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藤田 由布
産婦人科医 レディースクリニック サンタクルス ザ シンサイバシ

婦人科医が言いたいこと 医療・ヘルシーライフ 2024-07-11
流産が連続で続いたら「不育症(習慣流産)」です

流産を繰り返す辛さは計り知れないものです。

女性の年齢とも関連していますが、原因はさまざまです。

辛い時間を一人で過ごさずに、産婦人科で相談してくださいね。

検査をしたり、原因検索したりして治療で解決できることもあります。そして、必要な場合は高度医療機関に紹介させていただきます。

諦めて欲しくないのです。

不育症と診断された方でも、8割以上の方が出産しています。
不育症って、どういう状態?
妊娠しても、流産や死産を2回以上連続繰り返す状態を「不育症」いいます。

反復流産、習慣流産ともいわれます。

厚労省の報告によると、妊娠した女性の役4割が「流産」の経験があるのです。

女性は自分の流産の経験を他の人に言わないことが多いので、実はこれだけたくさんの女性が流産の経験を一度は経験しているという事実は、世間ではあまり知られていません。

その中で、2回以上の流産や死産を繰り返す「不育症」の方は、約2〜3万人いらっしゃることがわかっています。
けれども、不育症と診断された方でも、専門外来で検査や治療を受けて、8割以上の方が無事に妊娠・出産を迎えています。

誰にも相談できずに過ごしている方は、決してご夫婦だけで悩まずに、専門外来で相談して欲しいです。
不育症原因
不育症の4大原因は、

①抗リン脂質抗体症候群
②子宮奇形
③夫婦染色体構造異常
④胎児の染色体数的異常


といわれています。

不育症の多くの原因は、精子と卵子が受精する時の偶発的な染色体以上とされています。

この染色体異常も精密検査ができるのですが、流産を繰り返す原因には、その他のリスクも存在します。

流産を繰り返す原因はさまざまで、夫婦のどちらかに染色体異常がある場合があったり、子宮の形の異常甲状腺疾患糖尿病などの基礎疾患であったり、抗リン脂質抗体症候群血液凝固異常なども考えられます。

多くの場合は原因不明だったりもします。

神様しかわからない、というが流産の原因であることも実際は多いのですが、不育症の精査や治療によって赤ちゃんを迎えられることもある、ということも多々あります。

参照:持田製薬株式会社 不妊症・不育症応援サイト「あしたのママへ」
子宮形態の異常
子宮の形の異常を調べるには、基本的には経膣超音波でみます。

子宮の内腔、つまり着床部位に何かしらのポリープや子宮筋腫などの障害物があるかどうかは、子宮鏡検査(俗にヒステロと呼ばれる)などを行います。

必要に応じてMRIや造影検査なども行います。

「昔から生理痛が人よりひどいって感じてたんです」という女性で、著音波検査をしてみたら実際は子宮の奇形が生理痛の原因だった例も少なくありません。

経膣超音波では異常所見がなくても、子宮鏡検査(ヒステロ)で子宮の中をみてみたら、子宮の中にポリープや腫瘤がみつかることもあります。

子宮の形が「不妊症」だけでなく、「不育症」の原因だったりすることもあります。

子宮の形態異常においては、お腹を切らずに子宮鏡手術(膣口からの手術)だけで治療することもできます。
血液検査
「不育症」の原因は、血液検査で分かることもあります。

甲状腺機能が亢進している状態低下している状態、その他に糖尿病の状態では、流産のリスクは高くなります。

血液検査だけで、甲状腺疾患や糖尿病は発見できます。

また、血液凝固異常も血液検査でわかります。

代表的なものは「抗リン脂質抗体症候群」です。

この疾患は、妊娠12週間後の再検査で陽性となることもあり、胎盤の周りに血栓という血の塊ができてしまい流産や死産が起こる原因とされています。

採血検査の項目や費用の例をここに示します。
上記の検査に加えて、患者さんの状況に合わせて、血液が凝固する物質がどれくらいあるかを調べる血液検査や、抗体検査などの実施が加わる場合もあります。

※ただし、欧州生殖医学会、米国産婦人科学会、米国胸部外科学会、英国産婦人科学会のすべてのガイドラインには「不育症において血栓性素因の測定を推奨しない」と書かれています。日本ではプロテインSや凝固第XII因子活性の検査を選択的に行なっていることに対して懐疑的な見解も同時にあることを追記します。
不育症の治療ってなに?
子宮形態異常の治療
子宮の変形のタイプによって手術の方法は異なります。また変形によっては手術の有効性も大きく異なってきます。慎重な判断が大事になってきますので、主治医の先生としっかり相談して下さい。

