『白い犬とワルツを』が良いらしい、と評判を聞いたのは
多分10年以上も前のこと。
評判の小説なのでドラマ化され、そのドラマも好評で、
日本でも1995年と1997年にNHKで放送されたそうですが、
私はいずれも見ていません。
だから、タイトルだけで内容を全く知らずに過ごしていました。
そして、いつか読もう読もうと思っていた作品を
今やっと読み終えることができました。
***
この小説の主人公は81歳のサム・ピーク。
57年連れ添った愛妻を亡くしたところから物語が始まる。
妻コウラの死はあまりに突然で、
心の準備が全くできていなかったサム。
そんなサムの前に白い犬が現れた。
どこからともなく現れ、サムが与える食事を食べると、
どこかに行ってしまう白い犬。
二人(?)の距離は少しずつ縮まって、
いつしか白い犬はサムの心を慰める存在となった。
サム以外の人には姿を見せない不思議な白い犬。
子どもたちの愛情に感謝しながらも、
一人で余生を過ごそうとするサムと、白い犬の物語。
***
この小説では、「白い犬」が実在するのか、
もしかしたら老人サムの幻覚なのではないのか、
わざとわかりにくく書いてあります。
だから途中までは読者も、
サムの子どもたち同様、
迷いながら読むことになります。
そして小説の最後でも「白い犬」は不思議な余韻を残します。
そのあたりが、この作品が「大人の童話」と呼ばれる
所以なのではないかと思います。
この小説を読んで感じたのは、
ひとの余生を支えるものは
「回顧」なのかも知れないということ。
子どもの頃や青年時代の思い出。
サムが振り返る思い出の数々は、とても美しく愛おしい…。
私が、この小説の評判を聞いてすぐに読まずに、
今この年齢で読んだことに、巡り合わせを感じました。
じんわりとした、なんとも言えない感動を覚えています。
もし10年前にこの作品を読んでいたら、
今と同じことは感じなかったでしょう。
私が一番じーんとしたのは、
サムが同窓の女性と再会し、かわす会話です。
人生の黄昏、私は誰と何を語ることになるのでしょう。
私にも「白い犬」が現れてくれるように、
しっかりと生きていかなくては。 |
|
池田 千波留
パーソナリティ・ライター
コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BLOG ⇒PROページ |
|
著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。
だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。
「千波留の本棚」50冊を機に出版された千波留さんの本。
『私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。』⇒購入サイトはこちら/Amazonでも購入できます |
|