藤田 由布 婦人科医 レディース&ARTクリニック サンタクルス ザ ウメダ 生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、女性にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。 |
女性が「人工中絶」を選択する本当の理由 |
妊娠人工中絶のご相談で多いのが、こういった内容です。
● 妊娠が分かった途端に、相手の男性と連絡がとれなくなった ● 妊娠がわかった途端にパートナーの態度が変わった ● 相手が既婚者で、どうしても堕ろしてほしいと言われた ● 仕事が今とても順調で、今は産めない ● 仕事が不安定で先のことが見えず、今は産めない ● パートナーのことは大好きですが、私も相手も貯金がまったく無くて迷っている ● もう子供が2人いて、3人目は考えられない ● 年齢的に産むのはまだ早いと思った ● 予定していなかったため、妊娠で頭が真っ白になってしまった ● 親から反対されて、説得できなかった 実際、いろんな背景があります。 中には、女性の話を聞きながら驚愕してしまう相談内容もあります。 人工妊娠中絶は女性だけの問題ではありません。 しかし実際は、婦人科クリニックを訪れる時のほとんどのケースは、女性一人です。 「やはり妊娠継続できない」という選択を決断することは女性にとってとても辛いものです。
それがどんな理由であれ、心が動揺して茫然自失のような喪失感を抱いてしまうものです。 想定外の妊娠で、病院内の妊娠判定で陽性と告げられ驚いて「今は何も考えられない」と硬直した表情で立ちつくしてしまう、そんな光景も珍しくありません。 ここで、始めに言っておきます。 いいですか、どんな背景であろうと、私は貴女の味方です。 私は心斎橋の婦人科クリニックに勤務する医師として、毎日このような女性と向き合っています。 ここで書くのは全国の状況を代弁しているものではありません。 あくまでも私が勤務する婦人科診療所において肌で感じる所感です。 こんなケースもあります
最近、立て続けに中絶の相談に私の診療所を訪れるがカップルが数組いました。
男性はホストクラブ勤務で、女性はその常連のお客さん、という背景です。 なぜにその方が女性に付き添って女性に来院するのかは直接は聞きませんが、ご想像の通りです。 また、こういった女性もいました。 「緊急避妊ピルの存在は知っていたけど、休日だったので開いているクリニックが見つからなくてすぐに内服できなかった。」 先日はこんな女性もいました。
「オンライン処方で緊急避妊ピルを購入したけど届かなかった」 日本では、女性にとって避妊の選択肢へのアクセスは敷居が高いことが知られています。
男性用のコンドームはコンビニでも手軽に購入できるし、価格も安いです。 24時間どこでも簡単に手に入る男性避妊具とは違い、女性用の緊急避妊ピルは1万円ほどすることもあるし、医師の処方箋がないと入手できなかったりもします。 しかし、小さな小さな一歩が、日本でようやく動きました。
緊急避妊薬を医師の処方箋なしでの試験的な薬局販売を2023年11月28日に開始することとなりました。厚生労働省が日本薬剤師会に事業を委託して試験的実施な実現です。 しかし、各都道府県で要件を満たした調剤薬局2〜3店舗ずつ、全国計145店舗程度で販売する方針です。 はて、この大きな人口を抱える大阪府下で、合計たったの6店舗・・・ 大阪府下で緊急避妊薬を購入できる薬局6店舗は以下の通りです。
