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プリズン・ブック・クラブ コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年(アン・ウォームズリー)

人と本を読む楽しさと意義を改めて教えてくれる

プリズン・ブック・クラブ
コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年

アン・ウォームズリー(著)
「本の味わいかたを学ぶのは、ワインについて学んで目利きになるのと似ている……。それまで持ってた薄っぺらな知識に疑問を抱く。すると、ほんものの文学とか、オークの木の重厚さとか、深い味わいとかを求めはじめるんだ。単なるワクワク感じゃなくて。」

「読書会では本のなかの世界を追体験できるんだけど、それはほかのメンバーの目を通してなんだ。この読書会がすごくおもしろいのは、自分では気づきもしなかった点をほかのやつらが掘り起こしてくれるからさ。」
これはカナダのコリンズ・ベイ刑務所読書会メンバーの言葉です。

本書は、ジャーナリストであるアン・ウォームズリーが、2011年から12年にかけて、カナダの刑務所で開かれている読書会にボランティアで参加したときの記録です。

著者は、ある日、友人のキャロル・フィンレイから、刑務所読書会に来てみないかと誘われます。キャロルは、2008年にコリンズ・ベイ刑務所内に囚人をメンバーとする読書会を立ち上げたエネルギッシュな女性です。アンが家族の介護やリストラに疲れ、「少しばかり行きづまっている」のをみて、新たな世界に連れ出してくれたのです。

アンは、刑務所内で囚人と同席するなど、自分にはとても無理だと思いました。以前ロンドンに住んでいたとき、自宅前の路上で強盗に襲われて気絶した経験があり、そのトラウマに悩まされてきたからです。それでも、囚人たちが本を読んでどんな話し合いをするのかという好奇心が、「薄皮一枚分」上回り、アンは読書会に参加することにしました。

コリンズ・ベイ刑務所の読書会は月に一回開かれます。メンバーは十数人で固定しています。新規メンバーを補充するときは、参加者がこれはと見込んだ人を誘います。この方法は読書会の質を維持するのに効果的なようです。

読書会で取り上げる本は、けっこう読みごたえのあるものが多いようです。刑務所にいるなら時間はたっぷりあるだろうと思いきや、実はそうではありません。厳格な日課があるので、自由時間は案外少ないのです。作業場での仕事だったり、点呼だったり、ときには危険物がないか、部屋をくまなく捜索されるときもあります。それでも意欲的なメンバーは本を読み込み、その本の著者の他の著作まで読んでくることもあります。

さて、強盗や麻薬の使用・売買、殺人罪などで服役している受刑者たちは、いったいどんな感想を口にするのでしょうか。著者の先入観は裏切られました。犯罪や家庭内暴力、女性への抑圧が書かれた本では、受刑者たちは被害者に同情し、女性の意志の強さや行動力に共感し、高いモラルを示します。相当読み込んでいないと気がつかないような細部への言及や鋭い分析もしばしば語られます。

著者は、ニュース雑誌の記者として、個人的な見解をはさまず事実だけを伝えることに慣れてしまっていました。ところが、読書会でメンバーたちがそれぞれ自分の考えを口にし、互いの意見を聞いて、ときには見かたを変えていくのを目の当たりにするうち、著者も、みずからの考えを突きつめて、意見として表明できるようになっていきます。

たとえばダイアン・アッカーマンの『ユダヤ人を救った動物園』の回では、次のような感動的な発言がありました。「善は悪より伝染しやすい。だから、『たしかにここは危ない状況だけど、自分たちも人を助けなきゃいけない』という思いがどんどん広がっていくんだ」。

「文学的素養や共感や他者と触れ合うすべを身につけることが贖罪の一環」であるというキャロルの信念に呼応するような言葉です。

コリンズ・ベイ刑務所から、他の刑務所に移っていった読書会メンバーは、移動先でも読書会を立ち上げます。さらには、出所後、社会復帰施設でも読書会を立ち上げました。これなどは読書会の目に見える大きな成果でしょう。

キャロルの活動はその後も順調に拡大し、現在はカナダ全土の36の刑務所で読書会が開かれています。(公式サイトBook Clubs for Inmates)

本書には、たくさんの魅力的な本が登場します。巻末には、本書に出てきた本の一覧が邦訳情報と合わせてまとめられています。読書会の進め方としても参考になる点がたくさんあります。本の持つ力にあらためて心躍る一冊です。

類書に、ミキータ・ブロットマン『刑務所の読書クラブ 教授が囚人たちと10の古典文学を読んだら』(原書房 2017年)アヴィ・スタインバーグ『刑務所図書館の人びと ハーバードを出て司書になった男の日記』(柏書房 2011年)があります 。
プリズン・ブック・クラブ コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年
アン・ウォームズリー(著)
紀伊國屋書店(2016年)
読書会運営に関わったカナダ人ジャーナリストによる胸に迫るノンフィクション!彼らが夢中になっているのはもはや麻薬ではなく書物なのだ。囚人たちの読書会。 出典:amazon
profile
橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師

同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。
BLOG:http://chekosan.exblog.jp/
Facebook:nobuko.hashimoto.566
⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら

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