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小森 利絵
フリーライター えんを描く

おてがみじかん ライフスタイル 2021-03-17
お手紙とわたし~津玲子さん編①~

私のまわりにいる「日常の中でおてがみじかんを楽しんでいる人」にインタビュー。5人目は津玲子さんです。

郵便受けで見つけた瞬間から、「うわぁ~!津さん!」と思わず笑顔になってしまう、お手紙をくださる津さん。

封を開ける前から、「これは何だろう?」と封筒に描かれた絵や模様、マーク、シールなど、その一つひとつに見入ってしまう。紙やテープ、布などの素材・色使いが、かっこいいし、パンチ力があるし、かわいい! 毎回変わる郵便マーク、津さんの似顔絵、「こういうデザイン」のように見える住所と名前の文字。

封を開けても、さまざまな絵柄や紙質の一筆箋に書き綴られていたり、文字や文面からしゃべり声が聞こえてきそうだったりと、ときめきがとまりません。

「このわくわく、うきうきするお手紙の源は何だろう?」と、津さんにお話をうかがいました。津さんへのインタビューを4回に分けて紹介します。

第1回目は「自分の気持ちや想いを乗せやすいツール編」。津さんの思い出に残るお手紙のことや、どんな時にお手紙を書きたくなるのかなどについてお話をうかがいます。

津さんからいただいたお手紙。「封筒は『あとりえすずかけ』さんでお買い物をした時にいただいた紙袋でつくりました。めっちゃかわいくて、捨てることなんてできませんから。『西淡路希望の家』さんのカレンダーも使用後は紙袋に変身させるなど楽しんでいます」と津さん。
「はじめてのお手紙」の記憶はいつ、誰宛でしたか?

津さん: 幼稚園でも、小学校でも、友だちとお手紙交換などしていたと思うのですが、「はじめてのお手紙」と聞かれて思い出したのは、小学5年生の時のバレンタインです。

お店でチョコレートを選んで、レターセットにお手紙を書いて、バレンタイン当日の朝7時に自転車で好きな男の子のおうちへ。約束もせずに突然行ったものだから、その子はまだ起きたばかりだったのでしょうね。頭がぼーっとしている感じで、「これ、あげる」と渡したら、「はあ。ありがとう」と受け取ってくれました。

どんなチョコレートだったのかも、お手紙に何を書いたのかも、ほとんど覚えていません。

とても寒い日だったな。お母さんの毛糸の帽子を被って行ったな。ドキドキして渡したな。ホワイトデーにその子のお母さんが選んだであろう、おしゃれなハンカチをもらったな。私の母と「〇〇くんのお母さん、センスがいいね」と話したな。という、一連のことははっきりと覚えているんです。

そして、お手紙を書く時、何を書こうかなと悩んで迷ったな、なかなか書き出せなかったな、ドキドキしたなとも。お手紙には確か、「いつもありがとう」「これからもよろしくね」みたいなことを書いたのかな。「好き」と書かなかったのは、恥ずかしかったから書けなかったんです、きっと。

もともと友だちとして仲良くしていた男の子を好きになって、初めて抱いた「好き」という恋愛感情。そんな感情を抱いて書いた初めてのお手紙だったから、とても印象に残っているのかなと思います。

キュンとする思い出ですね。出来事や感情とともに心に残っている、自分が書いたお手紙の記憶。誰かからもらったお手紙で、心に残っているお手紙はありますか?

津さん: 2通ほど、思い浮かびました。1通は、旅先で出会った人からのお手紙。

恋バナが続いちゃうのですが(笑)。出会いは旅先だったのですが、1度だけ一緒に出かけたのかな。その後に「好きになったみたいです」というお手紙をもらって、「わあ~!ラブレターだ」と小躍りした覚えが! 後にも先にも、そんなラブレターをいただいたことはありませんから。

遠く離れて暮らしていましたので、その後関係が進展することはありませんでしたが、思いがけないことだったので、こんなマンガのようなことがあるんだって、すごくドキドキしたことを覚えています。

もう1通は、父からのお手紙。

大学時代にカナダで1カ月ほどホームステイしていたことがありました。その時に、父から「Dear my daughter」という書き出しから始まるお手紙をもらったんです。

内容はもう忘れてしまったのですが、家の様子などたわいないことだったと思います。仲の良い父娘ではありませんでしたし、その頃はあまり話もしていなかったので、手紙を見て思わず「Dearって・・・・・・」とツッコミを入れたのを覚えています。

でも、異国の地にいる娘を心配してくれているんだということも伝わってきて、やっぱり嬉しかったんですよね。父も普段は言えない気持ちを“手紙を出す“という行為で伝えたかったんでしょうね。
子どもの頃からお手紙を書くことが好きだったのですか?

