HOME  Book一覧 前のページへ戻る

すれ違う背中を(乃南アサ)

二人のこれからが気になる

すれ違う背中を
乃南アサ(著)
以前読んだ小説を、気付かずに二度読んだ経験はありませんか?私は時々あります。

小説を選ぶときはまず、著者名、タイトルをチェック。そして冒頭の2、3ページをペラペラっとめくって決めているのに、なぜ気がつかないのか。

割と早めに気がつくときもありますが途中何度か「あれ?この話、以前にも読んだことがあるような…」と思いながらも、展開の面白さに引き込まれて読み続け、残すところあと数ページになってから「ああっ!!私この本読んだことがある!」と確信したときの情けないことったら。

でもまぁ、二度とも面白く読めたのだから、この作品は本当に面白いってことだなァと、著者に尊敬の念を覚えるのではありますが。

久々に「ああ、もしかしてまたやってしまったか?」と思ったのは、乃南アサさんの『すれ違う背中を』でした。
芭子(はこ)ちゃんと綾子さんはムショ仲間。それぞれ別の事情で塀の向こうに落ちた。二人はそれぞれ刑期を務めあげ、出所後はまっとうに生きようと努力している。綾子さんは早朝からパン屋さんで働き、いつか自分の店を出そうと一生懸命だ。

芭子ちゃんはペットショップでのアルバイト。ふとしたきっかけからペットの洋服を作ったら、これが評判になり、もしかしたら将来は本業にできるかも、という夢が持てるようになった。

贅沢はしない二人だが、ときどきは居酒屋さんでささやかに乾杯するのが楽しみだ。それでも ふとしたきっかけで周囲の人に「過去」を知られたら…と、いつも不安に思っているのだった。(乃南アサ『すれ違う背中を』のあらすじを大まかにまとめました。二人をめぐる様々なできごとについては明かしていません)
ん?刑務所仲間の女性二人が主人公の小説?私絶対に読んでるわ、これ。そう思うのだけど、一話一話のエピソードに覚えがありません。

本当に忘れっぽくなっちゃって嫌だなぁ。しかし内容を覚えていないから、先が気になる。いいや、二度目でも、とても面白いから最後まで読んじゃえ!!

読み終わってやっとわかりました。11年前に読んだ同じく乃南アサさんの『いつか陽のあたる場所で』の続編だったのでした。

どうりで、ヒロイン二人に見覚え(読み覚え)があったわけです。そのときの感想は、私にしては短文ですが、星5つつけています。とても気に入ったのですね。

人生に起こるどんなことにも無駄なことはないとよく言いますが、芭子ちゃんもそう。

アルバイト先のペットショップで、既製品のペットの洋服についてあれこれ聞いているうちに「私が作ってみましょうか?」と言えたのは、塀の向こうでミシンかけを習ったから。

学校の家庭科実習とは違い、刑務所の裁縫は商品が売り物になるだけに、品質チェックはかなり厳しいのですって。

社会復帰をにらんで、受刑者の手に職をつけることと、ささやかであっても売上を上げることが目標ですからね。

そんなことで、芭子ちゃんが作ったものは既製品より安いし、デザインも画一的ではなく技術も伴っているから、ペットショップのお客様が喜んで買っていくのです。

売れれば次はもっと良いものを作ろうと張り切る芭子ちゃん。良い循環が生まれているのが、とても嬉しくなってくる。

犯した罪は罪として、二人の第二の人生にエールを送らずにはいられないのは、乃南アサさんの人物造形がすばらしいからだと思います。芭子さん、綾子さんは読者に評判が良いのですって。

『すれ違う背中を』の続き(完結編)もあるそうで、もちろんそれも読むつもりです。
すれ違う背中を
乃南アサ(著)
新潮社
パン職人を目指して日々精進する綾香に対して、芭子はアルバイトにもなかなか採用されない。そんなある日、ビッグニュースが!綾香が商店会の福引きで一等「大阪旅行」を当てたのだ。USJ、道頓堀、生の大阪弁、たこ焼き等々初めての土地で解放感に浸っていた彼女たちの前に、なんと綾香の過去を知る男が現れた…。健気な女二人のサスペンスフルな日常を描く人気シリーズ第二弾 出典:楽天

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon



OtherBook

千波留の本棚

本好きが集まって作りあげた面白い本

その本は(又吉直樹/ヨシタケシンスケ)

千波留の本棚

自分だけの仮想空間

私が本からもらったもの(駒井稔)

千波留の本棚

生まれる時代を間違えたのか

八本目の槍(今村翔吾)




@kansaiwoman

参加者募集中
イベント&セミナー一覧
関西ウーマンたちの
コラム一覧
BookReview
千波留の本棚
チェリスト植木美帆の
[心に響く本]
橋本信子先生の
[おすすめの一冊]
絵本専門士 谷津いくこの
[大人も楽しめる洋書の絵本]
小さな絵本屋さんRiRE
[女性におすすめの絵本]
手紙を書こう!
『おてがみぃと』
本好きトークの会
『ブックカフェ』
絵本好きトークの会
『絵本カフェ』
手紙の小箱
海外暮らしの関西ウーマン(メキシコ)
海外暮らしの関西ウーマン(台湾)
海外暮らしの関西ウーマン(イタリア)
関西の企業で働く
「キャリア女性インタビュー」
関西ウーマンインタビュー
(社会事業家編)
関西ウーマンインタビュー
(ドクター編)
関西ウーマンインタビュー
(女性経営者編)
関西ウーマンインタビュー
(アカデミック編)
関西ウーマンインタビュー
(女性士業編)
関西ウーマンインタビュー
(農業編)
関西ウーマンインタビュー
(アーティスト編)
関西ウーマンインタビュー
(美術・芸術編)
関西ウーマンインタビュー
(ものづくり職人編)
関西ウーマンインタビュー
(クリエイター編)
関西ウーマンインタビュー
(女性起業家編)
関西ウーマンインタビュー
(作家編)
関西ウーマンインタビュー
(リトルプレス発行人編)
関西ウーマンインタビュー
(寺社仏閣編)
関西ウーマンインタビュー
(スポーツ編)
関西ウーマンインタビュー
(学芸員編)
先輩ウーマンインタビュー
お教室&レッスン
先生インタビュー
「私のサロン」
オーナーインタビュー
「私のお店」
オーナーインタビュー
なかむらのり子の
関西の舞台芸術を彩る女性たち
なかむらのり子の
関西マスコミ・広報女史インタビュー
中村純の出会った
関西出版界に生きる女性たち
中島未月の
関西・祈りをめぐる物語
まえだ真悠子の
関西のウェディング業界で輝く女性たち
シネマカフェ
知りたかった健康のお話
『こころカラダ茶論』
取材&執筆にチャレンジ
「わたし企画」募集
関西女性のブログ
最新記事一覧
instagram
facebook
関西ウーマン
PRO検索

■ご利用ガイド




HOME