友情(山中伸弥)
お二人が関西人だということがものすごく誇らしい! 友情
平尾誠二と山中伸弥「最後の一年」 山中 伸弥(著) 『友情 平尾誠二と山中伸弥「最後の一年」』は、先に刊行記念の写真展を見に行っていたので、読みながら在りし日の平尾さんの姿が目に浮かび、何度も胸に熱いものがこみ上げてきましたよ。
私はラグビーにはとんと興味がありません。一度だけ花園ラグビー場に試合を見に行ったことはあるものの、SANYOの関係者の方にチケットをいただいたから行っただけで対戦相手チームも覚えていない体たらく。そんな私でも平尾誠二さんのことは存じておりました。 京都出身で、伏見工業高校、同志社大学、そして神戸製鋼所で大活躍されたうえ、ワールドカップ日本代表監督を務められた、関西の生んだ大スター、知らないわけがありません。 いつも日の当たる場所にいるのが似合う、そんなふうに見えていた平尾さんが昨年10月に お亡くなりになった時には本当に驚きました。享年五十三歳、そんなに早く天国に行ってしまうなんて、と。 お通夜やお葬式は家族葬だったそうです。年が明けた二月に「感謝の集い」が開かれたことを私はニュースで知りました。 そして弔辞を読まれたのが、ノーベル賞受賞者の山中伸弥先生だったということもそのニュースで知りました。(葬儀ではないので正式には弔辞ではないと思いますが) 私は、平尾さんと山中先生がそんなにも親しかったのが意外でした。スポーツマンとノーベル賞を受賞された研究者、どんな接点があったのか不思議でなりませんでした。 だからかもしれません。山中教授が平尾さんに向かって語った言葉の全文を新聞でじっくり読んだのは。 こんなにも実感のこもった別れの言葉はなかなかないと思える名文でした。 山中教授が語った平尾さんの最後のご様子の中で、私にとって最も印象的だった部分を引用します。 いろいろな治療を試しました。
ある時、平尾さんに「この治療は世界初で、まだ誰もやったことのない治療だから、どんな副作用があるかわからない」と言いました。 するときみは、心配するどころか顔がぱっと明るくなって、「そうか先生、世界初なんか。けいちゃん聞いたか?俺ら、世界初のことやってるんや」そんなふうに言いましたね。 (『友情 平尾誠二と山中伸弥「最後の一年」』P43より引用) 私はこの部分を読んで、ハンサムでスター選手だった平尾さんが、見た目通りの人だったのだなと思いました。
平尾さんが見た目通りの人だったということは、山中先生もこの本の中で語っておられます。 山中先生は平尾さんと同い年。山中先生にとって、平尾さんは憧れの人であり、その影響でご自分も大学時代はラグビー部に所属していたそうです。 当然、伏見工業高校ラグビー部を題材にしたドラマ『スクール・ウォーズ』もご覧になっていたようです。 『スクール・ウォーズ』に登場する平山誠は平尾さんがモデル。雑誌の対談で初めて平尾さんにお会いした山中教授は、ドラマのまんまの人が目の前に現れたと思ったそうです。 その印象は、意気投合したお二人が親友になってからも変わることがなかったとか。 四十歳を過ぎてから出会った人と親友になれるなんて、なかなかないことです。それが自分の憧れだった人ならなおさらのこと。 その親友が末期癌と知った山中先生は、尽くせるだけの手をつくします。一緒に病気と戦ったのです。 それでも友は亡くなってしまった。その喪失感、悲しみはどんなに深かったか。 でも山中先生は最近思うんですって。平尾さんが死んだ気がしないと。背中を押してもらっている気がすることがあるんだと。 この本は山中先生の語り、平尾さんの奥さん「けいちゃん」の語り、そして平尾さんと山中教授の対談部分から成り立っています。 そこから立ち上がってくる平尾さん像の素敵なこと!ワタクシ、大変失礼ながら「スポーツ選手=運動バカ」と思い込んでいました。(汚い言葉遣いでごめんなさい) ところが、平尾さんは知的なかたでした。様々なことを勉強なさっていて、それをラグビーに生かそうとされていたのです。 医学とスポーツ、全然違う畑のように見えるお二人なのに、対談ではポンポンと気持ちよい会話が続きます。 そしてお互いの言葉の中からご自分の専門分野に活かせる内容を汲み取っておられる。なんて素敵なお二人なんだろう。 お二人が関西人だということがものすごく誇らしい!そしてこのお二人と同じ時代に生きていられることも嬉しい。 生きていく上で大事なことや、名言がぎっしりつまったこの本。 学生さんの指針になることはもちろん、経営者にも参考になることが多いとおもいます。どの世代、どんな職業の方にも自信を持ってお勧めできる一冊です。 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』 |
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