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あみ りょうこ
版画家 ninjacco

AMIのAMIGO アート・芸術 2020-06-15
Vol.26 アフロメヒカーナ、の巻

オラー、こんにちは!あみりょうこです。みなさん、いかがお過ごしでしょうか。

ようやくコロナの自粛期間がおわりました。とはいっても、マスク着用、店先で見かけるようになった消毒液、レジやカウンタで客と店員の間に垂らされているビニールなど、コロナ前とは違う生活の様式での暮らしが始まりました。

慣れていくしか道はないのですが、とりあえずは自粛が終わって、見えないウイルスと広がる感染に対して神経質になっていた気持ちが、ちょっとほぐれたような気がします。

今年はコロナの話をしているうちに1年が終わってしまうんではないか、と思っていたところに、現在アメリカでは連日Black Lives Matterの抗議活動が続いているというニュースが飛び込んできました。

黒人のジョージフロイドさんが警察官に殺されたことをきっかけに抗議活動に発展していったとニュースで伝えられています。そして、デモ行進に便乗した一部の暴徒たちの過激な様子が画面に映し出されているのをみると、「なんか過激だな、こわいな」という印象を抱きかねません。

でもこの抗議活動は、単に黒人男性が白人警官に命を奪われたことに対してのみ抗議をしているのではなく、アメリカ社会の根底にある、そして長い長い間存在している構造的人種差別にうんざりしている、変えなければならないという叫びなのです。

ニュースだけではなく、SNSのサイトで友人やフォローしている人たちの発信していることを直接目にします。そして、日本のニュースサイトのコメント欄などを読むこともできます。この前者と後者の間にはものすごいギャップがあるのを感じています。

「外国のことだから放っておく」という態度では、問題があるのを知りながら、何もしないという傍観者の立場をとっている加害者になっているような気がしました。

星の王子様のような話になりますが、アメリカに自分の大切な友だちや家族がいる以上は、自分のことのように考えてみるべきなのではないか、と思ったのです。

かといって、日本で暮らしているのでできることは何かと考えたら、ものすごく基本的で些細なことかもしれませんが、それについて歴史やバックグラウンドや問題の本質を知り理解しようとすることくらいです。

差別というのはこの問題のように社会のシステムにより生み出されている場合があるにしても、その社会に住む人あるいは周りが無知だった場合それを助長してしまうかもしれません。だから最低限でも「正しく知る」ということは大切だと思うのです。

さて、みなさんは「メキシコ人」と聞くと、どのような人たちを思い浮かべるでしょうか。

メヒコは日本の5倍もある大きな国です。北はアメリカ、南はグアテマラと南北にもかなり長く、また気候も自然環境も場所によってずいぶんと違います。

浅黒い陽気なおじさんを思い浮かべた人もいるでしょうし、あるいは背の高いヨーロピアンな見た目の白人を思い浮かべた人もいるかもしれません。

私の友だちにもいるのですが、日本人やアジア人のような顔立ちのメヒコ人もいます。それでは、黒人のメヒコ人を思い浮かべた人は……?

そう、メヒコにも黒人の人たちがいるのです。彼らは「アフロメヒカーノ」と呼ばれる人たちです。

私が初めて「アフロメヒカーノ(スペイン語)」のことを知ったのは、写真の美術館でみた展示がきっかけでした。

白黒写真の中に黒人の人たちの暮らしの風景が映し出されていて、てっきりどこかの国だと思って眺めて、キャプションを見てみると「MEXICO」と書いてあったので驚いて2度見、3度見したのを覚えています。(誰の写真展だったのか、思い出せなくて写真を見つけられないのが悔やまれます……。)

「え、黒人のメヒコ人?!」

メヒコは「混血の国家」の異名を持つくらいに人種が豊かです。しかし、私の無知によるものですが、黒人のメヒコ人が暮らす町があるとは想像していなかったのです。

実際、アフロメヒカーノは忘れられた民族として、メヒコ社会の中でその歴史をきちんと語られてこられなかったという事実もあります。

1992年になってようやくメヒコ政府にアフリカの文化が、メヒコ文化に影響している3つの文化の一つに公式に認定されたのだそうです。(ちなみに、残りの二つの文化はスペインと先住民のもの)

