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真夜中のパン屋さん~午前0時のレシピ(大沼紀子)

真夜中のパン屋さん
午前0時のレシピ
大沼 紀子(著)
出版社:ポプラ社 (2011/6/)【内容情報】(「BOOK」データベースより)都会の片隅に真夜中にだけ開く不思議なパン屋さんがあった。オーナーの暮林、パン職人の弘基、居候女子高生の希実は、可愛いお客様による焼きたてパン万引事件に端を発した、失綜騒動へと巻き込まれていく…。期待の新鋭が描く、ほろ苦さと甘酸っぱさに心が満ちる物語。(出典:amazon
幼い子どもを放置して、母親がどこかへ行ってしまい、
幼い命が失われる…
悲しいことに最近のニュースでは、珍しい話ではなくなりました。

***
希実は幼い頃から、母親の都合で、
いろいろな人に預けられてきた。
期間はまちまちで、ごく短い時間の時もあれば、
数日間の時もある。

そんな母親のことを希実の幼馴染は
「カッコウみたいだ」と評した。
カッコウは他の鳥の巣に卵を産む。
そして赤の他人(他鳥?)に孵化させ、育てさせるのだ。
それを托卵という。
まさにそうだ、と希実自身も思っている。

そしてそんな母親に育てられた希実は、
意地でも真っ当に育ってやろうと決意して、
中学校では皆勤賞を取り、公立上位の高校に入学した。

しかし、いつも何かに苛立っている。
日常のあれこれに。
空が青かったり、
花が綺麗に咲いていることにすら、
腹立たしい思いをしていた。

そんなある日、またもや母が居なくなった。
居なくなるだけならまだしも、
今度の旅はちょっと長くなりそうだから、
自分の荷物は整理して、住居も解約したというのだ。

見てみれば母の部屋はもぬけの殻。
置き手紙以外に母から希実に残されたものは、
預金通帳とキャッシュカード、保険証だけだった。

手紙には、
希実にハラチガイの姉がいるので、
そこを尋ねるようにと書かれてあった。
そんな人がいることなど今まで全く知らなかった希実。
真偽もわからないまま訪ねるのもどうかと思ったが、
今日中に家を空けねばならないのだから仕方がない。

手紙に書かれた住所に行ってみると、
そこはパン屋さん。
午後11時から午前5時まで、
真夜中だけ空いているパン屋さんだった。

そしてそこには、腹違いの姉は居なかった。
半年前に亡くなったのだという。
パン屋のオーナーは「姉」の旦那さんで、
突然のことにもかかわらず、希実を受け入れてくれ、
希実はパン屋の2階で生活し始めることになる。

真夜中のパン屋さんには、
いろいろと訳ありのお客さんが来る。
否応無く、それに巻き込まれる希実…。

***

実は希実が訪ねて行った「姉」は、
どうやら何の血縁もないことが、割と早く判明します。
だって「お姉さん」の父親が亡くなったのは、
希実が生まれるずいぶん前なのですから。

なのに、なぜか「お姉さん」は
希実を妹として受け入れる決意をしていたようなのです。
また、その夫であり、パン屋さんのオーナーも、
希実が亡き妻の妹である可能性はないとわかっていながら、
引き受けてくれます。

パン屋には、とびきり腕の立つパン職人がおり、
その人は、希実の「お姉さん」のことを思っていた、
いわばオーナーとは恋敵の仲。
なぜそんな間柄の二人が、一緒にパン屋さんを開いているのか?

とにかく、この小説に出てくる人物は、
ほぼ全員屈折しています。
特に親子の関係がいびつなことが多く、世間にはこんなにも
ゆがんだ親子関係が転がっているのかと、驚き呆れました。
だから、私がよく知っている親子関係も、
それほど特異なものではないのかもしれないと、
妙に安心したくらいです。

まぁ、小説の話を真に受けるのもどうかと思いますが、
小説は現実を映す鏡のようなものなので。

とはいえ、よくわからない関係の3人が、
訳ありのお客さんたちを、
おいしいパンの力でほぐしていくのは、
とても気分が温まりました。

が、希実の学校生活の現状や、母との関係など、
本当に解決してあげてほしい問題は、最後までそのまま。
このままで良いわけないよ、
このモヤモヤを何とかして!!と思ったら、
続編があるようです。

よかった。
読み続ければきっと何らかの決着はつくのでしょう。
ということで、続編もぼちぼち読むつもりです。

ところで、真夜中に開いているパン屋さんというと、
木皿泉さんの『昨日のカレー、明日のパン』を思い出します。
『昨日のカレー、明日のパン』のテツコさんとギフがパンを買ったお店が、
この小説の舞台「ブーランジェリー クレバヤシ」だったりして。
そんなことを考えると楽しいワ。

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。
だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。

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