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海賊とよばれた男 下巻(百田尚樹)

時代を超えて伝わるメッセージ

海賊とよばれた男(下)
百田 尚樹 (著)
この作品は、出光興産の創業者、出光佐三をモデルに書かれています。

「人間尊重」を重んじ、大地域小売業、つまり商品を動かすだけの中間搾取はしない、 「生産者より消費者へ」を第一とする主義方針。

焼け野原となった第2次世界大戦後、 1,000人の社員を馘首(かくしゅ)することなく、 苦境を乗り越え、日本のために志を貫いた気骨の男がいた。

その孤高の魂に、どれほど勇気をもらったか分かりません。

物語の主人公は、石油業を手掛け、国岡商店を営む国岡鐡造(くにおかてつぞう)。

敗戦後、アメリカの圧力で石油を自由に扱うことができず、厳しい状況に立たされます。

そんな中、イランの石油を買わないか、という話が舞い込みます。

当時イランの石油利権はイギリスが掌握していました。

理不尽な状況下、国民の貧しい暮らしは限界に達し、 ついにイランが石油の国有化を宣言します。

それに対しイギリスは、世界各国にイランの石油を買うことを禁じ、 イラン経済を封鎖。

イランから直接輸入しようとしたイタリアの船が、「イギリスの警告を無視した」と、イギリス軍艦に拿捕(だほ)される事件も起こり、 恐れた各国の石油会社はペルシャ湾にタンカーを送ることができない状況です。

国岡商店にとって、イランからの石油購入は危険すぎる。

しかし、会議で鐡造が下した決断とは…。

(本文より)
鐡造は目を閉じてじっと熟考していたが、ぱっと目を開けると、言った。

「イランの石油を買おう」その場にいた重役たちは驚いた。

「しかし兄さん―」正明が言った。

…鐡造はにやりと笑った。それを見て、正明はあっと思った。

兄がこの笑いをするときは、本気だ―。

「皆が恐れるからこそ、行くのではないか」と鐡造は言った。

…「君たちはイランとの取引で、国岡商店の未来を心配しているようだが、これは未来を切り拓くための取引である。国岡商店は今、国際カルテルの包囲網の中でもがいている。

彼らは配下におさめた日本の石油会社と手を結び、国岡商店をつぶそうとしている。このわれわれの状況はまさに、国際社会におけるイランと同じ状況である」鐡造は立ち上がって言った。

「イランの苦しみは、わが国岡商店の苦しみでもある。イラン国民は今、塗炭の苦しみに耐えながら、タンカーが来るのを一日千秋の思いで、祈るように待っている。

これをおこなうのが日本人である。そして、わが国岡商店に課せられた使命である」
かくして、イランの石油購入に向けて極秘に準備が進められることになりました。

戦勝国として圧倒的な力を誇るイギリス相手に 日本の小さな石油会社が立ち上がる。 その強い信念に畏敬の念を抱きます。

昭和28年3月23日、イランの石油購入の要、 巨大タンカー日章丸(にっしょうまる)は神戸港を出港します。

(本文より)
日章丸は出航を告げる汽笛を鳴らした。見送る乗組員の家族たちが手を振っている。

…もし彼らの別れが永遠のものとなったら―、と鐡造は思った。

そのときは、自分の命もない。
この本を読み終え、出光佐三の思想に触れずにはいられなくなり、 彼の著書『人間尊重五十年』を手に取りました。

そこには価値観や人生観についての固い信念が記されていました。

どう生きたらいいのか―。

音楽家として、日本人として何ができるのか?

己の魂に問うきっかけとなりました。

一つの作品を全力で演奏する。

なにか、その枠を超えたところにさらなる使命があるのかもしれません。

先人の背中を見て努力を重ねれば、きっと道は開ける。

同じことを、ある作曲家から感じます。

音楽の父と言われる、ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685-1750)です。

当時は、音楽家が華々しくスターの扱いを受けることはありませんでした。

バッハは「音楽職人」として、社会に価値を提供すべく、 それまでの西洋音楽を徹底的に研究し、血肉となり、 尊敬の念を持ちながら集大成しました。

バッハは、ひたむきな職人として人生を全うしたのです。

その努力に隠された苦労と涙。

代表作「マタイ受難曲」は、バッハの人生が凝縮された西洋音楽史上最も崇高な音楽と言えるでしょう。

偉業を成し遂げたバッハ、そして出光佐三。

そこには真心と粘り強い努力があります。

時代を超えて伝わるメッセージ。

その一つ一つを人生の糧にしたいと思います。
バッハ:マタイ受難曲
ミュンヘン・バッハ管弦楽団 カール・リヒター(指揮)
海賊とよばれた男(下)
百田 尚樹 (著)
講談社 (2012)
敗戦後、日本の石油エネルギーを牛耳ったのは、巨大国際石油資本「メジャー」たちだった。日系石油会社はつぎつぎとメジャーに蹂躙される。一方、世界一の埋蔵量を誇る油田をメジャーのひとつアングロ・イラニアン社(現BP社)に支配されていたイランは、国有化を宣言したため国際的に孤立、経済封鎖で追いつめられる。1953年春、極秘裏に一隻の日本のタンカーが神戸港を出港した―。「日章丸事件」に材をとった、圧倒的感動の歴史経済小説、ここに完結。 出典:amazon
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植木 美帆
チェリスト

兵庫県出身。チェリスト。大阪音楽大学音楽学部卒業。同大学教育助手を経てドイツ、ミュンヘンに留学。帰国後は演奏活動と共に、大阪音楽大学音楽院の講師として後進の指導にあたっている。「クラシックをより身近に!」との思いより、自らの言葉で語りかけるコンサートは多くの反響を呼んでいる。
Ave Maria
Favorite Cello Collection

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