しかも、販売価格は7千〜9千円。16歳未満は試験販売の対象とせず、医療機関などを紹介する。16歳以上18歳未満は保護者の同伴が必須条件になる、とのこと。◆府薬会営 中央薬局 大阪市中央区和泉町1-3-8 TEL 090-5974-1306 ◆アカラ薬局 大阪市西区京町堀2-12-16 Plasir京町堀101 TEL 06-6448-6640 ◆森薬局 大阪市浪速区日本橋東2-10-13 TEL 06-6641-2829 ◆新京阪薬局 吹田市寿町1-3-12 TEL 06-6381-0448 ◆岡村薬局 吹田市垂水町1-21-1 TEL 06-6384-0374 ◆クローバー薬局 五月が丘店 吹田市五月が丘北25-40 TEL 06-6878-4790 参照:TBS NEWS DIG powered by JNN オンライン処方で入手できる毎日服用する「避妊ピル(低用量ピル)」の相場は1ヶ月分2000〜3500円です。
学生の身分だと「オンライン継続購入が難しい」と相談に来る女性もいます。 中絶に関する背景は人それぞれ様々な理由があり、冒頭に述べたとおり、経済的に困難だったり、持病が悪化したり、中には性暴力による妊娠だったりもします。 世界の先進国で、日本の女性だけが「避妊」という女性の当たり前の権利が、実に手の届きにくい遠い存在となっている現状なのです。 この状態がずっと放置されているのが、日本の女性が置かれた現状です。 中絶手術の実際
日本では妊娠初期(11週未満)の中絶手術は自由診療で約10〜15万円ほどです。
女性だけが診療所を訪れ、女性が中絶手術にかかる費用を支払うケースが多いです。 中絶は罰ではありません。 全ての女性には性と生殖に関する権利があります。 女性には産むかどうか、いつ産むか、産むなら何人産むかを決断する権利があります。 ただ残念なことに、日本の女性にはこういった権利があることを、未だにきちんと教わる機会がありません。 妊娠12週未満の場合は、以下の方法が日本では行われています。
ただし、経口中絶薬(メフィーゴパック)は妊娠9週未満でのみ使用します※。 ※経口中絶薬については大事なトピックですので今後のコラムでお伝えしようと思っています。 これが、今、日本の女性がおかれた現状です。 女性が自分の身体を守るため、健康に生活できるため、精魂込めて日々の診療に挑みます。 人工妊娠中絶に相手の同意が必要か?
人工中絶とは、妊娠22週未満に人工的に胎児およびその付属物を母体外に排出することをいいますが、認められるためには本人以外の同意が必要なことがあります。
婚姻関係がない女性は、相手の男性の同意は必要ではありません。 しかし、既婚者の場合は相手の男性の同意が必要となってきます。 ただし、配偶者が同意の意思を表示することができない場合や、妊娠後に配偶者が亡くなった時は本人の同意だけで足ります。 また、配偶者からの暴力による妊娠の場合も、ケースによりけりですが本人の同意だけで足りることがあります。 人工中絶が可能な時期
妊娠11週未満
安全に手術ができる時期ですが、7〜9週が最も安全に手術できる時期です。 妊娠6〜7週未満ですと、子宮頸管が硬く閉じていて手術が困難な場合があります。 妊娠12週以降 入院が必要となります。妊娠中期中絶となり、分娩を取り扱っている施設でのみ可能です。死産届や埋葬許可証が必要になり、費用も高額になります。 妊娠22週以降 法律上どのような理由であれ、人工中絶は不可能です。 妊娠9週未満で使用できる「経口中絶薬」については以下をご参考ください。
厚生労働省HP『いわゆる経口中絶薬「メフィーゴパック」の適正使用等について』 手術の方法
手術を安全に行うために吸引式手術法が推奨されています。
世界保健機構(WHO)も「真空吸引法」を推奨しており、今なお日本で取り扱われている「掻爬(そうは)」は止めるべきであると謳っています。 手術の方法と特徴
妊娠初期の中絶方法
妊娠12週未満の場合は、以下の方法が日本では行われています。
ただし、経口中絶薬(メフィーゴパック)は妊娠9週未満でのみ使用します※。 ※経口中絶薬については大事なトピックですので今後のコラムでお伝えしようと思っています。 手動真空吸引法(MVA) プラスチック製の吸引管(カニューレ)と手動式の真空吸引器を使用して子宮の内容物を吸い出す方法です。この方法ですと、子宮内膜を傷つけるリスクを軽減でき、帝王切開をした女性にとってもより安全に対応できます。
