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[ブックカフェレポート]小説家 宮本紀子さん

ゲスト:時代小説家 宮本紀子さん


2017年6月15日に開催したブックカフェ@まちライブラリー森ノ宮キューズモールは、ゲストに時代小説家の宮本紀子さんをお迎えしました。宮本さんが小説を書き始めたのは子育て中だったそう。なぜ時代小説だったのか、またその楽しさとは?最新作『狐の飴売り~栄之助と大道芸人長屋の人々』(光文社)のお話も合わせてお伺いしました。
千葉:今回のブックカフェは、時代小説作家の宮本紀子さんを囲んでお話を伺いたいと思います。宮本さんは2012年に「雨宿り」(光文社)で『小説宝石』第6回小説宝石新人賞を受賞されて作家デビューされましたが、そもそもなぜ小説家になろうと思われたのですか?またなぜ時代小説だったのでしょう?

宮本:私はずっとテレビっ子でしたので、お恥ずかしい話、小説は読まない人でした。本を読むようになったのは、娘を産んでから。出産後、昼間は娘と二人きりの子育ては、どこにも行けない、何もできない、誰とも話せない、という寂しい毎日で、言葉が欲しくて、本を読み始めたんです。

なぜ時代小説かというと、現実から離れたくて。ファンタジーやSFでも良かったんですけど、たまたま手に取ったのが時代小説、平岩弓枝さんの『御宿かわせみ』だったんです。あれにはまりましたね。ちょっとミステリーがあって読みやすい。 江戸っておもしろい!って。

シリーズ全部、図書館で借りてきて、一日中読んでいました。娘が寝ているときは、ゆりかごに入れて揺らしながら読む。ハイハイするようになると、布団の上で遊ばせながら読む。そのうち、娘が3歳になった頃かな?自分で書いてみようかなと思ったんです。

千葉:そこ、結構ハードルが高いと思いますけど(笑)。私もずっと時代小説は好きで、特に池波正太郎氏の作品は、27歳の時からずっと読み続けて、本棚が書店の本棚みたいになっていますけど、自分が書こうというところまでいかないですよ(笑)。

宮本:何なんでしょうね。なんとなく書いてみたくなったんです。近所に幼児教室があったので、そこに娘を預けている間に小説を書いて、鉛筆にぎりしめながらお迎えに行っていました。

家に帰ると娘と二人きりで悶々としてしまうので、そのまま近くの児童館に行くんです。そこでも、子どもたちが走り回っている横で、大きい積み木を借りて、それを机がわりに小説を書いていました。

芝崎:すごい集中力ですね。普通、そんな環境でなかなか書けない(笑)。
千葉:そこから、小説家を目指そうと創作サポートセンターに?

宮本:何も知らないというのは恐ろしいことで、書いた小説を公募に出していたんです。1次は通るんだけど、1次どまりが何年か続いて。これは何が足りないんだろう、どこかで教えてくれないだろうかと調べて、最初はシナリオの学校を見つけて行ったんです。するとシナリオを書くのがおもしろくなって、特にラジオドラマの台本を書いていました。

でもあるとき、小説を公募に出してみると、1次に通らなかったんです。シナリオと小説って、“つかみ”の場所が違いますから、小説を書いていたらシナリオが書けないし、シナリオを書いていたら小説が書けない。やっぱり小説に戻ろうと思い、創作サポートセンターにお世話になりました。

芝崎:小説とシナリオ、両方書くプロの人は少ないからね。やっぱり違うって言いますよね。

宮本:そこで仲間ができますから、いろんな人がいろんなジャンルを書いてらっしゃるので、現代小説やSF、ファンタジーなどを読ませてもらううち、こういう世界もあるんだ、こういうのっておもしろいって、その頃はSFを書いたりもしました。

でもだんだん、なんかやっぱり自分は“読む人”だと思ったんですね。書く人じゃないと。そう思って、これを最後にしようと書いて出したのが、デビュー作の『雨宿り』なんです。

千葉:この『雨宿り』は、読んでいるとすごく映像が浮かんできますね。川に入っていくシーンなんて、リアルに見えてくる感じ。

宮本:それはシナリオ学校のおかげだと思います。小説を書くとき、(頭の中に)文字が浮かぶという方もいらっしゃるけど、私はテレビっ子ですから、映像が浮かぶんです。浮かんでくる映像を文字にするという感じ。

千葉:登場人物の人間模様がまた深いですよね。最初はいやらしいおっさんだと思っていた酒屋のおじさんが、実はかわいそうな人だったり、やり手ばあさんが実は気の毒な人だったり。いろんな人の生きてきた証というか。人物像がどんどん変化していくところが、おもしろいなあと思って読んでいました。でも時代小説となると、時代考証が大変なんじゃないですか?

