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小森 利絵
フリーライター えんを描く

おてがみじかん ライフスタイル 2023-06-21
お手紙とわたし~春瀬ゆうなさん編①~

私のまわりにいる「日常の中でおてがみじかんを楽しんでいる人」にインタビュー。「お手紙ってかたい印象があったけど、いろんな楽しみ方があるんだ」「基本、書くことは苦手だけど、肩の力を抜いて書いてみようかな♪」と、お手紙を書いてみたくなるアイデアやヒントを教えていただきます。

7人目は春瀬ゆうなさんです。ライターでキャリアコンサルタントでもあり、現在は小・中学生向けの体験型ライティング教室「あすとれ」や大人向けにも文章教室を開いています。私のライターの先輩であり、現在もお仕事でお世話になっていて、実際にお会いする機会も多いのですが、時々お手紙でもやりとりしているんです。

春瀬さんが今年、小学生・中学生・高校生向けに読書とお手紙を組み合わせたイベントを企画した背景や、ご自身の日常でのお手紙のやりとり、文章のプロが考える“話し言葉(話すこと)”と“書き言葉(書くこと)”についてなどをうかがった、内容盛りだくさんのインタビューを4回に分けて紹介します。

第1回目は「書くことに親しむ編」。読書×お手紙のイベントのことや、大学の卒論のテーマにしたという「“話し言葉”と“書き言葉”」などについてお話をうかがいました。
春瀬さんは、小学生・中学生向けの体験型ライティング教室「あすとれ」の中で、読書感想文を書くイベントなども開催されています。今年は子どもゆめ基金の助成を受けて「おすすめの本のみりょくをお手紙で伝えよう」というイベントを開催されるとのこと。どうして、「お手紙で」と思われたのですか?

春瀬さん:子どもたちと接する中で、本が好きな子でも「本は読むけれど理解できていない気がする」「読書感想文が苦手」という声を、保護者の方からよく聞いていました。読むだけではなく、誰かに読んだ本の魅力を伝えることで、頭の中が整理され、読む力や伝える力が高まるので、日常的にアウトプットする習慣を持つことが大切なんじゃないかなと考えていまして。

文章を書くことが苦手だなぁと思っている子にとって、本を読んで「読書感想文を書きましょう」というより、「お手紙を書きましょう」というほうが、書きやすいんじゃないかなと思ったんです。

学校の読書感想文や作文コンクールの場合、誰に向けて書いているかがわからないから、書きにくいところがあるのかなと思うんですね。その点、お手紙の場合は、そのお手紙を渡す相手を1人、思い浮かべながら書きます。“あの人”に読んだ本の感想を伝えたいという気持ちが出発点なら、「こんなところがおすすめだよ」「この場面がおもしろいよ!」など自分の気持ちや思い、感想、意見を書きやすくなるんじゃないかなって。

お手紙の相手として、友だちや家族のほかに、物語の登場人物や作者なども考えています。

具体的な誰かが見えているからこそ、書きやすくなることがありますね! しかも、お手紙の相手として、物語の登場人物や作者も含めているところが、楽しいですね。

春瀬さん: “楽しく書く”という体験が大切だと思っているんです。

一度でも「書くことって楽しいんだ!」と思える体験ができたら、次に書く機会が訪れた時に「あの時と同じように書けばいいんだ」と難しく考え過ぎず、書いてみようと思えるのではないかなとも。

そこで、今回は海と海の生き物をモチーフにしたイベントオリジナルのレターセットを作成・発注しています。便せんの絵柄に色塗りできたり、そのイラストを切り抜いてしおりもつくれたり。お手紙を書くのを手助けする質問を記載した下書き用のワークシートも用意しています。

*作成中のレターセットのデザインと、しおりづくりの例
日頃、本を読んだり映画を観たりして「こんな内容だったよ」「こういうところがおもしろかったよ」としゃべって伝えていると思うんですね。それを文章でも書いて伝えられるようになれたら、表現の幅が広がってコミュニケーションがもっと楽しくなるんじゃないかな。

