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ひこばえ(重松清)

老いや親子関係について考える

ひこばえ
重松清(著)
「ひこばえ」とは樹木の切り株や根元から生えてくる若芽のことです。
洋一郎は55才にして「おじいちゃん」になろうとしている。嫁いだ娘 美菜の出産が迫っているのだ。今日なのか、明日なのか、いつ生まれるかわからないので、仕事中もスマートフォンを手元に置いている。

妻の夏子は、美菜のサポートに余念がない。長男の航太は高校教師で今年から担任を持ち、忙しそうだ。家族の仲も良く、まずまず幸せな一家ではないかと思っている。

そんな時、洋一郎に思いもかけない知らせが入る。洋一郎が小学校2年生の時に家を出て、その後一度も会っていない父親が死亡、遺骨の引き取り手がないというのだ。

父は再婚することなく、ずっと一人暮らしだったらしい。親切な大家さんが死後のことを取り仕切ってくれ、大家さんが親しくしているお寺で遺骨を預かってくれているという。

そもそも家族を捨てるように出ていった父親だ。今頃そんなことを言われても、と当惑する洋一郎。しかし実の子として知らぬ顔もできず、洋一郎は大家さんを訪ねる。驚いたことに、父が住んでいたのは、洋一郎の家からさほど遠くない街だった。

父は町の図書コーナーに頻繁に通っていて、近所の子どもたちからは「カロリーヌ爺さん」と呼ばれていたらしい。そして生前、たった1冊だけの「自分史」を作ろうとしていた…

40年以上会った事がなく、ほとんど思い出がない父のことが、少しずつわかってくるのだった。
(重松清さん『ひこばえ』上下巻の出だしを私なりにまとめました)
私は読み始めてすぐにストーリーに没頭する事ができました。

というのも、主人公の洋一郎と同じ時代を生きているからです。

洋一郎は1963年3月生まれ。学年は違うけれど同じ年なのです。

小説の最初に出てくる1970年の大阪万博について、洋一郎の思い出話だけでも懐かしくて胸がいっぱいに。

それ以上に、声をあげそうになるくらい嬉しかったのは、洋一郎と姉が、子どもの頃大好きだった本についてのくだり。

”カロリーヌちゃんシリーズ”が大好きだったというのです。

『カロリーヌとおともだち』
『カロリーヌのつきりょこう』
『カロリーヌのせかいのたび』

どれもこれも、懐かしい!!

私もカロリーヌちゃんシリーズの童話が大好きでした。

カロリーヌちゃんと一緒に冒険する「おともだち」は犬や猫などの動物。

幼い頃から動物好きだった私にとって、それはもう楽しく嬉しい絵本童話でした。

特に、白ねこのプフと黒猫のノアローが大好きでした。

大学に入学してフランス語の授業で黒色がnoir(ノワール)だと習った瞬間、私の頭の中でリンゴンリンゴン鐘が鳴りました。

「そうか!黒猫のノアローは”クロ” ”クロベエ”って意味だったんだ!」と。

大きくなってもそんなふうに覚えていたカロリーヌちゃんシリーズとまさか小説の中で再会できるなんて!

しかも主人公姉弟もカロリーヌちゃんよりむしろプフとノワローが好きだったとは!

小説の世界がぐっと自分に迫ってきましたよ。

ちゃらんぽらんだった父親。

小学2年生の時に、別れて以来、生死も意識していなかった父親。

当然、洋一郎には反発心があるわけですが、孫が生まれたことで、気持ちが変わっていきます。

洋一郎の気持ちを変えたのは孫の存在だけではありません。

洋一郎の職場で巻き起こる問題が、「老い」や親子関係について考えるきっかけになるのです。

主人公と同年代の私には非常に面白く読めました。

他の世代の方だったら、どんなふうに感じるのか、とても興味があります。

ところで私は、重松清さんの小説は他に『流星ワゴン』、『とんび』を読んだことがあります。

どちらも家族や親子(父子)関係が主題だったように思います。それが重松さんのテーマなのか、そうでないのか、他の作品も読んでみたいと思います。
ひこばえ
重松清(著)
朝日新聞出版
世間が万博に沸き返る1970年、洋一郎が小学校2年生の時に家を出て行った父親の記憶は淡い。郊外の小さな街で一人暮らしを続けたすえに亡くなった父親は、生前に1冊だけの「自分史」をのこそうとしていた。なぜ?誰に向けて?洋一郎は、父親の人生に向き合うことを決意したのだが…。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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