津さん: マンガを読んだり描いたり、友だちと交換日記をしたり。書道を習うなど文字を書くことも、文房具屋さんで文房具やレターセットを見るのも好きだったから。そういえば、小学生の時には貸本屋さんみたいに、帳面をつくって友だちに自分が好きな本を貸し出していましたね。

お手紙には、ものづくり感があって、読んだり書いたり描いたりという私の好きや得意を発揮できる要素があるからでしょうか。子どもの頃から好きだったと思います。

性格的にも緊張しいだから、文章でのコミュニケーションが合っていたというのもあるかもしれません。お手紙のほうが、自分の気持ちを整理して伝えることができるからいいなとも思っていました。

ただ、私が20代までの頃というと、今ほどインターネットや携帯電話が普及していなかったので、主な連絡ツールと言えば、固定電話かお手紙でした。

たとえば、高校卒業後に県外の大学に進学した時は、離れ離れになった友だちと手紙で近況を報告し合っていましたし、遊ぶ約束をする時も電話代が高かったので、手紙でおおまかな日程や内容をやりとりしてから、電話で詳細を確認し合っていたのを思い出します。

好きか嫌いか以前に、それくらいお手紙は日常的な連絡ツールだったということがありますね。

確かに、インターネットや携帯電話が普及するまでは、お手紙も日常的な連絡ツールの一つでした。それが現在では、電話、メール、LINE、Facebook、インスタグラム、ZOOMなど多様なツールで、近況を報告したり、連絡を取ったりできます。そんな中で、最近はどんな時にお手紙を書いていますか?

津さん:津さん:今は、LINEなどでやりとりすることのほうが多くなりました。お手紙を書く時と言えば、贈り物を送る時でしょうか。

クリスマスプレゼントや旅のお土産、お礼のほかに、「あなたに似合いそうなものを見つけましたよ」とサプライズ的なプレゼントを贈る時に、一筆箋にお手紙を書いて添えます。

そういった用事のあるお手紙を書くことのほうが多いですが、用事のないお手紙を書く部分も、意識して残しているんです。やっぱりお手紙が好きですし、「届く喜び」のある郵便のやりとりが好きだから。

いつ届くかがわからなくてわくわく。届いたら「わあ!」というサプライズ感がたっぷり。ここにたどり着くまでに、郵便屋さんを介して、さまざまな道のりを経て届いたんだろうなと想像が膨らむ。機械的ではなく、人の手を介して届くものだから、途中で紛失などあってもおかしくない中でたどり着いたという奇跡。

そんな喜びも、お手紙では共有できるから、残しておきたいなと思うんです。
「用事のないお手紙」とは? どんなことを書いているのですか?

津さん: たとえば、悩みや今の気持ちを誰かに聞いてもらいたい時、この人だったら話を聞いてくれるという友だちに書いています。

書くことによって、気持ちを整理することができますから。でも、同じ書くでも、日記ではだめなんです。自分が書いたものが、手元に残ってしまうでしょ。ついつい読み返してしまって、「なんでこんなことを書いてしまったんだろう」と、書いた時の自分の熱量に照れくさくなってしまいます。

そういう意味では、メールもLINEも自分が書いた文面がデータに残ってしまいますから。読み返さなければいいんだけど、残っていると、ついつい見てしまうんですよね。

見てしまいますね。メールも送った後に、ついつい読み返してしまって、「どうしてこんなことを!!」と後悔することがあり、後から「あの時は」などフォローを入れてしまい、さらに迷走してしまうことが。その点、お手紙は書いて送ると、手元には残らないし、記憶にも全体の漠然とした内容しか残らないのがいいですよね。

津さん: お手紙なら、自分の中にとどめておけない悩みや気持ちを誰かに聞いてもらえて、自分の手もとには何も残りません。相手に届くのは、お手紙を書いた時点より未来のどこか。届くまでに時差があるから、友だちから連絡をもらっても、その頃には熱量ピークな状態から冷却期間を経た冷静な私がいるから、いいんですよね。

