注文の多い注文書 (小川洋子)
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![]() そもそもこれは小説なんだろうか…風変わりな作品 注文の多い注文書
小川洋子(著) きっとタイトルをごらんになった時に、連想するのは、宮沢賢治の『注文の多い料理店』ではないでしょうか。私もそうでした。
『注文の多い料理店』は、常識から外れた発想の物語でしたが、『注文の多い注文書』も、とても風変わり、普通ではない小説でした。そもそも、これは小説なんだろうか……と首をかしげるような。 冒頭、読者は著者に連れられ、細い路地を曲がり、<クラフト・エヴィング商會>の前に立つことになります。そこに掲げられた看板は「ないもの、あります」。 扱っている商品は、得体の知れないものばかり。しかも、依頼すればどんなものでも取り寄せてくれるというのです。それを聞いて安心した著者は切り出します。 「じつは、昔、読んだ本に出てきたものなんですがー」
(『注文の多い注文書』冒頭より引用) こうして一話ごとに、
小川洋子からの「注文書」 クラフト・エヴィング商會からの「納品書」 そして小川洋子の「受領書」 という形式で進んでいきます。 case 1 人体欠視症治療薬 case 2 バナナフィッシュの耳石 case 3 貧乏な叔母さん case 4 肺に咲く睡蓮 case 5 冥土の落丁 (唯一、case5 のみ「受領書」がありません。) それにしても、風変わりなものばかり注文しています。 人体欠視症とは、人の体だけが見えなくなる症状。 そんなことが本当にあるの?! 冒頭の文言にあるように、それぞれ元になる小説があるんですねぇ。 『人体欠視症治療薬』は、川端康成の『たんぽぽ』 『バナナフィッシュの耳石』は、J.D.サリンジャー『バナナフィッシュにうってつけの日』 『貧乏な叔母さん』は、村上春樹『貧乏な叔母さんの話』 『肺に咲く睡蓮』は、ポリス・ヴィアン『うたかたの日々』 そして 『冥途の落丁』は、内田百閒『冥途』。 情けないことに、私はどれ一つ読んだことがなく、元の小説を読んでいたら、より一層楽しめるのに、と思いましたよ。 さてそんな風変わりな「注文書」に対して、クラフト・エヴィング商會からは、商品の写真を添えた納品書が届きます。 およそこの世にあるとは思えないものが、きちんと納品されている不思議。もしかしたら私が知っている世界は本当に狭い範囲で、世の中には本当にこういうものが存在するのかもしれない……と、クラクラするような気分を味わえました。 私は最初、クラフト・エヴィング商會からの文章も小川洋子さんが書かれたものかと思っていましたが、違いました。 クラフト・エヴィング商會とは、吉田浩美さんと吉田篤弘さんによる、実在する制作ユニットなのでした。文章とイメージを組み合わせた独創的な作品を発表したり、装丁デザインを多数手がけておられるのだとか。 つまりこの作品は、小川さんとクラフト・エヴィング商會のコラボ、キャッチボールなわけです。 私のつたない説明では、この作品の風変わりさ、一種独特な魅力を伝えられません。 ぜひご自身でお読みください。 ![]() ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』 |
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