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おらおらでひとりいぐも(若竹千佐子)

女性とはずいぶん強くたくましいもの

おらおらでひとりいぐも
若竹千佐子(著)
若竹千佐子さん 63歳。デビュー作にして芥川賞受賞作となった『おらおらでひとりいぐも』を読みました。

パッと見ると不思議な呪文のような「おらおらでひとりいぐも」という言葉は宮沢賢治『永訣の朝』の一節です。(原文表記はローマ字で「Ora Orade Shitori egumo」)

それは、いましも命が消えようとしている宮沢賢治の妹のことばで、「あめゆじゅとてちてけんじゃ」と並ぶ印象的な言葉です。

東北が生んだ偉人 宮沢賢治の言葉をタイトルにしたこの小説は、東北弁を印象的に配置した作品でした。
一人暮らしの桃子さんは74歳。いわゆる独居老人。若い頃、郷里を捨てて都会に出てきた。同郷のハンサムな男性と出会い、結婚。二人の子どもを授かり、生み育ててきた。

しかし夫が思いかげないあっけなさで他界。つくしてつくして、つくした夫だったのに。その寂しさといったら。

二人の子どもは独立し、一人暮らしの桃子さんは今日もねずみがたてる物音を聞きながら様々な物思いに耽るのだった……。(若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』の導入部分を私なりにご紹介しました)
読み始めた時には、桃子さんがお気の毒に思えてなりませんでした。

子どもがいてもこんなに寂しそうなのだから、子どもがいない私なんてこの先どうなっちゃうんだろう、そんな暗い気持ちにもなりました。

ところが、実は孤独は開放でもあると、桃子さんは気がつくのです。人間とはたくましいものです。

この小説の大半は桃子さんひとりの描写です。でも桃子さんの中には、いろいろな「桃子さん」が居て、ああでもない、こうでもないと、意見を戦わせます。

人間はひとりでありながら、自分の中にいろいろな自分を持っている、それぞれがバラバラな意見を述べるけれど、どれもこれも本音なんだろうな。

そのいろいろな「桃子さん」が、愛について考察する時、脳内に流れるBGMが宝塚歌劇『ベルサイユのばら』の主題歌「愛あればこそ」なのには笑ってしまいました。

先行き暗く寂しいご老人の話と思いきや、最後は希望が持てました。先ほども書きましたが、人間とは、いえ女性とはずいぶん強くたくましいものです。

しかし、小説の主人公「桃子さん」以上にたくましく、希望を与えてくれたのは、著者である若竹千佐子さんではないかしら。

旦那様に先立たれたあと、55歳で小説教室に通い始め、8年かけて書いた作品でデビューを果たしたうえに芥川賞を受賞されるとは。

人間、何歳になっても「遅すぎる」ことなんてない、諦めてはダメなんだなぁと大きな希望をいただきました。

受賞作だと意識したからではなく、私はこの小説を読んで、「久々に純文学の文章を読んだワ」と思いました。

自分に向き合い、心の中を覗き込むようにして吟味された言葉の数々。ところどころに散りばめられた東北弁も新鮮で、やはり受賞するのも納得出来ました。

いまさらですが、若竹さん芥川賞受賞おめでとうございます。若竹さんと「桃子さん」のおかげで、私も「自分の夢を諦めないぞ」と、力をいただきました。
おらおらでひとりいぐも
若竹千佐子(著)
河出書房新社
74歳、ひとり暮らしの桃子さん。夫に死なれ、子どもとは疎遠。新たな「老いの境地」を描いた感動作!圧倒的自由!賑やかな孤独!63歳・史上最年長受賞、渾身のデビュー作!第54回文藝賞受賞作。 出典:楽天

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon



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