たおやかに輪をえがいて(窪美澄)
10年後の自分のためにするかしないか たおやかに輪をえがいて
窪美澄(著) 主人公は52歳の専業主婦 絵里子。2歳年下の夫と大学2年生の娘 萌との3人暮らし。
夫は仕事に忙しく、萌もアルバイトで忙しく夜中に帰ってくることも珍しくない。 絵里子はホームセンターでパートをしながら、炊事洗濯家事をこなし、忙しい夫と娘を支えていた。 ある日、吊るしてあった夫のスーツのポケットから、風俗店のスタンプカードがこぼれ落ちた。 仕事が忙しいと言いながら、夫は頻繁に風俗店に通っていたのか? 夜中に帰ってくることが多い萌は、注意すると反抗的な態度だ。あることがきっかけで絵里子はついに爆発し、一人で家を出て自分を見つめ直すことにした。 (窪美澄さん『たおやかに輪をえがいて』の出だしを私なりに紹介しました) 私は絵里子が家を出るきっかけが、どうにも納得できませんでした。
夫が足しげく風俗に通っていた、それがショックで家出してしまうのです。 風俗に通うことと、浮気とどちらがひどいことだろうか、なんてくよくよ悩み、離婚しようか迷うとは、年の割に幼いな、という印象です。 私ならまずは夫にスタンプカードを突きつけて「どういうこと?!」と問い詰め、大げんかすることでしょう。 そして、絵里子が考える「風俗に通うことと浮気とどちらがひどいことか」については、そんなことは比べるべくもなく浮気の方が許しがたいに決まっていると思いますワ。 と、まあ、家出をしたところまでは、主人公に全く気持ちを寄せることができなかったのですが、それ以降の絵里子の成長ぶり(?)はなかなか良かったです。 絵里子はまずは経済力を身につけようとします。 これまで義務的に用意していた食事も、一人暮らしの中、自分が食べたいものを自分のために作って食べる、それがとても気持ちの良いことだと気がつきます。 そして、何より、身ぎれいになっていくのが良いのです。 絵里子の自立には、高校時代の同級生との再会が大きな影響を与えています。 彼女の経営するランジェリーショップを手伝うことで前に進むことができるようになるのです。 ランジェリーショップは女性相手の接客業。 決して安くない値段の下着を買いに来るお客様に対するのに、店員が垢抜けないようではいけないと気づく絵里子。 ホームセンターでパート勤務をしていた時は、下地クリームを塗った後、眉毛だけ書いて出勤することも珍しくなかったのに、きちんとメイクをし、爪の手入れをしたりネイルを施したりするようになります。 そんなふうに自分を丁寧に扱うことで、どんどん自分に磨きがかかってくることを自覚する絵里子には共感することができました。 物語の結末は、絵里子の家出のきっかけと同様、甘い気がするけれど、読後感は悪くありませんでした。 ところで、私がこの小説を読み終わって最初にしたことは、シートパックを買いに行くことでした。 というのも絵里子がシートパックをする場面があるのですが、それはランジェリーショップのお得意さんである高齢女性から「10年後の自分の肌のために、朝夕シートパックをしなさい」と助言されたから。 私は新型コロナウィルス流行後、ほとんどエステに行っていません。 セルフケアも十分していなくて、10年後の自分の肌を想像し、ゾッとしてしまいました。 絵里子が素直に助言に従ったように、私もやってみることにします。 考えてみれば「10年後の自分のために」は美容だけに限りません。 日頃の習慣を、短期的に考えるのではなく、10年後の自分のためにするかしないかを決めるのはなかなか良いことかもしれませんね。 たおやかに輪をえがいて
窪美澄(著) 中央公論新社 風俗に通う夫、不実を隠した父、危険な恋愛に耽る娘…夫の心も、娘の顔も、今は見たくない。結婚20年、主婦・絵里子の人生は穏やかに収束するはずだった。次々つきつけられる思いがけない家族の“真実”。大きな虚無を抱えた絵里子に、再び命を吹き込むのは整形した親友、乳癌を患った老婦、美しい風俗嬢…?人生の中盤、妻でも母でもない新たな道が輝き出す傑作長編。 出典:楽天 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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