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時代劇入門(春日太一)

知識ゼロから時代的を楽しむ入門書

時代劇入門
春日太一(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

今回ご紹介するのは、春日太一さんの『時代劇入門』。

知識ゼロから時代的を楽しむための入門書、と紹介されているのですが、入門書を読まないと時代劇を楽しめない世代がいるのかと、軽いショックを受けました。

そういえば、最近、本格的な時代劇の連続ドラマをテレビで見ていない気がします。

私が幼い頃は、週に何度も時代劇の帯番組があったような気がするのに。

春日さんはこの本で、時代劇の歩みや、とりあえず知っておきたい基礎知識、時代劇の重要なテーマ、チャンバラの愉しみといった項目ごとに時代劇を解説しておられます。

私が物心ついて初めて意識した時代劇は『仮面の忍者 赤影』。多分、幼稚園に通うか、通わないかぐらいの時だったと思います。

不穏なオープニングナレーションにかぶせて流れてくる主題歌の旋律の胸ときめくことと言ったら!

「赤影参上!!」
仮面からのぞき見える赤影さんの目の涼しさに、幼いながらに憧れたものでした。

ちなみに、オープニングナレーションは放送時期によって違っていて、私が覚えているのは「ギヤマンの鐘」が出てくるバージョンです。

さて、著者の春日さんは「仮面の忍者 赤影」のことをどう書いておられるのか、ワクワクしながらページを繰ると……
これは、全く忍ぶ気がない忍者と言ってもよいけれど、赤影、青影、白影といて、仮面舞踏会みたいなマスクをつけていて、スカーフもつけています。

前の年に『ウルトラマン』が大ヒットしていたこともあって、戦う相手も怪獣。ここまでぶっ飛んでいれば、奇想天外なことをやっても観客に喜んでもらえるということですね。
(春日太一さん 『時代劇入門』 P274より転記)
言われるまでなんとも思っていませんでしたが、よく考えてみれば忍者=忍びの者。存在を気取られることなく、目的を達するべきなのに、赤影さんたちって目立ちますね。

赤影さんは白馬に乗って颯爽と駆けているし、白影さんなんか、大凧に乗ってましたもんね。

戦う相手が怪獣であることにも、幼い私は何の疑問も持っていなかったけれど、安土桃山時代にこんな怪獣がいたのか、と、よくよく考えたら変ですね。

私が次に意識した時代劇は『銭形平次』。こちらは幼稚園に通い始めた頃だったと思います。

大川橋蔵さんの平次です。

歌詞が全部七五調で整えられた主題歌のノリのいいこと、粋なこと。

舟木一夫さんの歌唱力も相まって、ドラマが始まる前からワクワクしたものです。

春日さんの『銭形平次』感をご紹介しましょう
銭を投げて敵の動きを止めるという特技が大きな特徴になっています。物語としては、冷静な推理を働かせながら事件を解決へ導いていくという、ミステリ的な展開になっています。

このときに、彼の推理を引き立たせるために登場するのが、「下っ引き」というアシスタント的な役割の八五郎。彼は思慮が足りないところがあるので、このボケとツッコミ的なやりとりが中心にあります。
(春日太一さん 『時代劇入門』 P153より転記)
毎度おなじみ
「親分!てぇへんだ(大変だ)てぇへんだ!」
の場面ですね。

春日さんは、こういう側面も指摘しておられます。
銭形平次のもう一つの特徴は、愛妻家であることです。お静さんという奥さんがいて、家庭での二人のほのぼのとした雰囲気も人気の要因の一つでした。
(春日太一さん 『時代劇入門』 P154より転記)
なるほど。『銭形平次』は、ミステリであり、ホームドラマでもあったわけですね。

春日さんは作品だけではなく、時代劇スターについてもそれぞれ解説されています。

例えば高橋英樹さん。
この人の強みは豪快さです。もともと体が大きいし、顔も芝居もメリハリがあるので、それを利用したダイナミックかつ重みのある殺陣と、おおらかな笑い方などで、スケールの大きなヒーローにピッタリでした。

日本テレビの『桃太郎侍』(一九七六年)では般若の面をつけ、派手な恰好で敵地へ乗り込んでいって、数え歌を唱えてから敵を斬るという無茶苦茶なキャラクターを演じましたが、あまりに堂々とやっているためかえって迫力が出て、その無茶さが吹き飛んでいます。
(春日太一さん 『時代劇入門』 P190、P191より転記)
以前から私は、桃太郎侍の登場方法は、ヒーローものの定説を覆すへんてこりんなものだと思っていました。

普通、ヒーローは敵と相対した場合、自分について名乗りを上げるものではありませんか。

ところが桃太郎侍ときたら、
「ひとぉつ、人の世の生き血をすすり、ふたぁつ、不埒な悪行三昧、みっつ、醜い浮世の鬼を……」と、相手の悪いことをあげつらってから

「退治してくれよう、桃太郎侍!」
やっと名乗りをあげるのです。

もしも、敵にものすごい手練れがいて、「ふたつ、不埒な悪行三昧」と言っているあたりで斬られでもしたら、桃太郎侍が自己紹介中に亡くなったような状態になり、誤解されて成仏できないよなぁ、なんていらぬ心配をしたこともあります。

そうか、あれが成立したのはひとえに高橋英樹さんの持ち味によるのか……。納得しました。

このように、作品ごと、スターごとの分析は、非常に読み応えがあります。

タイトルは『時代劇入門』ですが、時代劇を日常的に見ていた世代の方にとっては、良い復習教材になると思いました。

最近は、なかなか本格的な時代劇を見ることができません。それは時代劇に似合うスターが少なくなったことと、制作費不足によるもののよう。

残念です。

とはいえ、春日さんはチャンバラが『機動戦士ガンダム』に引き継がれているとおっしゃっています。時代劇は形を変えて、いろいろなところに隠れているのかもしれません。

最後に、春日太一さんが選んだ、「とりあえず知っておきたい時代劇ヒーロー30」と「とりあえず知っておきたいスター30」をご紹介しておきます。(敬称略)

何人ご存知でしょう?

・とりあえず知っておきたい時代劇ヒーロー
清水次郎長、森の石松、国定忠治、木枯らし紋次郎、座頭市、藤枝梅安、柳生十兵衛、宮本武蔵、荒木又右衛門、丹下左膳、鞍馬天狗、早乙女主水之介、眠狂四郎、拝一刀、三十郎、源義経、真田幸村、新撰組、坂本龍馬、水戸黄門、徳川吉宗、遠山の金さん、大岡越前、長谷川平蔵、中村主水、銭形平次、石川五右衛門、鼠小僧、一心太助、大石内蔵助

・とりあえず知っておきたいスター30
尾上松之助、阪東妻三郎、大河内傳次郎、片岡千恵蔵、市川右太衛門、嵐寛寿郎、長谷川一夫、月形龍之介、近衛十四郎、大友柳太郎、三船敏郎、美空ひばり、中村錦之助、大川橋蔵、市川雷蔵、勝新太郎、若山富三郎、仲代達矢、里見浩太朗、緒方拳、加藤剛、北大路欣也、松方弘樹、高橋英樹、杉良太郎、藤田まこと、千葉真一、松平健、真田広之、渡辺謙

それぞれの役名や、俳優さんのお名前を拝見しているうちに、本格時代劇を見たくなりました。
時代劇入門
春日太一(著)
角川新書
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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