内分泌異常の治療
甲状腺機能の異常は、治療がある程度落ち着いてから妊娠することをお勧めします。 糖尿病の場合も、血糖値がしっかりコントロールできることを確認できてから妊娠することを計画するのが良いです。

抗リン脂質抗体症候群・血液凝固因子異常の治療
この疾患は血栓症のリスクが高くなります。血液が固まりにくくする治療を妊娠前から行います。抗血小板剤や血液凝固阻止剤などを使うことがあります。どの治療を選択するかなどは、検査結果を吟味しながら決めます。

染色体異常の治療
まずは十分な遺伝カウンセリングを受けた後に染色体検査を受けることが大事です。

それぞれの染色体異常の種類に対して、着床する前の診断のメリットとデメリットを確認し、それから治療方針を決めていきます。生まれてくる子供も染色体が正常である確率なども検査することがあります。
子宮奇形の治療
子宮奇形にもさまざまあります。

単角子宮、重複子宮、双角子宮、中隔子宮は、反復流産の3.2〜10.4%にみられ、子宮内での胎児死亡や早産の原因にもなります。

双角子宮に対する形成手術、中隔子宮に対する子宮鏡下中隔切除術を行なった後は、胎児に生存率は35.1〜64.9%と報告されていますが、日本の多くの病院施設の共同研究の結果としては、中隔子宮の手術後の出生率は改善するが、双角子宮の手術では改善しない、という報告があります。
女性の年齢と流産率の関係は?
過去に5回までの流産であれば、治療による妊娠成功率は60〜80%といわれています。

ただし、女性の年齢と流産は関係しています。

女性の年齢が高齢になると流産率は増加します。

海外の研究データによると、40歳以上だと流産の頻度が51%になるとの報告もあります。

不育症の治療をして出産した場合、その原因にもよりけりですが、次の妊娠でも同じ治療が必要となってくることがあります。

一度不育症の治療を受けたことのある人は、次の妊娠に向けても同じ産婦人科に早めにご相談されることをお勧めします。
生活上の注意点は?
まずは、これまでの流産の経緯や不育症の相談をしたことがある主治医に相談することが大切です。

あなたの妊娠の経過をよく分かっている主治医の元には、あなたの過去の検査データがカルテ内に保存されています。

不育症については医学的にも分からないことがまだ沢山ありますが、今後の妊娠への取り組みや、取り除く事ができるリスク因子について、しっかり説明をうけることで治療効果が期待できます。

当たり前のことですが、喫煙や飲酒は流産に関係することがあるので、妊娠がわかったら速やかに止めましょう。
また、妊娠が分かったら、激しい運動や体の冷えや重たいものを持つといった、体に負担がかかる行為は止めましょう。

ストレスや疲労も流産のリスクとなります。

穏やかな生活と心持ちを、と言うのは簡単ですが、仕事を一生懸命頑張ってきた女性にはすぐに生活リズムを変えることは難しいかもしれません。

でも、赤ちゃんを守るためには、貴女の身体を最優先することと同義です。

流産や死産を経験している女性はたくさんいますが、日本の女性はとても辛抱強く、辛い経験を他人に話す事は少ないです。

でも、一人で抱え込まずにいてください。

産婦人科は医師もスタッフも皆んな貴女のことを大事に思っています。 なんでも話してくださいね。
参考:持田製薬株式会社「あきらめていませんか不育症」
profile
全国で展開する「婦人科漫談セミナー」は100回を超えました。生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期障害は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、HPVワクチンのこと、婦人科のカーテンの向こう側のこと、女性の健康にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。
藤田 由布
産婦人科医
レディースクリニック サンタクルス ザ シンサイバシ 院長

大学でメディア制作を学び、青年海外協力隊でアフリカのニジェールへ赴任。1997年からギニアワームという寄生虫感染症の活動でアフリカ未開の奥地などで約10年間活動。猿を肩に乗せて馬で通勤し、猿とはハウサ語で会話し、一夫多妻制のアフリカの文化で青春時代を過ごした。

飼っていた愛犬が狂犬病にかかり、仲良かったはずの飼っていた猿に最後はガブっと噛まれるフィナーレで日本に帰国し、アメリカ財団やJICA専門家などの仕事を経て、37歳でようやくヨーロッパで医師となり、日本でも医師免許を取得し、ようやく日本定住。日本人で一番ハウサ語を操ることができますが、日本でハウサ語が役に立ったことはまだ一度もない。

女性が安心してかかれる婦人科を常に意識して女性の健康を守りたい、単純に本気で強く思っています。

⇒藤田由布さんのインタビュー記事はこちら
FB:https://www.facebook.com/fujitayu
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〒542-0085 大阪府大阪市中央区心斎橋1-8-3 心斎橋パルコ10F
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