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へぼ侍(坂上泉)

なかなかやるわね、「へぼ侍」錬一郎

へぼ侍
坂上 泉(著)
今年(2024年)1月に大阪で、2月には東京で上演されるOSK日本歌劇団の『へぼ侍 〜西南戦争物語〜』。私は大阪で観劇する予定です。その予習のため、原作である坂上泉さんの『へぼ侍』を読みました。
錬一郎は大阪の与力の跡取り息子として生まれた。

しかし父は鳥羽・伏見の戦いで戦死、錬一郎が跡目をつぐ前に明治維新が成り、新しい世になってしまった。

幼くして大阪道修町の薬問屋に丁稚奉公に入り、商いの修行をすることになった錬一郎だったが、士族の誇りを失わず、剣術の鍛錬に励み続けた。そんな錬一郎のことを周りは「へぼ侍」と呼ぶ。

錬一郎が17歳になった1877年(明治10年)、西南戦争が勃発。薩摩兵に手を焼いた政府軍は元士族を「壮兵」として徴用することになった。

この戦いで武勲を上げれば名をあげることもできるし、もしかしたら官職に登用されるかもしれないと考えた錬一郎は応募し、生まれて初めての戦場に向かうのだった……
(坂上泉さん『へぼ侍』の出だしを私なりにまとめました)
歴史にはいくつもの節目があり、その都度変化が訪れたわけですが、明治維新は日本における最大の変革期だったのではないかと思います。

外国との交流が始まり、新しい文化がどんどん流れ込んできます。

髪型も服装も変わり始めるし、生活様式も変わります。

何より士農工商という階級が壊されたのです。

と言っても「農」「工」「商」の人たちの生活はさほど大きくは変わらなかったかもしれません。「お上」がすげ変わっても日々の仕事は同じことを続けられたと思うのです。

最も衝撃を受けたのは一番上に位置していたはずの「士」でしょう。

武士の魂だったはずの刀を取り上げられた上に、どうやって生活をしていけばいいのか途方に暮れたのではないかと思います。

特に徳川方についた侍たちにとっては、厳しいものがあったのではないでしょうか。

幕府に付き従っていれば成り立っていた生活基盤がなくなっただけではありません。

勝てば官軍の言葉通り、明治維新後は薩摩・長州閥に牛耳られています。

元幕府方はいわゆる「冷や飯食い」にならざるを得ません。

とはいえ、元徳川側でも腕の立つ人であれば、今でいう警察官などになることができたようです。

ところが、明治元年、錬一郎は7歳でした。就職できる年ではありませんし、母親は病弱。

お先真っ暗な状態を救ってくれたのは亡き父の友人だった薬問屋の主人。

錬一郎を丁稚として迎え入れてくれたのです。

住み込みで働かせてくれるだけではなく、自分の娘と一緒に寺子屋に通わせてくれたりもします。もしかしたら将来、その娘さんと錬一郎を結婚させてもいいと思っていたのかもしれません。

さて、もし自分が錬一郎だったらと考えてみました。

錬一郎はきっと、ものごころがついた頃から「武士たるものはこうあるべき」「侍の子はかくあるべし」と教えられて育ってきたのでしょう。

それなのに、ある日突然侍ではなくなってしまったとして、これまでの教えをすぐに捨てられないと思います。

三つ子の魂百まで。錬一郎が、丁稚どんになった後も剣術を学び続けたのは「今はこんなことをしているけれど、自分は侍の子なのだ」と思うことで自分を励ましていたのでしょう。

そして10年間、その思いを大切にし続けているところを見ると、錬一郎は芯の強い真っ直ぐな少年なのだと思います。

激変する時代に翻弄される少年が目に浮かび、不憫というか、いじらしいというか。

その少年が17歳で西南戦争に自ら志願するというと、なんだか悲壮な話のように感じるでしょうか?

ところがそうではありません。なんと言ったって錬一郎が育ったのは大阪です。

大阪で商売人として鍛えられているのです。とにかく口がよく回るし、機転も効きます。

そもそも「壮兵」の応募要領には「実戦経験があること」という条件がありました。

同僚となる応募兵には「戊辰戦争で戦った」「五稜郭まで転戦した」という強者もいます。

錬一郎にはもちろん実際に戦争に行った経験はありません。そもそもの条件に合わないのです。

さて、錬一郎はどうやって「壮兵」になるのか?

この辺りは面白くて笑いながら読みました。

また、戦場である九州に行くまでに、色々なトラブルが起こるのですが、それもなんとか切り抜けていきます。

なかなかやるわね、「へぼ侍」錬一郎。

だけど、面白おかしいだけでは終わりません。

だって「戦争」なんですから。

やるか、やられるか。命を取るか、取られるかです。

また、一緒に戦う人たちにも色々な人生模様があります。

それぞれ色々な思いで西南戦争に参加してるのです。

錬一郎自身、武士の志を忘れないために参加したけれど、戦いは永遠には続きません。

この戦いが終わったら、どうやって生きていけばいいのか?

それも戦争の中で学んでいく錬一郎をぜひ見守ってあげてください。

ちなみにOSK日本歌劇団の公演で錬一郎を演じるのは翼和希さん。

NHK朝の連続テレビ小説「ブギウギ!」の橘アオイ役で注目を浴びた男役さんです。

原作を読んで予習はできました。

舞台ではどの場面をどんなふうにピックアップしているのか、とても楽しみです。
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へぼ侍
坂上 泉(著)
文藝春秋
大阪で与力の跡取りとして生まれた志方錬一郎は、明治維新で家が没落し、商家へ奉公していた。時は明治10年、西南戦争が勃発。武功をたてれば仕官の道も開けると考えた錬一郎は、意気込んで戦へ参加することに。しかし、彼を待っていたのは、落ちこぼれの士族ばかりが集まる部隊だったー。松本清張賞受賞作。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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