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小森 利絵 フリーライター えんを描く
レターセットや絵葉書、季節の切手を見つけるたび、「誰に書こうかな?」「あの人は元気にしているかな?」などアレコレ想像してはトキメク…自称・お手紙オトメです。「お手紙がある暮らし」について書き綴ります。
おてがみじかん ライフスタイル 2025-03-19
1杯のコーヒーと、1通のお手紙と。思いを贈り合う、「お手紙コーヒー」
以前、「お手紙と私」インタビューで取材させていただいた津さんからこんなお手紙をいただきました。

小森さーん!!

今日の新聞にお手紙にまつわる素敵な記事があったのでお送りします。こんな風に“求めずに誰かを思う”ことで、差し出す人の心も満たされるのだなぁ。ここにも書いてありますが、SNSのスピード感とは違う時間の流れがお手紙にはあるのだと思いました。今年も会えたら!!

Reiko
記事に登場するのは、東京・西国分寺にある「クルミドコーヒー」。同店には、見知らぬ誰かにコーヒーとお手紙を贈る「お手紙コーヒー」というメニューがあります。そのメニューが誕生したいきさつや生まれているやりとりなどを拝読し、「見知らぬ者同士がこのお店でつながり、思いを贈り合う・・・なんて、素敵なのだろう!」と、心がときめいたのです。

以来、いつかうかがってみたい場所の1つになっていました。とはいえ、関西在住ですし、東京に行く機会はめったにありません。数年先かなと思っていたら・・・津さんからお手紙をいただいた9カ月後! 思いがけず、東京に行く予定が入ったのです。2024年9月にうかがいました。
クルミドコーヒーは、その名にもある通り“くるみ”がお店のシンボル。オーナーの影山知明さんの「この場所を通じたご縁から、くるみの木が、根を張り、枝を伸ばし、葉をつけ、花を咲かせ、実をつけるように自然とその形をなしていけたら」との想いが込められています。くるみ割人形のイラストが目印です。

一歩入ると、まるで絵本の世界に飛び込んだかのような気持ちになりました。というのも、木の温かみや素朴さを感じられる店内が、なんだか愛らしい雰囲気なのです。木のテーブルといすが並び、おもちゃがある小さなお部屋があったり、くるみ割り人形やリスの木の置物、木の実といったこまごまとしたものたちがあちらこちらに並んでいたり。私が座った2階の窓際の席からは、木々の緑が見えました。ここだけ、時の流れが違うようでした。

「お手紙コーヒー」というメニューは2種類あります。
1つは「お手紙コーヒーを贈る(ごちそうする)」。まだ見ぬ誰かにコーヒーとお手紙を贈ることができます。もう1つは「お手紙コーヒーを受け取る(ごちそうになる)」。まだ見ぬ誰かから贈られたコーヒーとお手紙を受け取ることができます。返事を書くことができ、お店の方がその贈り主に送ってくださるのです。

私は、まだ見ぬ誰かからのコーヒーとお手紙を受け取り、まだ見ぬ誰かへコーヒーとお手紙を贈ることにもしました。

まずは受け取ります。メニューから700円以下の価格のコーヒーを選んで注文(それとは別に、その時の旬だった“いちじく”を使ったクリームたっぷりのケーキも頼みました♪)。お手紙は店内2カ所に設置されたレターラックから選びます。「お手紙コーヒーをおくるのもお好き なあなたへ」「一生モノの友達に出会えた なあなたへ」「絹糸のお菓子のよう なあなたへ」など、同店を訪れた“誰か”が書き綴ったお手紙の数々。
私が手に取ったのは、「大学受験を控えた息子がいるシングルマザー なあなたへ」というSachiさんからのお手紙です。Sachiさんは、お子さんのオープンキャンパスの帰りに、以前から気になっていた同店に立ち寄られたとのこと。シングルマザーとしての日々について書かれていて、最後に子どもが笑顔で過ごせるように「お互いにがんばりましょう」というメッセージで締めくくられていました。

私には息子はいませんが、それ以外は一致(再来年に大学受験を控えた娘がいるシングルマザー)した上、ちょうどその夏、娘と一緒にあちらこちらへとオープンキャンパス巡りをしたところだったのです。だから、「あぁ! 私もこの夏、巡りました~」「がんばりましょうね!」と話しかけたくなりました。
Sachiさんがごちそうしてくださった1杯のコーヒーをいただきながら、お手紙をゆっくりと読んで、お返事を書くひとときは、想像の中でおしゃべりしているかのよう。

オープンキャンパスの帰り道だから、お子さんと一緒に来店されたのかな。お子さんはすんなりついてきてくれたのかなぁ(我が家の場合、私が行きたい場所には渋々しかつき合ってもらえないものだから・・・)。どのあたりの席に座られたのかな。このお店のことが気になっていたというから、日頃からお手紙を書くことが好きだったりするのかな。どんどん想像が膨らんでいきました。

今度は私が贈る番です。お手紙コーヒー用のハガキがあります。
上の部分には「贈る側」が、下の部分には「受け取る側」がメッセージを書けるようになっています。裏面は「贈る側」が住所を書いて、情報保護シールを貼るようになっていました。筆記用具もお貸しくださいます。

