真夜中のパン屋さん~午前0時のレシピ(大沼紀子)
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![]() 真夜中のパン屋さん
午前0時のレシピ 大沼 紀子(著) 幼い子どもを放置して、母親がどこかへ行ってしまい、幼い命が失われる…悲しいことに最近のニュースでは、珍しい話ではなくなりました。
希実は幼い頃から、母親の都合で、いろいろな人に預けられてきた。期間はまちまちで、ごく短い時間の時もあれば、数日間の時もある。そんな母親のことを希実の幼馴染は「カッコウみたいだ」と評した。カッコウは他の鳥の巣に卵を産む。そして赤の他人(他鳥?)に孵化させ、育てさせるのだ。それを托卵という。まさにそうだ、と希実自身も思っている。
そしてそんな母親に育てられた希実は、意地でも真っ当に育ってやろうと決意して、中学校では皆勤賞を取り、公立上位の高校に入学した。しかし、いつも何かに苛立っている。日常のあれこれに。空が青かったり、花が綺麗に咲いていることにすら、腹立たしい思いをしていた。 そんなある日、またもや母が居なくなった。居なくなるだけならまだしも、今度の旅はちょっと長くなりそうだから、自分の荷物は整理して、住居も解約したというのだ。見てみれば母の部屋はもぬけの殻。置き手紙以外に母から希実に残されたものは、預金通帳とキャッシュカード、保険証だけだった。 手紙には、希実にハラチガイの姉がいるので、そこを尋ねるようにと書かれてあった。そんな人がいることなど今まで全く知らなかった希実。真偽もわからないまま訪ねるのもどうかと思ったが、今日中に家を空けねばならないのだから仕方がない。 手紙に書かれた住所に行ってみると、そこはパン屋さん。午後11時から午前5時まで、真夜中だけ空いているパン屋さんだった。そしてそこには、腹違いの姉は居なかった。半年前に亡くなったのだという。パン屋のオーナーは「姉」の旦那さんで、突然のことにもかかわらず、希実を受け入れてくれ、希実はパン屋の2階で生活し始めることになる。真夜中のパン屋さんには、いろいろと訳ありのお客さんが来る。否応無く、それに巻き込まれる希実…。 実は希実が訪ねて行った「姉」は、どうやら何の血縁もないことが、割と早く判明します。
だって「お姉さん」の父親が亡くなったのは、希実が生まれるずいぶん前なのですから。 なのに、なぜか「お姉さん」は希実を妹として受け入れる決意をしていたようなのです。 また、その夫であり、パン屋さんのオーナーも、希実が亡き妻の妹である可能性はないとわかっていながら、引き受けてくれます。 パン屋には、とびきり腕の立つパン職人がおり、その人は、希実の「お姉さん」のことを思っていた、 いわばオーナーとは恋敵の仲。なぜそんな間柄の二人が、一緒にパン屋さんを開いているのか? とにかく、この小説に出てくる人物は、ほぼ全員屈折しています。 特に親子の関係がいびつなことが多く、世間にはこんなにもゆがんだ親子関係が転がっているのかと、驚き呆れました。 だから、私がよく知っている親子関係も、それほど特異なものではないのかもしれないと、妙に安心したくらいです。 まぁ、小説の話を真に受けるのもどうかと思いますが、小説は現実を映す鏡のようなものなので。 とはいえ、よくわからない関係の3人が、訳ありのお客さんたちを、おいしいパンの力でほぐしていくのは、とても気分が温まりました。 が、希実の学校生活の現状や、母との関係など、本当に解決してあげてほしい問題は、最後までそのまま。 このままで良いわけないよ、このモヤモヤを何とかして!!と思ったら、続編があるようです。 よかった。 読み続ければきっと何らかの決着はつくのでしょう。ということで、続編もぼちぼち読むつもりです。 ところで、真夜中に開いているパン屋さんというと、木皿泉さんの『昨日のカレー、明日のパン』を思い出します。 『昨日のカレー、明日のパン』のテツコさんとギフがパンを買ったお店が、この小説の舞台「ブーランジェリー クレバヤシ」だったりして。 そんなことを考えると楽しいワ。 真夜中のパン屋さん
午前0時のレシピ 大沼 紀子(著) ポプラ社 (2011/6/) 都会の片隅に真夜中にだけ開く不思議なパン屋さんがあった。オーナーの暮林、パン職人の弘基、居候女子高生の希実は、可愛いお客様による焼きたてパン万引事件に端を発した、失綜騒動へと巻き込まれていく…。期待の新鋭が描く、ほろ苦さと甘酸っぱさに心が満ちる物語。 出典:amazon ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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