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小森 利絵
フリーライター えんを描く

おてがみじかん ライフスタイル 2025-06-18
お手紙とわたし~新川愛さんと万智さん編①~

私のまわりにいる「日常の中でおてがみじかんを楽しんでいる人」にインタビュー。「お手紙ってかたい印象があったけど、いろんな楽しみ方があるんだ」「基本、書くことは苦手だけど、肩の力を抜いて書いてみようかな♪」と、お手紙を書いてみたくなるアイデアやヒントを教えていただきます。

8人目は新川愛さんと万智さんです。以前、本コラムの「伝えないと、伝わらない」(2023年4月)で、娘がお世話になった中学校の担任の先生にお手紙を書いたことを書きました。そのきっかけをくださったのが愛さんと万智さんです。愛さんが「万智がお世話になった学校の先生に、お手紙で感謝を伝えた」とのお話を聞かせてくださったから、私もちゃんと感謝の気持ちを伝えていきたいと行動を起こせました。

新川さんのおうちでは、一人ひとりが“お手紙書きセット”を持っているほど、お手紙が日常にあります。連絡手段が電話や手紙が主流だった世代の愛さんと、LINEやSNS世代である10代の万智さんへのインタビューを4回に分けて紹介します。

1回目は「時間も手間もかかるからこそ」編。どんな時にお手紙を書いているのか、愛さんが今楽しんでいるアプリを通した国際文通のこと、高校生の万智さんが今までの人生で一番心にしみたお手紙のことなどのお話をうかがいました。
最近、どんな時にお手紙を書いていますか?

愛さん:何かを送っていただいた時のお礼状とか、家族の節目のお知らせとかを書くことが多いですね。

愛さんから「万智さんがお世話になった学校の先生に、お手紙で感謝を伝えた」というお話をうかがって、私も娘がお世話になった学校の先生にお手紙を書きました。感謝を改めて伝えるお手紙、いいですね。

愛さん:口で伝えると「ありがとうございました」の一言で流れてしまうところを、どんなことがありがたかったのか、あの時どんなことを思ったのかといったことを自分の中で整理して、それを先生にお伝えしたいと思ったから、お手紙にしたんです。気持ちや思いを伝えることで、先生にとって何かしらの励ましのメッセージにもなればいいなぁとも思いましたね。

今回、このお手紙インタビューを受けることになって、子どもたちとも「お手紙のいいところってなんなん?」と話したんですけど。やっぱり、郵便受けにお手紙が届いていたら嬉しいし、楽しい気持ちになりますよね。書くとなると正直、面倒くさいなぁとなるんですけど、受け取ると嬉しいですし、わくわくもします。そういう気持ちも贈ることができたらいいなぁと思うから、今もお手紙を書き続けているのかもしれないですね。

万智さんはどんな時にお手紙を書きますか?

万智さん:めっちゃ思いつきです。気持ちが動いた時に書いちゃいます。

愛さん:そう、万智は基本的に机が整理整頓されているから、書こうと思った時にすぐ書き始められるよね。うちの家では、“お手紙書きセット”というものがありまして、便せんや封筒、はがき、切手など、お手紙を書くのに必要なものは常備しておくようにしています。それを一人ひとりが持っているんです。

「あの人に、この便箋で書こう」という当て書きもあるけれど。出かけ先で、「かわいいのがある~」となったら買ったりして。いつでも書けるように用意しているものの・・・・・・私は机のまわりがぐちゃぐちゃしているから(笑)。いろいろ掘り出して、書くまでに時間がかかる! 万智は「書こう」と思ったら、気軽な感じで書き始めているから、それを見習おうと思っています。

お手紙書きセットを用意したり、机を日頃から整理整頓しておいたりするなど、「お手紙を書こう」という気持ちになった時、すぐに書き出せる環境って大事ですね。万智さんがお手紙を書きたくなる“気持ちが動く時”とは、どんな時ですか?

