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あみ りょうこ
版画家 ninjacco

AMIのAMIGO アート・芸術 2020-05-18
Vol.25 タコス屋さん、の巻

オラー、こんにちは!! あみりょうこです。先月のコラムより、また一か月。コロナの騒ぎはまだ続いています。一日も早く元の生活が送れるようになってほしいと切に願うばかりです。終わりが見えない状態というのは本当に苦しいなと感じる今日この頃です。

閉塞感の漂う現状の生活ですが、窓の外に目をやると緑の木々がもりもりとしてきた山が力強いです。新緑の季節ですね。

さて、先月より回想メヒコのくらしシリーズになっているのですが、オアハカ最後の日々に撮りまくった街のなんでもない写真を眺めながら今月は何を書こうかなと思って、過去コラムにもざざっと目を通しました。そして私は今唖然としています。

「タ、タコメールのことが書いて無いやんか……!!」

と。

タコメールとは、私が住んでいた家の近くにあるタコス屋さんの名前です。Tacos(タコス)とComer(食べる、という意味の動詞)をかけ合わせてつけられた造語です。

日本語でも「-u」の音で終わったら動詞をつくれるように、スペイン語でも-ar、-ir、-erで終わらせれば動詞を勝手に作って遊ぶことができます。

-ar、-ir、-erで終わるこれらが動詞の原形で、後は一人称、二人称、三人称に応じて語尾変化をさせて活用させます。

スペイン語のこの語尾変化が慣れない頃は「ほんまにか?」というような語尾変化で思わず笑がこみ上げてくるようなかわいらしい響きです。

例えば、食べるを意味するComer(コメール)ですが、

● 1人称単数(私)Yo como(コモ)

● 2人称単数(君)Tú comes(コメス)

● 3人称単数(彼・彼女) Él / Ella come(コメ)

● 1人称複数(私たち)Nosotros comemos(コメモス)

● 3人称複数(彼たち・彼女たち)Ustedes comen(コメン)

といった具合の活用になります。1人称複数(私たち)に対する活用語尾は「~モス」とつくので、その活用の音が特に面白いなぁと思います。

他にも「アセモス(する)」「カミナモス(歩く)」「コレモス(走る)」「トマモス(飲む)」「アブラモス(話す)」など、モスが付いたらなんか無理やりつけているみたいな気分になって面白いなぁと思ってしまうのです。

それこそTACOMERを動詞として考えるなら、「Tacomemos!(タコメモス)」と活用すると「タコメールでタコスを食べようぜ!」となります(理論上)。

というわけで、そういう言葉遊びができるようになってくると、他言語が立派に暮らしのツールになってくれていると上達を感慨深く思います。さむいとわかりながら言う言葉はある意味とても甘美で、ついつい使いたくなってしまいます。

というわけでこの面白くないダジャレ的なフレーズを使うのはとても愉快なので(自分が)、それがわかってくれる友だちには「タコメモス??」 などとにやにやしながら聞いていたものです。

話が少しそれましたが、今までタコメールのことを書いていなかったのは驚きでした。

そもそもタコスとは、トルティージャに具をはさんだもののことを言うのですが、私はむしろ日本の焼き鳥のような感覚の食べ物だなぁと感じています(タコス屋さんのタコスは豚か牛ですが)。

というのも、その中に挟む「具」と一言で言っても実に様々な部位があるからです。ほほ肉や、耳、内蔵、など本当に様々です。

タコス屋さんによって何を扱っているのかなどは全然違うし、好みもあるので一概にこれがおいしいとは言いにくいですが、このタコメールのおすすめは「パストール」です。
「ケバブ」を想像してもらえればイメージがわきやすいと思います。

串に豚肉を刺して大きな肉の塊「トロンポ」なるものに、外側から強烈なバーナーのようなメラメラとした火を加えながらぐるぐるとまわして焼かれます。それを注文が入るたびにナイフでこそぎ落としてサーブされます。

いい感じに薄くスライスされた肉の上に、串の肉塊のさらに上に鎮座するパイナップルもシュッとこそぎ落として乗せてくれます。注文するときに

「Con todo(コントド)?」

と聞かれるのですが、これは「全部のせてもOK?」の意味です。

この場合の「全部」というのは大体、玉ねぎのみじん切りとシラントロ(パクチー)のみじん切りのことを指します。

メヒコ料理ではシラントロが使われることが多いのでみんな好きなのかと思いきや、意外と「シラントロ抜きで」と注文している人もいます。

このパストールのサーバーの動きはめちゃくちゃ美しくていつも見惚れてしまいます。

バーナーのゴオオオオオという音と赤い光に照らされた真剣な顔が次から次へと肉をそいでパイナップルをピュンと飛ばしてタコスを完成させていく様子は、もはや芸術!!