宮本:ものすごく大変です。資料はもう片っ端から読みますし、そこまでしなくていい、というくらい調べます。神経を使うのはそこじゃなくてお話だから、そっちを大事にしてくださいと言われるんですけど、でもすごく気になるんです。気になってお話に集中できないので、一回調べたのにまた調べ直すというのを延々と繰り返しています。

芝崎:資料って、こういう舞台を書こうと思ってから、それに合わせたものを集める?

宮本:こういうのを書こう、というのはあまり無いんですけど、映像が浮かぶので、その映像に関わる資料を探すんです。例えば、夕陽が顔にあたるシーンなら、古地図を調べて、「あ、ここは背中から夕陽があたるんだ」とか、坂も登っているのか下っているのか分からないので、写真を見たり、東京に行ったおりはできるだけ気になっている場所を歩いたりします。
千葉:今回の最新作、『狐の飴売り』は、デビュー作と2冊目と打って変わって、ちょっと落語みたいなお話ですね。

宮本:そうなんです。ちょっと明るいというか、ハッピーエンドが書きたかったんです。

芝崎:ずっとつらい女の人の話が続いたもんね(笑)

千葉:2冊目までは女性が主人公だったけど、これは男性が主人公。それもとんでもない男性で、いろいろだらしがない(笑)。ダメ男っぷりがすごいというか、おもしろいですよね。

芝崎:こいつ、成長しないんか、と思いながら(笑)

千葉:読ませたいヤツがいっぱいいるんだけど(笑)。時代小説やSFだと、現実にありえないことや、自分の言いたいことがストレートに書けると思いますけど、何かテーマ性を持って書いていらっしゃるんですか?

宮本:何も無いんです。

芝崎:シーンを思いついて書いていたら、どう終わったらいいか分からない、という人がたまにいるけど、そんなこと無い?

宮本:なんか、主人公と一緒に歩いている感じです。ああそうなんだ、ああそうなんだ、って言いながら書いていく感じなので、書き終わったら、「ああ、そういうことか」と自分で思うんです。

芝崎:やっぱり映像で出てくるんですか?音や声も出てくる?

宮本:ほぼ映像ですね。文字が出てくることもありますけど、「なんてこった」くらい。短い言葉だけです。
千葉:これまで、「書けない」ということは無かったんですか?

宮本:書けないときはずっと書けないです。でも、ずっと書き続けられる人って、書けない書けないと言いながら、かつ丼食べる人だと思うんですね。書けなくて食事ものどを通らない、というのは違うんじゃないかと。だから私、ジムに行き始めたんです。これは体力勝負だと思って。でもまた痩せたんです・・・。やっぱり食べないと痩せますね。2作目書いて3キロ痩せて、戻って、新作でまた5キロ痩せて・・・。まだ戻ってないんです。

千葉:食べる時間が無い?食べる気が無い?

宮本:自分で何度も何度も書き直すから、食べる体力が無くなるんです。ゲラ直しのときなんかすごく大変で、近くのカフェに特別にお願いして、お昼のランチセットをお弁当に詰めてもらって、娘に学校からの帰りに持って帰ってもらって、夜それをごそごそ食べる。もうご飯どころじゃなくなっちゃう。

芝崎:おかしいなあ。普通、執筆中は太るんだけど(笑)

千葉:その痩せた5キロ分、おもしろかったですよ(笑)。私もなんか書いてみようかな。

芝崎:執筆ダイエット?痩せる人もいるけど、太る人もいるよ(笑)

宮本:なんか、書いていると、一日中プールで潜水しているみたいな感じです。娘が学校から帰ってくるってメールが来ると、プールの底からプワーっと浮いてくる。でもそれから30分くらい横にならないと動けないんです。そこから料理なんてできないので、さっと作ってあとはバタン。自分で食べる体力が無い。
千葉:1日何時間くらい書いているんですか?