その存在は語られることなく軽んじられたままその歴史を歩んできたアフロメヒカーノですが、食事にはしっかりとアフリカの文化が反映されているのがわかります。

メヒコ料理でピーナッツや南国のフルーツ、プランテーン(調理用バナナ)が使われているのはアフリカ料理の影響なのだそうです。(*1)
毎年7月にオアハカではゲラゲッツアというお祭りが開催されます。(今年はコロナウイルスの影響で中止が決まっているそうです。)オアハカの8つの地域の様々な村から、その村の伝統的な衣装をまとい踊りや特産物を紹介する一年で一番大きなお祭りです。

通常、開催期間中はいろいろなイベントがあるのですが、中でもおもしろいのはパレードです。道が封鎖されて練り歩いてくれるのですが、踊り子の人たちが目の前で見ることができてそれはもう大迫力!なのです。

上の写真はそのパレードを見に行った時に撮りました。アフロメヒカーノの集落は、Costa Chica(コスタチカ)とよばれるゲレロ州からオアハカ州の沿岸部に多くあるそうです。写真の彼らは、Santiago Llano Grandeというオアハカ南部にある村の人たちです。
この村の踊りは、Danza de los diablos(悪魔の踊り)といい、スペイン侵略時代にアフリカから奴隷として連れてこられた人たちが、Rujaというアフリカの神様に、助けとつらい労働環境からの解放を願うための儀式的な踊りなのだそう。(*2)ダンスの映像
アフロメヒカーノのことを調べるにつれ、彼らがメヒコ国内でも貧困にあえぐ地域に多いことや、社会的な差別を受けているということがわかりました。

メヒコ国内ですら彼らの存在や歴史が語ってこられなかったことが人々の無知につながり、それが差別につながっているというのが現実です。

国として現状を把握しようとする動きもようやく始まったばかりのようです。10年ごとの国勢調査の間に行われた2015年の調査ではじめて黒人のメヒコ人の数を把握する為に自身の人種のバックグラウンドをどう認識するかについての質問が設けらたそうです。(*3)

今年(2020年)は、メヒコでは国勢調査が行われます。その結果で、ようやくメヒコにおけるアフロメヒカーノの人たちの実態がデータとして見えてくるのかもしれません。

メヒコに黒人の人たちがやってきたのは何百年も前のことで、その間に培われた伝統や文化もあります。

それらがこれからは認められ、語られ、そして彼らが様々な権利を享受できるようになってほしいと願います。自分や祖先のルーツを知り誇りを持つことで彼らの文化がますます輝いていくのだと思います。

あの写真を見た時に(初めてアフロメヒカーノの存在を知った時)、どうしてもっと深く調べなかったのか、せっかく同じ国にいたのにな、という気持ちです。

人種差別は、日本に住んでいるとなかなか身近なこととしては捉えにくいような気がします。そして、今回のアメリカのことにしてもメヒコのことにしてもどこか遠くの国の話で直接は関係ないようにもみえます。

しかし、それについて少し調べてみたり背景を見てみると、結局は人権の問題で決して他人事のように捉えるべきではないと思います。

今回自分なりに調べたり、人と話し合ってみたりして、これはものすごく根が深い問題だという認識をさらに強めました。

でも正しく知ろうとしたことをきっかけに、”silence is violence(黙っていることは暴力と同じこと)”とも思い、このようなテーマでコラムを書いてみました。
Danza de los DiablosをYouTubeで見始めたのを皮切りに、次々とオアハカの動画が再生されました。町を歩いているだけでふいにでくわすパレードの踊りや音楽が思い出されて、オアハカを恋しく思います。

コロナの影響で今はすっかり町に観光客がいなくなり静かな状態が続いているそうなので、はやくコロナが落ち着いて再びそのような光景が日常に戻ってくるといいなと思います。
 
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あみ りょうこ
版画家

1982年大阪生まれ、兵庫育ち。メキシコのオアハカ州での暮らしを経て、2020年から日本に。 ものつくりが好きで、オアハカで版画に出会い制作を続けている。
HP:https://amiryoko.wordpress.com/
instagram:ninjacco
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