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地の糧(アンドレ・ジイド)

「生きる」ことは魂を揺さぶること

地の糧
アンドレ・ジイド (著)

(本文より)ナタナエルよ、わたしはきみに熱中ということを教えよう。
作者・ジイドは「ナタナエル」に呼び掛けます。

ナタナエルとは、物語の主人公ではなく、全ての読者です。

「こんな風に思われたらどうしよう」

という心の弱さを捨てて、感じたことを率直に書きつづります。

日々の些細(ささい)なことや、旅先の風景に胸を熱くしたこと、全てに対する愛情と繊細な感受性にあふれた文章。

忙しい毎日の中で、忘れかけていた感動を思い起こさせてくれます。

物事をとことん追求する姿勢が、ジイドの深い思想を生み出す。

読み進めるうちにどんどん魅了されました。

(本文より)ナタナエルよ、わたしはきみに熱中ということを教えよう。

平穏よりも、ナタナエルよ、むしろ魂をゆり動かす生活がいい。わたしは死の眠り以外に安息を願わない。

わたしが恐れていることは、一生かかって満たすことができなかったあらゆる欲望やあらゆる精力が、生き永らえて、死んだわたしを苦しめないかということだ。

わたしが希望していることは、自分の中で待っていたすべてのものを、この地上で表現したあとで、満足して、完全に絶望して死ぬことだ。
「生きる」ことは魂を揺さぶること。

初心に返り、その姿勢を問うきっかけになりました。

音楽人生を振り返ってみると、成長は必ず「熱中」によってもたらされています。

好きな曲を思うように表現したい、そんな気持ちがいつの間にか自分に火を付けていました。

そして挫折の時、「熱中」を思い起こしてくれたのもやはり音楽でした。

導いてくれた恩師には感謝にこたえません。

自身がどのように音楽と向き合い、社会に発信していくのか。

その根幹にジイドの思想がぴったりとはまったように思いました。

さて、「熱中」と聞いて浮かぶ音楽があります。

ベートーヴェンの世界です。

ベートーヴェンにとって、人生そのものが音楽に熱中することだったように思います。

人付き合いが苦手で、変人扱いされることも多かったのですが、作曲に懸ける情熱と集中力は人並み外れたものがありました。

一言でベートーヴェンといってもその作品は、若さあふれるフレッシュな初期、エネルギーが躍動する中期、円熟味を帯びた後期、で違う表情を見せます。

さて、実は彼にとってチェロという楽器は特別な存在だったのではないか、と思っています。

それはなぜか?

一般的に、ピアノやヴァイオリンに比べてチェロの曲は少なく、1人の作曲家が1曲書いてくれていたら御の字というところがあります。

そんな中、ベートーヴェンはなんと5曲もチェロソナタを残しています。

しかも、初期(2曲)、中期(1曲)、後期(2曲)と全ての時代にわたっているのです。

つまり、自分を表現する上でチェロは特別な存在だったのでしょう。

チェロソナタを順に聞くと、彼の心の変化や人間としての歩みが感じられ、チェロとピアノというシンプルな編成だからこそ、より生身のベートーヴェンを感じることができます。

間違いなくこの楽器が彼の精神を表現するのにふさわしかったのではないか-。

そう推察します。

苦しい時、ジイドの言葉に励まされ、ベートーヴェンに鼓舞される。

「地の糧」は、ずっと側に置いておきたい本です。
ベートーヴェン:チェロ・ソナタ全集
ロストロポーヴィチ
地の糧
アンドレ・ジイド (著)
新潮社 (1969)
profile
植木 美帆
チェリスト

兵庫県出身。チェリスト。大阪音楽大学音楽学部卒業。同大学教育助手を経てドイツ、ミュンヘンに留学。帰国後は演奏活動と共に、大阪音楽大学音楽院の講師として後進の指導にあたっている。「クラシックをより身近に!」との思いより、自らの言葉で語りかけるコンサートは多くの反響を呼んでいる。
Ave Maria
Favorite Cello Collection

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⇒PROページ
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