夫の後始末(曽野綾子)
冷静な自己分析と文章で、湿り気なしで現実に向き合える 夫の後始末
曽野 綾子(著) 昭和の女性作家で、私が好きだったのは、有吉佐和子さん、田辺聖子さん、そして曽野綾子さん。
おせいさんこと、田辺聖子さんはふんわりしたかたですが、他のお二人、有吉さんと曽野さんは、才気煥発、打てば響く、お愛想笑いなんかしなさそう… もちろん、私はお二人を存じ上げているわけではなく、勝手に抱いていたイメージです。 十代の頃の私は、理知的でかっこいい女性になりたかったんです。有吉佐和子さんと曽野綾子さんはその代表のようなかたでした。 私が初めて読んだ曽野さんの作品は『太郎物語』。最も好きなのは『天上の青』。そして、怖いなぁと思ったのは『一枚の写真』です。 曽野さんは小説も良いのですが、小気味いい切れ味のエッセイも素敵。今も全く衰えを知らない切り口ですが曽野綾子さんは現在86歳なんですって。 そして、人生の伴侶であった作家の三浦朱門さんを、今年(2017年)2月3日に見送られたそうです。 その時点で夫 90歳、妻85歳。本の帯に書かれた「あなたにもその日はやってくる」という言葉通り、高齢化日本では今後当たり前になるであろう、老老介護です。 三浦朱門さんは2015年春頃から、体調不良を訴え始めます。しかし検査をしても悪いところは見つかりません。癌ではない、高血圧も糖尿病も大丈夫。もしかしたら高齢による機能障害だったのかもしれません。 2015年の秋には検査入院をしますが、病院ですごす三浦朱門さんの精神活動が、日々刻々と衰えるのがわかったそう。 その衰えの速度は恐ろしいほどで、病院には何の不満もなかったそうですが、曽野さんは三浦さんを退院させ、家で介護する決意をするのでした。 三浦朱門、曽野綾子ご夫妻にはお子さんがいらっしゃいますが(『太郎物語』のモデル)、早くに独立。結婚後も別居しておられます。 その代わりと言うのはおかしいけれど、三浦さんのご両親と、曽野さんのお母様とは同居し、全員見送られたのだそう。親世代の介護のために工夫しておいた家の作りが、三浦さんの介護に随分役だったそうです。 介護に必要なのはハードウェアだけではありません。ご老人と暮らす生活のルールや、肌着や布団の扱い、食事・入浴・睡眠など生活リズム、介護へのお金のかけ方など、曽野さんのご体験は、参考になります。 特に、これは書き留めておかねばと思ったのは、「人間の最後に臨んでやってはいけないこと」三か条です。それは 胃瘻、気管切開、多量の点滴による延命
(『夫の後始末』P149より引用) 曽野さんにそれを教えてくださったのは、聖路加病院の名誉院長だった日野原重明先生で、 なぜやってはいけないのかも、書かれています。我が家でも元気な時に、夫婦で話し合っておかなくてはいけないと思いました。
三浦朱門さんはユーモア精神があり、ちょっと毒舌な方だったようで、思い出すと おかしくて明るい気持ちになる人だったのですって。そんなかたと六十三年連れ添った末のお別れが、寂しくないはずはありません。(曽野さんは「寂しい」とは一言も書いておられませんが) 三浦朱門さんの死後、思いがけない経緯で曽野さんのお宅に迎え入れられるものがあります。それが曽野綾子さんの生活の光となったことで、読後感はとても優しい。 『夫の後始末』というタイトルはぶっきらぼう、あるいは物騒です。でも、曽野綾子さんの冷静な自己分析と文章のおかげで、読み手も湿り気なしで現実に向き合えるのだと思います。 夫の後始末
曽野 綾子(著) 講談社 夫・三浦朱門はある日、崩れるように倒れた。短い検査入院の間に、私は日々刻々と夫の精神活動が衰えるのを感じた。その時から、一応覚悟を決めたのである。夫にはできれば死ぬまで自宅で普通の暮らしをしてもらう。そのために私が介護人になるーー。 作家・曽野綾子が80代なかばにして直面した、90歳になる夫の在宅介護。工夫と試行錯誤を重ねながら、「介護とは」「看取りとは」そして「老いとは何か」を自問自答する日々が始まった。 家族の介護をしている人も、これからするかもしれない人も、超高齢社会を迎えるすべての日本人に知ってほしい「夫婦の愛のかたち」がここにある。 出典:楽天 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』 |
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