万智さん:小学生の時は「めっちゃ楽しみ」「また遊ぼう」といったお手紙を書いていましたが、中学生になってからはお誕生日のお祝いや感謝の気持ちをより伝えたいなぁという時に書きます。その分、書く頻度は減りましたが、お手紙に対しての丁寧さは強くなってきたかな、と。

最近で一番頑張って書いたお手紙は、中学を卒業する時です。いろんな友だちに何枚もお手紙を書きました。ほかにお手紙を書いてくれる子はあまりいなかったんだけど。渡したら「嬉しい」と言ってもらえたから、やっぱりお手紙っていいなぁって。でも、お手紙を書くことは面倒くさくもあるから、なかなか書くことはないんですよね。高校生になってからは、年賀状やお誕生日の「おめでとう」の一言だけとか。

愛さん:大人になってからのお手紙も「これを送ります」とか、「送ってくださり、ありがとうございます」とか、挨拶状やお礼状が多いですよね。自分の心の内をしたためることは減っていて。そう考えると、小学生の時のほうが「楽しみ」と気持ちが乗っているのがいいなぁって。気持ちを乗せることが楽しいことに気づいたら、お手紙はおもしろくなるんじゃないかなと思いました。

確かに、そうですね。大人になると、子どもの頃に書いていたお手紙のような、楽しい気持ち、嬉しい気持ちをあまり書かなくなる気がしました。

愛さん:大人になった今、書くお手紙というと、テンプレートみたいな感じになっているから。形だけやったら必要ないと書かなくなってきた人も多いのかなと思いますね。物を送ってくださる時も、以前は添え文があったけれど、今は物だけがぽーんと届くことも増えてきました。そのお礼としてLINEで「ありがとう。おいしく食べました」と送ったら、それこそお手紙の文化をどんどん廃れさせていくかもしれないから、私はお手紙を書いて送ろうと。そうやって、あえてお手紙を書いている感じもありますね。
「お手紙をもらうと嬉しい」という体験が、また誰かの「書こう」という気持ちにつながるかもしれないですよね。

愛さん:話は少し逸れるかもしれないのですが、私は今、スマホの文通アプリを利用しています。その中で、感じていることがありまして。今はメールやLINEがあって、面倒くささで言ったら、その1つ面倒くさいところにお手紙というツールがあるけれど。それやからこそ表現できる気持ちがあるかなと思います。フレンドリーシップ・・・・・・日本語で言うと、友情が深まる。LINEよりお手紙という、しんどさも面倒くささも伴うもののほうが、深まりそうな気が、私はしているんですけど。

「文通アプリ」というものがあるんですね。

愛さん:アプリなんですが、メッセージを送っても相手にすぐに届かず、それぞれの居住地の距離感を考慮して数時間から数日かけて届きます。まるでお手紙をやりとりするみたいな時間感覚なんです。そこで出会った海外在住のジミーさんと国際文通をしています。

英語でのやりとりなので、ぱぱっと書けなくて「何を書こうかな」と考えて、英語ではどう表現するのかをさらに考えて。最初は1通を書くのに4時間もかかりました。ジミーさんからのお返事は英語でだから、読むのもまた大変で。でも、相手が自分だけに向けて書いてくれていることだから、興味を持って読み進められるんですよね。そんなふうに時間をかけてやりとりできるのが、LINEとは違うところで、お手紙に近いところだなぁと思っているのですが。

「すぐには届かない」など、お手紙の持つ“ゆるやか”な時間を少し再現しているアプリなんですね。さらに、国際文通だから英語でのやりとりで、メッセージを綴るのにも時間がかかる!