おそらくタコスを食べるのも好きであろう肉厚な丸い背中をみると、ああ、この人のつくるタコスならうまいに違いない、と食欲も倍増する心地です。
「コントド」で頼むとこんな感じで出てきます。
あとはお好みでサルサをかけて食べます。リモン(ライム)を最後にキュッと絞るとめちゃくちゃおいしいです。

ちなみに私の好きな組み合わせは、コントド + ピコデガジョ(トマト、玉ねぎ、チリのみじん切りのサルサ/写真一番奥)+ ワカモーレ(アボカドのサルサ)+ サルサベルデ(緑のサルサ/写真手前)+ リモンです。
意外かもしれませんが、タコス屋さんにはアルコールを扱っていないところが結構あります。

食事としていく人も多いと思いますが、飲んだ後の〆的に食べに行く人も多いと思います。実際、朝方まで空いているタコススタンドなどもあります。

また、メヒコで一番時間をかけてたくさん食べるのは昼食(しかも日本と比べて遅め)で、晩御飯も遅く軽く済ませる人も多いので、タコスを少量ぱぱっと食べに来る人も多いです。

メヒコのレストランは基本的に水などのサービスがないので、飲み物を何にするか聞かれるのですが、タコスには炭酸の飲み物がやはり合います。しかし、私の一押しは「アトレ」という飲み物です。

アトレは通常トウモロコシの粉を溶いた飲み物の場合が多いのですが、タコメールでアトレと頼むとあたたかい牛乳がゆのような飲み物が出てきます。

米を主食にする日本人からしてみると、米と牛乳の組み合わせってどうなん?! と最初こそ違和感があるのですが、このあたたかい優しい味のする飲み物は飲むとほっこりして、タコスとの相性も不思議といいのです。

食事をするシーンを思い出しながらこのコラムを書いていると誰かとテーブルを囲むっていいなぁ!! という気持ちになります。

コロナの規制の中で友だちとゆっくり会うこともレストランでわいわい食べることができませんが、早くそれができるようになればいいなと心待ちにしているところです。

あそこのあれが食べたいなぁ、とか、あの子と食べたいなぁ、とか、あんな話をしたいなぁ、とか、たい・たい・たい が頭を満たします。

来月このコラムを書くころにはそれが実現できていればいいなぁ、と期待を込めて。そして、今できることをやるしかないと言い聞かせて動きたいです。

看護師として働いている友達と話しているとやはり、「手洗い・マスク・消毒の徹底、後はうろうろ出歩かず家にいてもらえたら助かる」と話していたので、まずは彼らが安全に働けるためには、これらを徹底しようと思いました。

皆様もどうぞ健康・安全にお過ごしください。
works
【今月の作品】
社会的(世界的)に大変なこの状況で、明るい兆しが見いだせないと暗い気持ちになってしまいがちなのですが、そんな中で真っ先に考えるのは家族のことであったり、友だちのことでした。元気に過ごせているかな、大丈夫かな。

世の中がこんなにも混乱しているなかで、もちろん社会のため世の中のために力になりたいという気持ちもあるのですが、規模が大きすぎてその方法がわからない……という中で、せめて自分が大切に思っている人たちには想いを伝えたい、という気持ちを私なりの形にしました。できるところから、そして徐々にそれを拡大させていければいいなと思います。
profile
あみ りょうこ
版画家

1982年大阪生まれ、兵庫育ち。メキシコのオアハカ州での暮らしを経て、2020年から日本に。 ものつくりが好きで、オアハカで版画に出会い制作を続けている。
HP:https://amiryoko.wordpress.com/
instagram:ninjacco
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