中野のお父さん(北村薫)
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![]() 中野のお父さん
北村 薫(著) 子どもの頃は新聞記者に憧れていました。
夢は叶わなかったけれど、大学時代に某新聞社系の週刊誌編集部でアルバイトをし、ほんのわずかではありますが、編集部のお仕事を垣間見て胸がときめきました。 だって、デスクの上に無造作に置かれた司馬遼太郎さんの原稿を見ちゃったんですよ。 あの司馬遼太郎さんですよ! 中学時代に読んだ『燃えよ剣』で一気にはまったものでした。 当時は街道を旅する歴史エッセイの絶賛連載中だったのです。 「うわっ!!この万年筆の字、写真で見たことあるわ。本物や~!!」 いやはや、興奮しました。 今でもやはり、新聞社や出版社の編集部には憧れの気持ちがあります。 そんな私が、出版界に秘められた「日常の謎」を題材にした『中野のお父さん』を読んで、つまらないなんてことがあるでしょうか。 しかも作者は北村薫さん。はずれようがありません。 主人公の田川美希は体育会系女子。バスケットで鍛えた気力体力で、大手出版社「文宝出版」に入社。日々頑張っている。最初は女性誌編集部に配属され、柄にもないファッションや美容を担当していた。その後、文芸の書籍部門へ異動となった。そんな美希が出くわす出版業界の「謎」の数々。その度に美希は、実家がある中野に帰る。
父親は現役の高校国語教師であり、読書家。資料の整理能力も抜群で、ドラえもんのなんでもポケットのごとく、美希が必要な資料を取り出してくれる。考察力、発想力に優れ、美希が持ち帰った謎をさらりと解いてくれるのだった。 この小説は8つの短編からなっています。
それぞれの「謎」は、大げさなものではありません。 むしろ、注意深くない人(私)などは、それが謎であることにも気がつかず通り過ぎてしまいそう。 だから、中野のお父さんの謎解きに、毎回、「へー」「ほー」と間の抜けた感嘆符を連発するばかりでした。 ともすれば 単なるウンチク語りになりそうなところを、定年間近の父親が、娘と娘が持ってくる謎を楽しみにしている、というほのぼのしたシチュエーションが和らげてくれいています。 そう、お父さんは娘とああでもない、こうでもないと話をするのが嬉しいんですね。 私は父とほのぼの話をすることが全くないので、「ふーむ、世の中の父と娘は皆こんなのなのか?」と不思議なものを見る感じではありますが。 のんびりと読みたいかた、ピリピリ神経にさわるような作品が苦手な方にお勧めします。 ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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