永遠のおでかけ(益田ミリ)
泣けない自分を肯定する気持ちになれました 永遠のおでかけ
益田ミリ(著) ああ 卒業式で泣かないと 冷たい人と言われそう
(作詞:松本隆 作曲:筒美京平 『卒業』より引用) そう歌ったのは、斉藤由貴さん。
私はここ何年も、お葬式で泣いたことがありません。 とても親しくしていた人だったとしても、涙が出ないのです。 その度に、この歌詞を思い浮かべては、ああ、私って冷たい人と思われているかも、と思っていました。 だけど、涙が出ないのに泣きまねをするわけにもいきません。 いつ頃から葬儀で泣かなくなったのか、考えてみると、一年のうち、結婚式に参加するよりも、お葬式に参列する数が多くなった頃からだと思います。 慣れてしまって涙が出ないのではありません。 お別れの場面、お葬式は悲しいし、寂しいのですが、それよりも私の心をよぎるのは「ああ、人間って一人の例外もなく、いつかは亡くなるんだな」という思いです。 そう思うと、私より先に人生の幕を閉じた方々に手を合わせ「お疲れ様でしたね。今は苦しみや悲しみから解き放たれて、安らかに眠っておられますよね」と、しみじみと語りかけたい気持ちになります。 私もいつか、このように永遠の眠りにつくのだな、と噛み締めるような気持ちといえばいいでしょうか。 益田ミリさんの『永遠のおでかけ』は、永遠に旅立たれたお父様とミリさんが最後に過ごした日々のエッセイです。 急激に体調が悪化し、救急搬送されたミリさんのお父様に下された診断は「がんで余命半年」というもの。病院でそれを聞いたのはミリさんとお母様。 病名をお父様本人に告知すべきかどうか、ミリさんとお母様はその場で決めかね、妹さんと相談します。 ご家族の気持ちをお察しするだけで胸が詰まる気になります。ミリさんも、肉親3人が家で話したら感情的になってしまうと判断し、外で話そう、ということに。そしてデパートのレストラン街の甘味どころで話し合ったのでした。 これこれこうで、お父さんに告知する?
主治医とのやりとりを説明したのは、わたしである。3人でしんみりしつつも、わたしと母は甘みをパクついているのだった。 (益田ミリさん『永遠のおでかけ』 P26-27より引用) 深刻さや悲しさと、食欲やおかしみがないまぜになっているのがリアルな生活であり人生であることを、益田ミリさんは繰り返し書かれています。
最もそれが顕著なのは、お父様の葬儀後、火葬場に送り出したお父様を待つ間のこのシーン。 『ポケモンGO』のモンスターは葬儀場にも出てくるのか、という話題になり、みなでやってみたら何匹か出てきてゲット。父が生きていたら、こういう私たちを絶対におもしろがってくれていたと思う。そういう人だった。
(益田ミリさん『永遠のお出かけ』P78) 私は『永遠のおでかけ』を読んで、お葬式で泣けない自分を肯定する気持ちになれました。
これからも私は私なりに故人を偲び、お別れすればいいんだわ。 それにしても、お父様の死を「永遠のおでかけ」と表現された益田ミリさん、素晴らしいです。 永遠のおでかけ
益田ミリ(著) 毎日新聞出版 がんにかかり余命幾ばくもないと言われた父。普段どおりの生活を送りながら、気負わず、でも、かけがえのない時間を父と過ごしたいと願う私。やがて父はこの世界から旅立っていき、ささやかなお葬式が執り行われた。悲しみは波のように現れては消える。私の感情は、どこへ向かうのか? 著者渾身の書き下ろしエッセイ。 出典:楽天 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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