用事のないお手紙として、もう一つ。

LINEなどでやりとりする中で「あれ?なんか元気がなさそうだな」と気になったり、日々の忙しさに追われて、すっかりご無沙汰してしまい、「そういえば、元気にしているかな?」と思ったりする時、「あなたのことを想っているよ」「気にかけているよ」「元気でいてほしいよ」というメッセージを伝えたくなります。

その時もやっぱりお手紙でとなるんです。

LINEなどは素早く打てて送れてしまうので、気持ちの速度と合わないと言いますか。お手紙は時間も手間もかかりますが、その分、相手のことを考える時間をじっくりと持てるなど、気持ちとフィットするような気がします。

お手紙は、自分の気持ちや想いを乗せやすいツールだなと思うんです。

お手紙のどんなところが「気持ちや想いを乗せやすい」と思いますか?

津さん: LINEなどは文字や文章の予測変換機能があって、1文字入力すれば、最後まで打たなくても簡単に入力できるようになっていますし、コピー&ペーストもできます。

一方でお手紙は、一文字一文字を書いていくものです。その一文字を書く間にも相手のことを想います。

お手紙を受け取った時に、その人の気持ちや想いが隅々まで行き届いている感じがするのは、そのためかなと思うんです。時間も、手間もかかる分だけ、言葉として書かれていること以上に宿るものがあるのではないかなって。

以前、「おてがみぃと/贈り物はお手紙のクリスマス会」(※)に参加した時、知らない誰かからのお手紙を受け取りました。

お会いしたこともない誰かからのお手紙でしたが、そのお手紙を見ただけで、書くまでにいろんなことを考えてくださったんだろうなという想像が膨らみましたし、文字や絵柄、便箋、封筒などの一つひとつからもその人自身のことを感じられるようでした。

言葉や文面には表れていない部分まで感じ取ることができたような気がしたんです。

お手紙の一つひとつから想像を膨らませる時間も、その人とつながっているような気がしてくるから不思議。だから、「やっぱりお手紙でないと」という場面があるんですよね。

※「おてがみぃと/贈り物はお手紙のクリスマス会」とは・・・ゆるやかにお手紙を書く時間を楽しむ会「おてがみぃと」。2019年12月のクリスマスに、誰かを想ってお手紙を書いてもらい、それぞれの方から託されたお手紙を、それぞれの方にクリスマスに届くように送りました。詳細はこちらでご覧いただけます。
(2020年10月取材)
<お話をうかがって>

津さんからバレンタインのお手紙の思い出をうかがって、お手紙の内容ははっきりと覚えていなくても、それを受け取った時の状況や感情は覚えていることがあるなと思いました。

私も中学生の時、好きな人にバレンタインのチョコレートを、お手紙も添えて手渡したことがあります。ホワイトデーには、キーホルダーと、薄紫色の紙切れに書かれたお手紙をもらいました。そのお手紙を見た時の画と手に持った感覚、家まで我慢できず、学校内で開けて読んだ状況などをはっきりと覚えています。

お手紙は、紙という物質を受け取り、その重みを感じながら、封を開けたり、便箋を出したりめくったり、再びなおしたりといった身体的な感覚や動きも伴うものです。だから、言葉や文面だけではない、受け取って読んだ時のシチュエーションも含めて記憶に残るのかなと、津さんのお話をうかがいながら思いました。

次回は「お手紙が『今、ここ』以外の世界とのつなぎ目編」。津さんが大学時代にどう生きていったらいいのかを悩んだ時、自分が興味のある生き方をしている方々とお手紙を通じてつながることができたというお話をうかがいます。
profile
レターセットや絵葉書、季節の切手を見つけるたび、「誰に書こうかな?」「あの人は元気にしているかな?」などアレコレ想像してはトキメク…自称・お手紙オトメです。「お手紙がある暮らし」について書き綴ります。
小森 利絵
フリーライター
お手紙イベント『おてがみぃと』主宰

編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』
 
『おてがみぃと』
『関西ウーマン』とのコラボ企画で、一緒にお手紙を書く会『おてがみぃと』を2ヵ月に1度開催しています。開催告知は『関西ウーマン』をはじめ、Facebookページで行なっています。『おてがみぃと』FBページ

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