愛さん:先日「すごく嬉しいです。楽しい気持ちです。笑顔になります」と送ったら、ジミーさんも同じように「笑顔になります。楽しみです」と言ってくれて。ここ最近は、ジミーさんが日本語で返してくれるようになったんです。やりとりを通して、ジミーさんにも新しい変化が起こっているのかなと感じた出来事でした。

ジミーさんが言うには、「世界の遠く離れたところに、自分の知り合いがいることは、とても素敵なことです」と。私もジミーさんが虹を見た時に写真を撮って「あなたに見せたいと思った」と書いて送ってくれたことはすごいことだなぁと思いました。

こんなにも離れた場所に、私のことを思ってくれている人がいる……人間っておいしいもんを食べたり、美しいもんを見たりしたら、あの人にも食べてもらいたいなぁとか、あの人にも教えてあげたいなぁとか、共有したい気持ちが生まれますよね。それがこんなに距離が離れていてもできることは素晴らしいことやなぁと感じていました。

お話をうかがっていると、時間も手間もかかる度合いが高くなるほどに、関わりが深くなる気がしますね。

愛さん:今の若い人たちにとっては異論があるかもしれませんね。LINEのほうがすぐに送れますし、たくさんやりとりもできますから。
万智さんはそのあたりどう思われますか?

万智さん:LINEよりもお手紙のほうが重いと思います。LINEでメッセージをもらうのも嬉しいけど、お手紙のほうがより嬉しい。メッセージを受け取るのはどっちも同じだけど、返事をする時間のかけ方も、お手紙のほうが長いから。

LINEだったら、メッセージを受け取ったらすぐに「ありがとう。嬉しい」とポチっと押すだけ。それがお手紙だったら、1文1文読みながら「こう考えてくれたんや」「これは嬉しいな」と思ったり、それを受けて「どう返事しようかなぁ」と考えたり、相手のことを考える時間が長いから。いろんな感情が見えてくるし、自分の記憶にも残りやすい。その時間に意味があるのかなぁと思いますね。

愛さん:ほんまやな、ほんまやわ。簡単に言うたら“心がこもっている”ということやろう?

万智さん:そうそう。心がこもっている。相手への丁寧さを感じるというか。お母さんはジミーさんのお手紙を書くのに最初4時間くらいかかったと言っていたけれど。相手にかける時間が、お手紙のほうが長いんですよね。

愛さん:その間ずっと相手のことを考えますもんね。

万智さん:それが大事なんかなと思いました。LINEで「あけましておめでとう」というメッセージやスタンプが送られてくるより、年賀状で届いたほうが嬉しい。一手間あるからかな。

変なたとえかもしれないですけど、学校にスープ弁当を持って行くことがあるんですけど。母と父が私を思って「お昼ごはんの時間に少しでも温かく飲めるように」と、専用ボトルにお湯を入れて温めた上でスープを注いでくれているんです。そういう一手間のおかげで、私は温かいスープをお昼に飲むことができていて、そのことが感謝の気持ちとともに記憶に残っています。お手紙もそれと似ていると思うんです。

そこまで背景を想像されているなんて! 万智さんの受け止め力がすごいです。

万智さん:私が16年生きてきた中で一番、心にしみると思ったお手紙がありまして。小学生の妹が、大学生の姉が留学に行く前に書いたお手紙です。

「真実へ。万森(まもり)だよ。お姉ちゃんが留学に行くと聞いて、びっくりしました。万森はお姉ちゃんが大好きやから、めっちゃさみしいです。もっと一緒にいたいし、毎日『あと3日』『あと2日』と数えています。もし行く時になったらと考えると、泣きそうになっちゃうよ。でも、お姉ちゃんだってとっても不安だと思う。だから、万森も最後まで元気に明るくいるよ。だから、お姉ちゃんも明るく元気にカナダでも頑張ってください。さみしいけど、帰ってくるまで待っているよ。万森はお姉ちゃんが大好きだから、絶対に忘れません。4カ月だけやけど、ずっとずっとお姉ちゃんのことを思って、家で待っています。頑張ってね。お姉ちゃん、大好きだよ。万森より」って。

このメッセージもいいなぁと思うんですけど、妹と姉は漫画『ONE PIECE』が好きで、妹は宝物のように大切にしていたシールを貼って、そのキャラクターの話し言葉で「真実、おまえは俺の仲間だ。頑張ってこい。ゴムゴムの仲間より」と書いていて。さらには、ほかのキャラクターの絵も描いて「俺、さみしいけど、応援してるぞ。さみしくなんかねえぞ、この野郎」って、キャラクターになりきってメッセージを書いているところも、私にはない発想だから。メッセージを考えるだけでも時間がかかるし、それを書くのも大変なのに、シールを貼ったり絵を描いたり、キャラクターになりきってメッセージを書いたり・・・・・・一生懸命に書いていることが伝わってきて、自分宛てのお手紙ではないんですけど、見て感動しました。