私はこんなお手紙を書きました。同店を訪れる前に、「『あ、私に書いてくれている! 自分宛てのお手紙だ!』と思うくらい、お手紙を受け取ってほしい相手を具体的に書くといいですよ」というアドバイスをどこかで見たので、だいぶお相手を絞ってみました(どこでそのアドバイスを見かけたのか、探してみたものの、見つからず)。
「高校2年生のお子さんがいる なあなたへ」

はじめまして! 知人に教えてもらって、はるばる兵庫県から来ました。今日「大学受験を控えた息子がいるシングルマザーなあなたへ」というお手紙を受け取り、このお手紙を書いています。仕事の出張で東京に来ていて・・・ここに来るまでの間、しばらく家を離れるということで、明日家に帰ったら、父も娘も元気でいたら、また笑顔で会えたら・・・とおおげさながらそんなことを願いました。少し離れるからこそ、当たりまえは当たりまえではないと感じます。日々、何があるかわかりません。いい日々を!! しあわせを祈っております。

こもより


あの日書いたお手紙を読み返しながら、あの日のことを思い出しました。 70代の父に「仕事で東京に行く」と話すと、未だに心配されます。父は10代からリウマチになる30代前半頃まで大工をしていて、東京といえば、高知から一大仕事をしに向かった場所。そのイメージが未だに残っているようで、「ちゃんとお金は持っているのか?」など気に掛けてくれます。私はもう40代なのに、父にとってはいつまで経っても子どもは子どもなのだと思いました。

父が私を心配するように、私は娘を心配します。出張で家を留守にする間に何かないか、こんな時に限って熱を出さないか、時々起きる腹痛を起こすのではないかと心配に。そんなことを考えていると、出張時に限らず、いつどんなことが起こるかなんてわかりません。常に背中合わせです。こうして出張という形で、いつもの場所から少し離れたことで、当たり前に思っていることは当たり前ではないのだと感じることができました。

そう感じたことを書き綴ったのですが、改めて読み返すと、なんのこっちゃわからない文章になっていますね。書き終わったお手紙は、店内にある木製の郵便ポストに投函します。
ちなみに「お手紙コーヒー」の「贈る(ごちそうする)」は、自宅からもできます。クルミドコーヒーの方が託したいメッセージを代筆してくださるのです。詳しくはオンラインストア「クルミド百貨店」をご覧ください。
⇒お手紙コーヒー(代筆編)
最後に。お店では、クルミドコーヒーオリジナルのポストカードも販売されていました。オープン当初の想いなどを手書きした「演出覚書」が印刷された1枚です。クルミドコーヒーに来た証として、素敵なことを教えてくださった津さんにお礼のお手紙を書き、カフェを出て最初に見つけた郵便ポストに投函しました。

あれから約7カ月が経ちます。“誰か”からのお返事はまだ届いていません。「あの日、私が受け取って心が和んだように。“誰か”にとってもそんなひとときになればいいなぁ」と願いながら。いつかつながるだろう“誰か”を想う・・・そんな豊かな時間が、今も続いています。
profile
レターセットや絵葉書、季節の切手を見つけるたび、「誰に書こうかな?」「あの人は元気にしているかな?」などアレコレ想像してはトキメク…自称・お手紙オトメです。「お手紙がある暮らし」について書き綴ります。
小森 利絵
フリーライター
お手紙イベント『おてがみぃと』主宰

編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』
 

著書『おてがみじかんで ほんの少し 心にゆとりを』

家族や友だち、仕事仲間、お世話になっている人、出会う人・・・・・・日頃、おしゃべりしたり、メールしたりして、気持ちや思いを伝え合っているつもりでいても、心に秘めたままのものがあったり、言葉にするのをためらっているものがあったりするものです。中には、自分でも気づけていない気持ちや思いもあるでしょう。

お手紙は、日頃は言葉として出てこない気持ちや思い、それに気づいて、認めて、改めて伝えるきっかけをくれるような気がします。なぜなら、お手紙を書く時間というのは、相手に思いを馳せて向き合うとともに、自分自身とも向き合うことになるからです。

お手紙を書くこと、やりとりすることで、「あ、わたし、こんなことを思っていたんだ」「あの人、こんなことを思ってくれていたんだ!」「あの出来事、こういうふうに感じていたんだ」と気づく機会となり、再びコミュニケーションを重ねていく“はじまり”のきっかけにしませんか?

本書は、著者の日常にある“お手紙というものがある時間”について書き綴ったエッセイです。この本を読んで、「あの人、元気にしているかな?」「あの人に改めて『ありがとう』という気持ちを伝えたいなぁ」など、ふと顔が思い浮かんだ“あの人”にお手紙を書いてみようかなぁと思っていただけたら嬉しいです。⇒amazon
 

『おてがみぃと』

『関西ウーマン』とのコラボ企画で、一緒にお手紙を書く会『おてがみぃと』を2ヵ月に1度開催しています。開催告知は『関西ウーマン』をはじめ、Facebookページで行なっています。⇒『おてがみぃと』FBページ

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