思っていますよ』という気持ちを、年に1度伝えるツール」としているように、年賀状に限らず、お手紙には寒中・暑中見舞い、クリスマスカードなどさまざまな季節のタイミングがありますから、自分で大切にしたい時間をどう持つのかを今一度考えることもいいなと、津さんのお話をうかがって思いました。

次回は「お手紙は自由。つくる楽しみもある編」として、お手紙を書く時のこだわりや楽しみ、お気に入りのアイテムについてお話をうかがいます。
profile
レターセットや絵葉書、季節の切手を見つけるたび、「誰に書こうかな?」「あの人は元気にしているかな?」などアレコレ想像してはトキメク…自称・お手紙オトメです。「お手紙がある暮らし」について書き綴ります。
小森 利絵
フリーライター
お手紙イベント『おてがみぃと』主宰

編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』
 
『おてがみぃと』
『関西ウーマン』とのコラボ企画で、一緒にお手紙を書く会『おてがみぃと』を2ヵ月に1度開催しています。開催告知は『関西ウーマン』をはじめ、Facebookページで行なっています。『おてがみぃと』FBページ

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