万智さんが心にしみたお手紙を書いた万森さん(写真右)
(2024年8月取材)

<お話をうかがって>

万智さんのお話をうかがって、お手紙は書かれているメッセージにはもちろん、便せんや貼っているシールなど一つひとつに、気持ちも思いも宿るのだと改めて感じました。時間も手間もかかるからこそ、「また、時間がある時に」と先延ばしにしたり、面倒くささも感じてしまったりすることもあるものです。しかし、時間も手間もかかるからこそ、愛さんとジミーさんのやりとりのように、関わりが深まっていくものがあるのだとも思います。

また、大人になると、お手紙を書く機会といえば、その多くは書類や贈り物の添え状などではないでしょうか。愛さんがおっしゃるように、定型文化されているものがほとんどです。そうなってしまうと、「必要ないんじゃないか」「LINEなどで『送ります』と一言連絡しておけば十分じゃないか」となってくるかもしれません。SDGsの観点からも、ますますそうなっていくようにも思います。

お手紙をもらって「嬉しい!」と感じるポイントの一つは、自分に向けてのメッセージが書き綴られていることではないでしょうか。書類を送る添え状であっても、定型文で終わらず、1文でもいいから、受け取った相手が「あ、私に向けてのメッセージが書かれている」という嬉しさや楽しさを感じられるメッセージを書きたいなぁと改めて思いました。

次回は「気持ちが『あの日に戻れる』」編。部屋の片づけ中にふとお手紙を読み返してしまう時間、過去にもらったお手紙がその当時に引き戻してくれて、再びつながるきっかけを与えてくれたことなどのお話をうかがいました。
profile
レターセットや絵葉書、季節の切手を見つけるたび、「誰に書こうかな?」「あの人は元気にしているかな?」などアレコレ想像してはトキメク…自称・お手紙オトメです。「お手紙がある暮らし」について書き綴ります。
小森 利絵
フリーライター
お手紙イベント『おてがみぃと』主宰

編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』
 

著書『おてがみじかんで ほんの少し 心にゆとりを』

家族や友だち、仕事仲間、お世話になっている人、出会う人・・・・・・日頃、おしゃべりしたり、メールしたりして、気持ちや思いを伝え合っているつもりでいても、心に秘めたままのものがあったり、言葉にするのをためらっているものがあったりするものです。中には、自分でも気づけていない気持ちや思いもあるでしょう。

お手紙は、日頃は言葉として出てこない気持ちや思い、それに気づいて、認めて、改めて伝えるきっかけをくれるような気がします。なぜなら、お手紙を書く時間というのは、相手に思いを馳せて向き合うとともに、自分自身とも向き合うことになるからです。

お手紙を書くこと、やりとりすることで、「あ、わたし、こんなことを思っていたんだ」「あの人、こんなことを思ってくれていたんだ!」「あの出来事、こういうふうに感じていたんだ」と気づく機会となり、再びコミュニケーションを重ねていく“はじまり”のきっかけにしませんか?

本書は、著者の日常にある“お手紙というものがある時間”について書き綴ったエッセイです。この本を読んで、「あの人、元気にしているかな?」「あの人に改めて『ありがとう』という気持ちを伝えたいなぁ」など、ふと顔が思い浮かんだ“あの人”にお手紙を書いてみようかなぁと思っていただけたら嬉しいです。⇒amazon
 

『おてがみぃと』

『関西ウーマン』とのコラボ企画で、一緒にお手紙を書く会『おてがみぃと』を2ヵ月に1度開催しています。開催告知は『関西ウーマン』をはじめ、Facebookページで行なっています。⇒『おてがみぃと』FBページ

お手紙とわたし~新川愛さんと万智さん編①~ ライフスタイル  new 小森 利絵フリーライター
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