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ザ・ロイヤルファミリー(早見和真)

親子の物語

ザ・ロイヤルファミリー
早見和真(著)
早見和真さんの『ザ・ロイヤルファミリー』を読みました。

おもしろいですよ、とお薦めいただいたのです。

物語は一人の男性の目線で進んでいきます。
栗須栄治 29歳。

大学では税理士を目指すサークルに所属し、在学中に会計科目と法人税法を取得。

26歳で税理士資格を取得し、現在は東京新宿にある大手税理士法人に所属してる。

かなり安定した身分と言えるが、栄治はその大手税理士法人を辞めて転職しようとしている。

そもそも栄治が税理士を目指したのは、個人で税理士事務所を経営している父親の影響だった。

栄治がまだ幼い頃に母が亡くなった。父親は栄治と兄を男手ひとつで育ててくれた。

その父を助けたい、いつか一緒に仕事をしたいと思って税理士になったのに、

田舎に戻る踏ん切りがつかず、もう少し東京で頑張ろうと思っているうちに父は亡くなってしまった。

自分はなんのために税理士になったのだろうか。

虚しさを覚え、転職を考えているときに、大学時代の友人とばったり再会。

彼を通して、大手人材派遣会社の社長に引き合わされることとなった。

社長は、転職を考えているのなら、うちに来いと言ってくれた。

多少強引な感じのする社長だし、見た目は全く似ていないのだが、栄治は彼に亡くなった父親を重ねた。

社長について行こう、社長の喜ぶ顔が見たい…

そんな気持ちで転職した栄治は数年のちに、社長の別の「事業」、競馬のマネジャーに抜擢されることになった。
(早見和真さん『ザ・ロイヤルファミリー』の出だしを私なりにご紹介しました)
この小説のほとんどのページは馬、サラブレッドに関する話で埋められています。

馬の購入、育成、調教、実際のレース、次にどのレースに出るのかといった戦略的なことまで。

私は阪神競馬場に2度か3度足を運んだことがあります。

その際一つのレースに300円から500円ほどの馬券を買いましたが、競馬には全くハマることがなく、

この小説を読んで知ったことがいくつもありました。

競走馬の名前はカタカナで二文字から九文字でなければならないこと。

サラブレッドのオーナー 馬主は「ばぬし」ではなく「うまぬし」と読むこと。

馬主になるには、色々な条件があること。

レース後、ウィナーズサークルで優勝馬を中心に行う記念撮影を「口取り式」ということ。

などなど。

また、栄治が社長と共に、牧場に足を運び仔馬を選ぶ場面や、優秀な仔馬をめぐり他の馬主と競り合う場面、競馬場での馬主席の様子、レースの展開など、全く知らない世界が描かれているのがまずは興味深かったです。

また、競馬には多くの人が関わっていることにも気付かされました。

生まれた仔馬を育てる牧場の人たち、それを購入する馬主、調教する人たち、その馬に賭けて応援するファン…

サラブレッド一頭一頭に多くの人の希望や夢が託されているのです。

ただ『ザ・ロイヤルファミリー』は単純な競馬小説ではありません。

親と子、父親と息子の物語が軸になっているところに胸打たれました。

サラブレッドを購入するとき、その仔馬が将来走るかどうか、強いかどうかを判断する基準は主に血統なのだそうですね。

誰の子ども(仔馬)なのか、親子関係が非常に重要な要素です。

一方、人間世界では親子の関係は色々です。

栄治のように、親孝行するつもりで職業を選んだのに、実行するまでに死に別れてしまう親子もあれば、

親とは全く違う道に進もうとする子どももいます。

また、知らず知らず親と同じ道に進んでいる子どもも。

そんな色々な親子像がこの小説に深みを与えていると思いました。

この小説を読んで、競馬場のパドックで馬のどういうところに注目したらいいかわかった気がします。

もし次に競馬場に行くことがあったら、数百円ではなく1000円分の馬券を買おう、そう決めました。
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【パーソナリティ千波留の読書ダイアリー】
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ザ・ロイヤルファミリー
早見和真(著)
新潮社
お前に一つだけ伝えておく。絶対に俺を裏切るなー。父を亡くし、空虚な心を持て余した税理士の栗須栄治はビギナーズラックで当てた馬券を縁に、人材派遣会社「ロイヤルヒューマン」のワンマン社長・山王耕造の秘書として働くことに。競馬に熱中し、“ロイヤル”の名を冠した馬の勝利を求める山王と共に有馬記念を目指し…。馬主一家の波瀾に満ちた20年間を描く長編。山本周五郎賞受賞作! 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

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ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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