宮本:朝11時くらいから娘が帰ってくる5時くらいまでですかね。

千葉:潜水6時間。かなり長いですね。窒息しそうですね(笑)

宮本:6時間ずっと書いているわけじゃないんですよ。ゴロゴロしながら、書けなくても頭の中でずっと考えていて。夜も夢の中で考えていたり。

千葉:村上春樹の本に、毎日毎日書くためには、体力をつけないと長続きしないって書いていたけど、まず、コンスタントに書く、という気持ちを持ち続けること自体が大変じゃないですか?

宮本:時々、自分はなぜ書いているんだろうと思ったりしますけど、やっぱりそこにあるのは、“選んでもらった”ということですね。(作家に)なりたい人が大勢いるのに自分が選ばれて、その選ばれた人間が、書けないじゃ失礼なんじゃないかなと思うんです。

今思うと、何か形にしたかったのかな。それが自分には「書く」ということだったのかもしれないし、それが一番自分に合っていて、そこから離れられなくなったということでしょうね。

“作家”というのは、人が決めるものだと思うんです。「おめでとう、今日から作家になりましょう」と言われて作家になって、「あなたにはもう注文がありません」と言われると作家でなくなる。でもそう言われて、作家は終わったなと思っても、書くことは続けていくと思います。作家だから、というんじゃなくて、書くことが私の中のメイン。だから苦しいのに書くんだと思います。

千葉:身を削って書く。ツルの恩返しみたいですね。

宮本:よく言われます。書くとき、ふすまを閉めてますからね(笑)。もう少し気分的にラクに書ければ良いんですけど、この性格は変わらないですね。いずれ力の抜きどころが分かってくるよ、と言われますけど、いまだに分からないです(笑)。

芝崎:こういう性格の人は、だんだん書けなくなるけど、宮本さんの場合、苦しい苦しいと言いながら書いていますからね。5キロ痩せても書いてる。ある意味体力あると思うけど。また体重戻して書いて、また痩せても書かなくちゃね(笑)

千葉:ここでお時間がきました。本日はありがとうございました。
guest
宮本紀子さん
京都府生まれ。2012年「雨宿り」(光文社『小説宝石』第6回小説宝石新人賞受賞作)は、女性の複雑な心理を繊細に描き出した作品。千編を超える応募作の中から賞に選ばれ、作家デビューした。2014年『雨宿り』(光文社)、2015年『始末屋』(光文社)、「両国橋物語」(『宵越し猫語り』収録 白泉社)、2017年3月『狐の飴売り 栄之助と大道芸人長屋の人々』(光文社)
狐の飴売り
栄之助と大道芸人長屋の人々
宮本紀子/著
贅沢三昧の放蕩息子が、大店を飛び出し、ある日突然、大道芸人たちと長屋暮らし! 熊の兄弟、一人芝居の男、猫の托鉢僧、茶売りの婆さん。こいつらと一緒に暮らす!? このわたしが飴を売る!? そこへ押しかけてきたのは、わたしを裏切った身重の元・許婚。もう、どうなっちまうんだい! 笑って泣けて、心がふわりと温まる江戸人情噺。
⇒amazon
雨宿り
宮本紀子/著
デビュー作『雨宿り』が文庫本となって、2017年8月8日に光文社文庫から発売されます 『一番会いたくない男だった。 忘れたい、けど決して忘れられない―― 「厚くて深い。物語の中にぐっと入り込めた」朱川湊人氏、「光る心理描写。登場人物すべての息吹が感じられる」三浦しをん氏。 江戸の片隅で、不器用に人を愛した5人の男女。 静かに熱く胸を打つ、第6回小説宝石新人賞受賞作!』
⇒amazon
MC
芝崎美世子
作家・ライター支援をする非営利団体「創作サポートセンター」代表。社会人向けの小説講座「エンターテインメントノベル講座」を開講して、SF、ミステリ、時代小説、ライトノベル等の娯楽系小説家の育成・支援を行う。創作サポートセンター
千葉 潮
合同会社メディアイランド代表。女性と子ども応援を理念に、教育、教材、一般書の発行、編集サービスを行なう。http://www.mediaisland.co.jp/


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