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ジョゼと虎と魚たち(田辺聖子)

さすがおせいさん!

ジョゼと虎と魚たち
田辺 聖子(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

今回は、田辺聖子さんの『ジョゼと虎と魚たち』をご紹介しました。

私は田辺聖子さんにとても親しみを持っています。宝塚大劇場や、たまたま行った神戸ポートピアホテルのロビーでお見かけしたことがありましたし、伊丹市の住民だということも存じ上げていたので。

私の田辺聖子さんデビューは15歳の時。たまたま家にあった『中年ちゃらんぽらん』を読んだのが最初でした。

その時、なんとスラスラ読める小説なんだろうとびっくりしました。

以後、田辺さんの……というと他人行儀だわ。ここは「おせいさん」とお呼びしたい。

以後、おせいさんのどの小説を読む時にも同じことを感じてきました。

関西弁のせいかもしれませんが、とっても読みやすい。

だからと言って中身が軽いかといえばそんなことはなくて、私がおせいさんの作品の中で最も好きな『不機嫌な恋人』などは、読み終わった後、心が痺れたようになり涙が出てきて、何もしたくない気分に浸りました。

スラスラ面白く読める易しい文章の中に、人生の深淵がある、それが田辺聖子さんの持ち味だと私は思っています。

田辺聖子さんは色々な文学賞を受賞されています。

とにかく面白いので、私はてっきり直木賞を受賞されているのだろうと思い込んでいましたが、田辺さんは芥川賞作家なんですねぇ。1964年に『感傷旅行(センチメンタル・ジャーニイ)』で第50回芥川賞を受賞されています。

そのおかげで田辺さん自身 一時は「純文学」のプレッシャーに取り憑かれてしまったそうですが、早いうちにそのプレッシャーから脱却して、何作も面白い作品を書いてくださって良かった良かった。

『ジョゼと虎と魚たち』は田辺聖子さんの作品の中でも人気の高い作品だそうですが、私はなぜか今まで読んだことがなかったのです。図書館だよりで取り上げていただいたおかげで読むことができました。『ジョゼと虎と魚たち』は、「さすがおせいさん!」と言いたくなるほど面白い短編集です。

収められているのは表題作を含む9作品。全て主人公が女性の恋愛小説です。

タイトルをご紹介しましょう。
・お茶が熱くてのめません
・うすうす知ってた
・恋の棺
・それだけのこと
・荷造りはもうすませて
・いけどられて
・ジョゼと虎と魚たち
・男たちはマフィンが嫌い
・雪の降るまで
(田辺聖子さん 『ジョゼと虎と魚たち』目次より引用)
どの主人公もなかなか個性的ですが、特に印象的だったのは『恋の棺』の主人公 宇禰(うね)です。
宇禰はインテリア関係の仕事をしている29歳バツイチの女性。

最近、19歳の甥っ子、有二が可愛くてならない。有二は宇禰に特別な関心があるようだ。

宇禰はそんな有二を好ましく思い、からかったりしてみる。

するとますます有二は宇禰に夢中になるのだ。

宇禰は夏休みを他の人とはずらして9月に取る。

今年は六甲山ホテルで4、5泊するつもりだ。

そのことを知った有二は、僕も一晩泊めて欲しいと言い出した……。
(田辺聖子さん『ジョゼと虎と魚たち』内「恋の棺」の出だしを私なりに紹介しました)
不穏なストーリーでしょう?

甥っ子が叔母に恋愛感情を抱いているのです。

有二の母親、つまり宇禰の姉と宇禰は母親違いとはいうものの、これって法律的にどうなんでしょうか。問題がある気がします。

それでなくても10歳年下の若い男の子をからかってその気にさせるとは、罪が深い気がしますよ。

宇禰が「夏休み」を過ごす六甲山ホテルっていう舞台も良い。

六甲山は標高がめちゃくちゃ高いわけではありません。神戸や西宮からも近くて、車で行けばすぐに着く場所なのですが、木々に囲まれた、別荘のようなホテルは非日常を楽しめる場所。

それに、今は知りませんが、この小説が書かれた昭和の時代、六甲山のドライブといえば恋人のデートコースの一つだったのです。

そこに、想いを寄せてくれる若い男の子と二人っきりで泊まるなんて、その先どうなるんだろう、と想像しちゃいますよ。

下手をすればめちゃくちゃ淫靡な展開になりそうなこのお話、ちっともいやらしくありません。これは田辺聖子さんの作品の特徴で、どんなセクシーな場面でもいやらしさを感じさせないのです。

そして何より、結末近くに明かされる宇禰の心づもりがすごい。

同じ女性として「え?!この状況からそんなことができるの?私だったらとても無理だわ」と思わずにいられません。

ちなみに、巻末の「解説」を書かれた山田詠美さんもこうおっしゃっていますよ。
その中でも特に、私が好きでたまらないのは「恋の棺」という短編である。
(田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』P262 解説 山田詠美 より引用)
山田詠美さんが「恋の棺」を選ぶのがわかるわ!!

山田詠美さんの小説にもちょっと通じるところがあると思う。

ちなみに、私はこの短編集の中に結構セクシーな描写が出てくるたびに「この文章を瀬戸内寂聴さんや山田詠美さんが書いたっていうならわかるんだけど、あのほんわかした外見の おせいさんがこれを書くっているのが不思議なのよねぇ」と思っていました。

ですから、巻末の解説が山田詠美さんだと知った時には嬉しくて!

そして解説の文章の素晴らしさにも感服。

単なる解説ではなく、短編を読ませていただいた気分になりました。

『ジョゼと虎と魚たち』を読まれたら、絶対に山田詠美さんの解説もお読みになることをお勧めします。

2019年、91歳でお亡くなりになった田辺聖子さん。

私がまだ読んでいない作品がいくつかあります。

ぜひ拝読しなくては。
stand.fm
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【パーソナリティ千波留の読書ダイアリー】
この記事とはちょっと違うことをお話ししています。
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ジョゼと虎と魚たち
田辺 聖子(著)
KADOKAWA
足が悪いジョゼは車椅子がないと動けない。ほとんど外出したことのない、市松人形のようなジョゼと、大学を出たばかりの共棲みの管理人、恒夫。どこかあやうくて、不思議にエロティックな男女の関係を描く表題作「ジョゼと虎と魚たち」。他に、仕事をもったオトナの女を主人公にさまざまな愛と別れを描いて、素敵に胸おどる短篇、八篇を収録した珠玉の作品集。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

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ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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