電動吸引法(EVA) 金属製の吸引管と電動式の吸引器を使用して子宮の内容物を吸い出します。吸引力の調整が可能という特徴がありますが、子宮筋腫や子宮奇形などがある場合は金属管の挿入が困難になる場合があります。プラスチック製より金属製の方がより硬いので子宮穿孔のリスクがやや高くなることもあります。
掻爬法(D&C) 子宮の頸管を拡張したあと、胎盤鉗子と金属製スプーンのような器具(キュレット)を使って子宮内容物を掻き出す方法です。子宮そのものや子宮内膜を傷つけてしまうリスクが高いので日本以外の先進国では取り扱われていない方法です。
私は海外の医学部で「掻爬法という野蛮な方法は、もうどの国でもやってない」と習ったのですが、日本に帰ってきてあちこちで行われていたので驚愕したのを覚えています。 人工中絶手術の流れ
手術前の注意点
・手術前は飲食は絶対禁止です ・メイクやネイルも禁止です ・手術前に排尿しておきましょう 1.手術前に子宮口に挿入していた頸管拡張材を抜去し、膣内を消毒します 2.点滴を開始、(痛み止めや吐き気止めの注射を始めからする場合もあります) 3.血圧計や経費酸素飽和度の測定器を装着します 4.静脈麻酔を開始、少しずつ眠くなっていきます 5.子宮口から吸引器を数回挿入して、子宮内容物を取り出します 6.子宮内に遺残がないことを超音波で確認して手術を終わります 7.子宮収縮剤などを点滴します 8.麻酔が覚めて痛みが持続する場合は痛み止め(坐薬や注射)を施行します 9.休養室に移動します(看護師がお連れします) 10.数時間ベッドで横になって、その後診察をして異常がなければご帰宅します 手術後の注意点 手術後は安静にして過ごしましょう アルコールは出血を増やしてしまうので術後の飲酒は控えましょう 手術後の夜のシャワーは可能ですが、湯船に浸かるのは控えましょう 手術後に大量出血や腹痛がある場合は手術を受けた施設に連絡しましょう 性行為は、手術から初めての月経がきてからにしましょう 今後の避妊について主治医と相談しましょう 人工中絶は女性の心と体に負担をかけるものです。 日本の男性はまともな性教育を受けていないので、女性は自分の体は自分で守っていかねばなりません。 避妊方法について分からない事があれば、いつでも主治医に相談してくださいね。 私たちは貴女の味方ですから。 |
藤田 由布
婦人科医 大学でメディア制作を学び、青年海外協力隊でアフリカのニジェールへ赴任。1997年からギニアワームという寄生虫感染症の活動でアフリカ未開の奥地などで約10年間活動。猿を肩に乗せて馬で通勤し、猿とはハウサ語で会話し、一夫多妻制のアフリカの文化で青春時代を過ごした。 飼っていた愛犬が狂犬病にかかり、仲良かったはずの飼っていた猿に最後はガブっと噛まれるフィナーレで日本に帰国し、アメリカ財団やJICA専門家などの仕事を経て、37歳でようやくヨーロッパで医師となり、日本でも医師免許を取得し、ようやく日本定住。日本人で一番ハウサ語を操ることができますが、日本でハウサ語が役に立ったことはまだ一度もない。 女性が安心してかかれる婦人科を常に意識して女性の健康を守りたい、単純に本気で強く思っています。 ⇒藤田由布さんのインタビュー記事はこちら FB:https://www.facebook.com/fujitayu レディース&ARTクリニック サンタクルス ザ ウメダ 副院長 〒530-0013 大阪府大阪市北区茶屋町8-26 NU茶屋町プラス3F TEL:06-6374-1188(代表) https://umeda.santacruz.or.jp/ |
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