参加する子どもたちにとって、そんな機会になったら嬉しいですね。

日頃はしゃべって伝えられていることを文章で伝える…それが意外と難しかったりします。しゃべって伝えられるということは、伝えたい気持ちや思いがちゃんと自分の中にあるということなのに、どうして難しくなってしまうんだろうと、いつも思います。

春瀬さん:手を動かして書く習慣が減ってきているというのも、1つの要因なのかもしれません。

小学生の場合、作文や日記の宿題が学校によって多いところもあれば少ないところもあります。今は、夏休みの読書感想文も選択肢の1つで、必須ではない場合も多くなっているようです。

一方で、ディスカッションやプレゼンテーションの授業を行う学校が増えていて、私たちの頃よりもしゃべることが得意な子は増えているように思います。文章教室でも、書いてもらった作文を読みながら「楽しかった」「大変だった」となっている箇所について「この時、どんなことが楽しい(大変)と思ったの?」と質問していくと答えられるんですが、「じゃあ、今しゃべったことを書いてみてね」と言うと、途端に書けなくなることもあります。書けたとしても、大切なキーワードが抜け落ちていたりとかしていて。

しゃべって伝える機会は増えていても、その後に書いて伝える時間がないからなのかなと。
あと、大人向けの文章教室で以前「お世話になった先生へのお礼のお手紙を添削してほしい」という依頼を受けたことがありました。

その方は「お手紙の例文やテンプレートは探せば出てくるから、何を書けばいいのかはわかるんだけど。『こんなことが嬉しかった』『これからはこんなことをしていきたいと思っている』など、自分の思いやエピソードを盛り込みながら、自分らしく書きたいのに、うまく書けない」と悩んでおられて。

「一番感謝していることは何ですか?」「それは具体的にどんな場面でしたか?」「その時、どう思われましたか?」といろいろ質問をしていきながら、出てきた答えを一緒に整理して書き上げました。

しゃべって伝えることはできても、書いて伝えるという習慣が日常的ではないと、お手紙を書くのも難しいようですね。「しゃべって、文字でも書く」という習慣ができれば、話すことと書くことができるようになってくるのかなと思います。

今はLINEなどのツールを使う場面が多いですから、手を動かして書く機会が減っていますし、面倒くさくも感じてしまいます。キャリアカウンセラーとして大学生と接していた時、気持ちや思い、意見を考えて言葉にしなくても、スタンプで簡単にやりとりできてしまうことの影響を感じていました。

就職活動をする上では、文章で表現することが必要になってきますから、スタンプで表現したことを言葉で表現するとどうなるのかを、今度書いてきてねという宿題を出したこともありましたね。

LINEのスタンプは本当に便利で。どんな気持ち、意味なのかをはっきりとさせなくても、なんとなくの雰囲気でお互いにわかった気になってしまうところがありますね。

春瀬さん:そういえば、大学の卒論で「話し言葉と書き言葉の違い」をテーマに書いたことを思い出しました。

話し言葉は、井戸端会議みたいな感じで、どちらかというとぱあぁっとしゃべって、しゃべったそばから消えていくのが前提としてあります。だから、本人も、たいして内容を覚えていないものなんです。

書き言葉は、この言葉で書いたら相手がどう思うかや自分の思いにしっくりくるかなどを考えて、「ああでもない」「こうでもない」と練っていくもの。自分の気持ちや思いなどを今一度見つめ直し、考えたり整理したりといった作業を伴うものなんですね。

「書くことは心の整理になる」とよく言われるのは、そういう部分があるからだと思います。

春瀬さんが今度のイベントでめざされているように、話して伝えること、書いて伝えること、どちらも自由にできるようになるには、どんなことをしたらいいと思いますか?

