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藤田 由布
婦人科医 レディース&ARTクリニック サンタクルス ザ ウメダ

婦人科医が言いたいこと 医療・ヘルシーライフ 2023-12-14
不妊症ってナニ?! 〜治療を受けるタイミングって?〜

不妊治療クリニックには、夕方18時以降に大勢の女性患者さんが来院します。

20代、30代、40代の様々な年齢層の女性、スーツ姿の女性、小さい子供を抱えた女性、ご夫婦そろって相談に来られる方、いろんな背景を抱えた方が不妊治療のために来院されます。

2022年から不妊治療が保険適応となり治療費の負担額がうんと低くなり、不妊治療の敷居が低くなりました。

人工受精は1回2〜3万円していましたが、保険適応で5千円程度となりました。

体外受精や顕微授精といった高度生殖医療もこれまで数百万円かかるものが常でしたが、保険適応で10万円程度にまでなりました(採卵や移植回数によって増減する)。

保険適応を機に、不妊治療に踏み切るようになったご夫婦も少なくありません。
どういう状態が「不妊症」?
不妊とは、妊活を開始して1年経っても妊娠が成立しない状態をいいます。

日本は今、6組に1組が不妊だとも言われており、理由はさまざまです。

年齢も20代前半の女性もいれば、40代後半になって「やっぱり子供がほしい」と相談に来院されるご夫婦もいます。

ルナルナなど月経アプリを使って排卵日をチェックして、来る月も来る月もタイミングをとって性交しても妊娠に至らず、自分は不妊症なのではないだろうかと心配になって来院される方もいます。
女性も男性も、年齢を重ねるにともなって妊娠に適した身体の機能が低下していきます。

20代の若い女性でも、1回の生理サイクルで妊娠する割合は30%そこそこです。

ですので、自分は不妊なのかな、と心配してしまうことは特に珍しいことではありません。
※参考:厚労省「出生動向基本調査2015年」
不妊の原因は男性にだって関係しています
上の円グラフから見てわかるように、不妊症の原因は女性だけというわけではありません。

半分は男性側にも原因が関係しています。

世界保健機構(WHO)の調査では、不妊症の原因は男女半々という結果もあります(7273カップルの不妊症の原因調査報告)。


しかし、いつも女性だけが不妊治療の外来に訪れることが多いのです。

女性患者さんに、パートナーの精液検査を勧めることが多々あります。

実際に、結構な割合で「うちの夫は精液検査してとお願いしても、なかなか行ってくれません」という相談を受けます。

妊活を全て女性に任せて、あたかも自分には関係のないことだと勘違いしている男性がいます。
婦人科診療をしていると、女性側の意見ばかり聞くことになるので、医師が「男性の本音の部分」を知りようがないのは仕方ないことです。

しかし、これは声を大にして言いたいのですが、精液検査をして「異常」があることが実際には割と多いのです。

男性の精液に問題がある時は、精子の通過障害、造精機能障害、前立腺炎、射精問題など様々な原因が考えられます。

別のコラムで「男性不妊の原因」について詳しくお伝えします。
不妊治療の際は、育毛剤は使っちゃダメ?!
育毛剤を使っている男性は、かなりの割合で精子の濃度が薄く、精子の運動率が低く、精液所見が悪いです。

育毛剤に含有されるいくつかの成分は、男性ホルモンの活性を弱めてしまうからです。

男性ホルモンは精子形成にも重要な役割を持っているので、男性ホルモンの活性がブロックされると、精液の濃度や運動率に悪影響を与えてしまうのです。

妊活中は、男性の方は育毛剤の使用を中止することをお勧めします。

これを説明しても、「うちの旦那、何度いっても育毛剤を止めてくれません…。今度、旦那を連れてくるので、先生から育毛剤を止めるように言ってもらえませんか?」と相談されることも多々あります。
「うちの夫、やっと内服薬を止めてくれたのに、こっそり育毛スプレー剤を使い続けていたんです。」

これもよく相談されることですが、内服薬もスプレー剤も同様です。

実際に、育毛剤を止めてから精液所見がみるみる改善された症例をいくつも経験しました。

乏精子症なら男性ご自身の治療をすることで、妊活がもっとスムーズにいくことも多々あるのです。早めの受診をお勧めします。
どういった時に不妊治療外来を受診するべき?
不妊治療は男女共に外来を受診して、一緒に治療していく姿勢が大事です。

とはいえ、不妊治療に通院するのは常に女性側です。

時間と費用を延々と費やす女性をリスペクトしないなら、カップルの子育ての行方も容易に想像できそうです。

妊活を開始して1年間妊娠に至らないなら、不妊治療外来を受診するのをお勧めします。
これらに該当する女性は、妊活前に受診して欲しい!
女性の場合、以下に該当する方は、妊活を開始する前に、できるだけ早くに不妊治療外来もしくは婦人科外来での相談をお勧めします。

