生きていくあなたへ(日野原重明)
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![]() 忘れられない。日野原先生の手の厚みと温かさ。 生きていくあなたへ
日野原重明(著) 私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では週に一度、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。
今回ご紹介するのは、日野原重明さんの『生きていくあなたへ』。 昨年(2017年)7月18日に、105歳10ヶ月でお亡くなりになった日野原重明さん。 日野原さんは医師で、長く聖路加国際病院に勤務され、のちに院長、名誉院長となられました。 日本初の人間ドックを開設したり、予防医学や終末期医療の普及に努めるなど、医学の発展に貢献してこられました。 また1970年には日本初のハイジャック事件となった よど号に乗り合わせ、四日間人質として過ごしたご経験がおありです。 日野原先生は、講演会や数多くのご著書で、さまざまなメッセージを発信してこられました。 そんな日野原先生が晩年希望されたのは「対話」。日野原先生が質問に答えるインタビュー形式がとられています。 質問はいろいろで、 ・105歳になられた日野原先生、死ぬのはこわくないですか?
・延命治療について、どう思いますか? ・いじめをやめさせる方法はありますか? ・これまでの人生でいちばん悲しかったことは何ですか? ・どうしたら先生のように、年をとっても若く元気でいられるのでしょうか? といったものから、
・人目ばかりが気になります。自然に自分らしく生きていく秘訣はありますか?
・突然の災害で家族を亡くしました。この悲しみを私は乗り越えていけるのでしょうか? ほとんど悩み相談のようなものまで。日野原先生はどんな質問にも、寄り添うような態度で、丁寧にこたえていらっしゃいます。
決して難しい言葉は使っておられませんが、非常に奥行きの深い言葉の数々は、書き留めて折にふれ読み返したいものばかり。 例えば、本の帯に言葉を寄せられた京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥さんは、日野原先生の言葉の中から、「困難にぶつかった時こそ遠くを見る」を選んでおられます。 私も心に響く言葉を見つけるたびに付箋を貼りながら読んでいたら、本がハリネズミのようになってしまいました。 最も印象に残ったのは、医学はアートであるという言葉です。 医師がいかに高い技術を駆使しても、本当の意味で患者の苦しみを取り去れるとは限らないし、そもそも現代医療では治療できない病気もある。 しかし医学がアートであれば、科学が敗北する病気でも、患者さんのためにできることはある。例えば笑顔で優しい言葉をかけたり、手を握りながら話を聞く、などです。 それによって患者さんの痛みや苦痛が和らぐのをこれまで何例も見てきたのだそうです。 このように医者と患者が与えあって一体となる素晴らしさを、宮沢賢治『セロ弾きのゴーシュ』からも教えられたとおっしゃっているのが興味深かったです。 また、これから老年へと向かう私に特に大事だと思えた言葉をご紹介します。 最近僕は、「運動不足」より「感動不足」のほうが深刻なのではないかと感じています。だからあなたとも一緒に心を躍動させて、感動の気持ちを分かち合いたいなと思うのです。(日野原重明『生きていくあなたへ』P160より引用)
このことばは、「最近感動する出来事が少なくなってきました。年をとったせいなのでしょうか?」という質問への答の一部です。
いくつになっても感動する心が大切だと説く一方で、年を取って時間がいっぱいあるから何か新たに始めねばならぬと構える必要はない、ともおっしゃっています。いつもと違う道を散歩する、などの小さなことでもいいのだと。 このことでもわかるように、私たちが実践できない難しいことは何一つおっしゃっていません。心がけ次第で今日から自分が変われそうな、明るい気持ちになれる一冊です。 ところで、私はこの本を最後まで読んでびっくりしました。「おわりに」の言葉を書いているのは、輪嶋東太郎さんではないですか! 輪嶋東太郎さんは、音楽プロデューサー。あと一歩で世界の頂点に立つというとき、甲状腺がんの手術で声を失い再起不能とされた韓国人テノール歌手ベー・チェチョルさんを、日本の医師に引き合わせ、声を取り戻すお手伝いをしたかたです。 その実話を基にした映画『ザ・テノール 真実の物語』では伊勢谷友介さんが輪嶋さんを演じていました。自分でも驚くことに、輪嶋さんと私は中学高校の同級生。 なぜ驚くかというと、一度も同じクラスにはなったことがなく、当時は全く話をしたこともなかったのに、共通の友人が仲を取り持ってくれて、映画公開に際してみのおエフエムでお電話インタビューが実現したのです。 ご縁とは本当に不思議でありがたいものだと思いました。 日野原先生は102歳のときにベーさんの歌声を聴いて、感動。その後「日野原重明プロデュース ベー・チェチョルコンサート」を全国で開催され、その司会を輪嶋さんが担当していました。 きっとそのご縁でこの本の企画構成・聞き書きをされることになったのでしょう。 私は2015年4月に大阪シンフォニーホールで行われたコンサートを高校の同級生と一緒に聴きに行きました。 幕間休憩に日野原先生と握手をしていただいたのですが、日野原先生の手の厚みと温かさが忘れられません。 このコンサートに行ったのも、日野原先生と触れ合えたのも同級生だった輪嶋さんがいたからこそ。 輪嶋さんは2016年12月29日から年末年始を除いて、1月31日までほぼ毎日、日野原先生のご自宅リビングで先生にインタビューしたのですって。 輪嶋さんの「おわりに」には、2016年東京オペラシティーでのベー・チェチョルコンサートのアンコール後、ご臨席だった皇后美智子さまと日野原先生の感動的なサプライズが紹介されています。 もちろん、本文では日野原先生の言葉でベー・チェチョルさんについて触れている箇所があります。 変な例えですが、頭の先から尻尾の先までぎっしりアンコが詰まった鯛焼きのような本です。表紙から奥付きまで、見逃すことなくお読みになってください。 ![]() ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』 |
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