春瀬さん:書く習慣がないと、そもそも何を書けばいいのかがわからないんだと思うんです。だから、「こういうふうに書けばいいんだ」ということがわかって、実践を続ける中で自信がついてくれば、書けるようになる人もいるんじゃないかなと。

書き慣れるまでは、テンプレートを活用すると、書きやすくなると思います。最初にこんなことを書いて、間にはこんなこと、最後にこんなことを書いて終わるみたいな。

文章教室の生徒さんで、最初は「書くことが苦手」と言っていた子が、どんな順番で何を書けばいいのか、どんなふうに書き出せばいいのかを学んで実践したら、だんだんと「こうやって書けばいいんだ!」というコツがわかってきて。以前なら、なかなか書き出せなかったところ、書き出せるようになり、「書けた」という経験が自信となって積み重なって、書くことが楽しくなってきたようなんです。

お手紙には、テンプレートは必要ないかもしれないけれど。たとえば、最初に挨拶文を書いて、間には「①近況、②最近はまっていること、③相手と一緒にしたいこと…」というふうにいくつかテーマをつくっておいて、その時々に応じてその中から選んで書いて、最後は「今度一緒に、ランチに行くのを楽しみにしています」と近い未来への希望を書いて終わるというふうに、自分でテンプレートをつくってもいいかもしれませんね。

文章教室の生徒さんから「年賀状の一言メッセージで、何を書けばいいかがわからへんってなる」と聞いて、「こんなことを書いたらいいよ」と例をまとめたものを配ったことがありました。まずは年賀状や寒中見舞い、暑中見舞いといった短いメッセージから書いてみてはいかがでしょうか。
★春瀬さんが「年賀状で、自分らしい一言メッセージを書く際のご参考に」と教えてくださいました。

①相手と一緒にやりたいことを書く
相手も送り主との楽しい時間を想像できるので嬉しい気持ちになります。

②今年の目標を書く
自分の抱負を述べるメッセージも良いかと思います。相手は送り主のやる気を受け取ることができますし、自分自身も誰かに目標を宣言してしまえば頑張れるものですよね。

③相手の良いところを書く
相手の長所を書いたり、いつも感謝したりしていることを書くと、相手が読んだ時に嬉しい気持ちになります。

④応援エール
相手が頑張っていることを応援するのもおすすめです。
 
(2023年4月取材・6月撮影)

<お話をうかがって>

“話し言葉(話すこと)”と“書き言葉(書くこと)”。

私自身は話して伝えることが苦手で、書いて伝えるほうがまだましというタイプです。だから、もし「書いて伝えようとしていることを、そのまましゃべってみて」と言われてもできないなぁと気づきました。改めて考えると、話すと「楽しかった」「嬉しい」「かわいい」としか発していなくて…文章でなら、具体化やほかの表現も使えるのに。私の中では「話す時」と「書く時」は、思考回路や表現回路が違うのかなぁなど、考えていくと奥が深いですね。

春瀬さんのお話をうかがって、話すことも、書くことも、ひとまず慣れることが大切なのかなぁと思いました。

たとえば、「私は○○○○○と思います。なぜなら、○○○○○だからです」など、子どもの頃に国語の授業で、そういった文章の型を習ったことを思い出します。お決まりの型に当てはめるだけではつまらないなんて思っていたのですが、慣れるまではそういった型を活用するほうがいい。最近読んだ文章系の本には、「型を覚えるからこそ、型を崩せる」と書いてありました。

型を有効活用して、まずは慣れる。私も、話すことに慣れるために、「話す型」みたいなものを探ってみようと思います。

次回は「節目節目に届くお手紙&プチプレゼント編」。春瀬さんが大学時代のお友だちと続けているお手紙のやりとり、「彼女からお手紙をもらうと、今に引き戻してもらえる感じがあるんですよね」という、季節や1日1日のいとおしさを感じるお手紙についてお話をうかがいます。
profile
レターセットや絵葉書、季節の切手を見つけるたび、「誰に書こうかな?」「あの人は元気にしているかな?」などアレコレ想像してはトキメク…自称・お手紙オトメです。「お手紙がある暮らし」について書き綴ります。
小森 利絵
フリーライター
お手紙イベント『おてがみぃと』主宰

編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』
 
『おてがみぃと』
『関西ウーマン』とのコラボ企画で、一緒にお手紙を書く会『おてがみぃと』を2ヵ月に1度開催しています。開催告知は『関西ウーマン』をはじめ、Facebookページで行なっています。『おてがみぃと』FBページ

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