● 生理不順がもともとある(排卵障害やホルモン異常の可能性)
● 生理痛がもともと重い(子宮筋腫や腺筋症や内膜症の可能性)
● 不正性器出血がたびたびある(ホルモン異常や月経異常の可能性)
● 過去にPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の診断を受けたことがある
● 過去にクラミジアや淋菌といった性感染症の診断を受けたことがある(子宮頸管炎や卵管通過障害の可能性)
● 性交痛がある(子宮内膜症や子宮奇形の可能性)
● 精神科に通院している(内服薬によるホルモン異常の可能性)
● 基礎疾患がある(内分泌異常やその他様々な原因の可能性)


排卵障害、子宮内膜症などの婦人科疾患、基礎疾患のための薬物の影響、ホルモン異常などが見つかるかもしれません。

気になる方は、妊活する前に受診をお勧めします。
ブライダルチェックはしておくべき?
ブライダルチェックとは、妊娠を控えている女性を対象とした「婦人科検診」を含む「健康診断」のことです。

必ずしも「結婚」を控えている女性だけでなく、近い将来に「妊活」を考えている女性なら誰でも受診することができます。

普段、症状がない女性でも、妊娠や出産に影響を及ぼすような病気が隠れていることがあります。

どんな女性でも、何歳であっても、事前に診察しておくことで早期発見や早期治療で、無事に妊娠・出産を迎えることが出来ます。

なお、ブライダルチェックは、会社の健康診断での検査とかぶっている項目もありますので、ブライダルチェックを受診する際に健康診断の結果を持参されることをお勧めします。
ブライダルチェックは、検査項目のメニューも価格も医療機関ごとに全く異なってきます。

全国の婦人科クリニックと私の勤務する施設のブライダルチェック検査項目をざっと見比べてみましたが、主に感染症の有無を調べることが多いようです。

淋菌や、クラミジアの性感染症は非常に多くみられ、感染者の9割が無症状なことが多いです。感染に気付かないまま長期間放置すると、不妊などにつながることもあるから検査が重要となってきます。

HIVや、梅毒や、B型肝炎は性行為により感染するものですが、潜伏期間が長く、感染していることすら気付かずに過ごしている可能性があります。

感染していると、胎児にも影響があるため、妊娠前に発見して治療をすることは大変重要となってきます。

ブライダルチェックは保険診療ではないので自費診療となり、割と高額です。

感染症検査のほかに、子宮頸がん検査、超音波検査(子宮卵巣の状態を検査)、採血検査なども組み込まれていることが多く、トータルで2〜3万円前後が相場価格です。

だいたいの相場費用の目安を下記します。
感染症検査のほかに、女性ホルモン値が正常か、卵管が左右ともきちんと通過しているか、ホルモン値が正常か、凝固異常が存在しないか、子宮内の着床部位に障害がないか、といった重要な検査がブライダルチェック項目に入っていることもありますが、通常はオプションで追加費用が加算されることが多いです。

婦人科疾患が元々あったり、生理不順で排卵障害などが気になる方は、早めの受診をお勧めします。

かかりつけの婦人科がある女性は、主治医の先生にお尋ねください。
妊活を考えたら、すぐに受診しても良いです
妊活を開始して1年たっても妊娠に至らない場合に「不妊症」と診断しますが、1年経たなくても、妊娠しにくい原因がないかどうかを調べることは大事です。

特に、30代後半になって妊活を開始する場合は、速やかに不妊治療外来を受診して相談することをお勧めします。

高度生殖医療(体外受精など)は、43歳以降は適応されません。費用のケタが何十倍もかかってしまう場合もあります。

妊活を考えた時が、受診する時といっても過言ではありません。

どんな些細なことでも、お気軽にご相談くださいね。

別のコラムでは、妊活中のタイミングの取り方や、女性の不妊の原因、検査の種類、男性不妊、不妊治療のステップ、不妊治療の費用などについて説明しています。
参考:富士製薬工業株式会社「赤ちゃんがほしいあなたへ知っておきたい不妊の基礎知識」
profile
全国で展開する「婦人科漫談セミナー」は100回を超えました。生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期障害は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、HPVワクチンのこと、婦人科のカーテンの向こう側のこと、女性の健康にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。
藤田 由布
婦人科医

大学でメディア制作を学び、青年海外協力隊でアフリカのニジェールへ赴任。1997年からギニアワームという寄生虫感染症の活動でアフリカ未開の奥地などで約10年間活動。猿を肩に乗せて馬で通勤し、猿とはハウサ語で会話し、一夫多妻制のアフリカの文化で青春時代を過ごした。

飼っていた愛犬が狂犬病にかかり、仲良かったはずの飼っていた猿に最後はガブっと噛まれるフィナーレで日本に帰国し、アメリカ財団やJICA専門家などの仕事を経て、37歳でようやくヨーロッパで医師となり、日本でも医師免許を取得し、ようやく日本定住。日本人で一番ハウサ語を操ることができますが、日本でハウサ語が役に立ったことはまだ一度もない。

女性が安心してかかれる婦人科を常に意識して女性の健康を守りたい、単純に本気で強く思っています。

⇒藤田由布さんのインタビュー記事はこちら
FB:https://www.facebook.com/fujitayu
レディース&ARTクリニック サンタクルス ザ ウメダ 副院長
〒530-0013 大阪府大阪市北区茶屋町8-26 NU茶屋町プラス3F
TEL:06-6374-1188(代表)
https://umeda.santacruz.or.jp/

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