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陸王(池井戸潤)

陸王
池井戸潤(著)
本屋さんでタイトルを見た瞬間、「何それ?何の話?」と、手に取らずにはいられませんでした。

池井戸潤さんの『陸王』です。
埼玉県行田市で足袋の製造卸をしている「こはぜ屋」は創業100年の老舗。のれんに誇りを持つものの、和装が非日常になったことから足袋の需要も先細り、このままでは会社存続も危うい状態。実際に同業他社はバタバタと倒産している。

四代目社長 宮沢紘一は、新規事業を思い立つ。足袋製造で培った技術を応用して、「裸足感覚」で走れるランニングシューズを開発しようと。「こはぜ屋」の起死回生の一発となる、そのシューズの名は「陸王」。

しかし大手のスポーツシューズメーカーは潤沢な資金にものを言わせ、オリンピック選手など花形選手とスポンサー契約を結んでいる。無償でシューズを提供する代わりに、大会で自社のシューズを履いて活躍してもらい、大きな広告効果を得るのだ。もちろん、実際に履いたときの感触や、試合結果のデータを蓄積し、商品開発に役立ててもいる。

そんな業界に「こはぜ屋」は食い込むことができるのか?「陸王」は本当に陸上の王者になれるのか?!
この小説を読むと、ランニングシューズに限らず、スポーツ用品の開発は一つのメーカーだけではできないことがよくわかります。

優秀な素材を提供する会社があり、デザイン・設計をする人がいる。

その競技のノウハウを助言する人、実際に使用して改善点をフィードバックする人(選手)などなど。

多くの人が一つの夢に向かい心を合わせて協力して初めて成り立つものなのですね。

池井戸潤さんの小説は、企業にまつわるものが多いように思います。

そして、池井戸さんの小説の根底にはいつも、ただ金をもうけることを目的とせず、夢を持って打ち込むことが、働く喜びだという信念があるように思います。

そんな綺麗事ばかりが通じるか?という人もいるかもしれない。

でも、そんな綺麗事であってほしいと願う気持ちが、日本人にはあるのではないでしょうか。

少なくとも私にはあります。

だからこそ「陸王」の成功を祈らずにはいられなくなります。

いや「陸王」だけじゃない。

老舗をただ守るだけではなく、発展させたい社長。

ものを生み出す人たちの心意気。

一度何もかも失ったものの、独自の技術で再び息を吹き返す職人気質の元社長。

夢に融資したいのに、理想どうりに生きられない銀行マン。

怪我で第一線から転がり落ち、マスコミやスポーツ関係者の冷たさを身にしみて感じている陸上選手。

選手を商品開発の手段ではなく、一人の人間として尊重し、仕事に誇りを持っているシューズマイスター。

そんな一人一人を応援せずにはいられません。

だから、ページをめくる手が止められなくなりました。

結局、夜中3時半までかかって読み切っちゃいましたよ。

あ〜眠い!!

休みの前日に読む事をお勧めしておきます。

でないと、寝不足になっちゃいますからね。
陸王
池井戸潤(著)
集英社(2016)
勝利を、信じろ――。 足袋作り百年の老舗が、ランニングシューズに挑む。 出典:(出典:Amazon)
profile
池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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