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藤田 由布
婦人科医 医療法人 大生會 さくま診療所(婦人科)

婦人科医が言いたいこと 医療・ヘルシーライフ 2023-04-20
最前線の感染村は、秘密だらけ
その⑤ 〜失敗した撲滅作戦 〜

最前線では困難の連続
私は1997年から西アフリカのニジェールとトーゴの2ヵ国でギニアワーム撲滅国家計画に携わってきた。

いずれも世界最貧国の乾燥地帯のサブサハラ地域である。

私の業務は、すべての感染村を把握し、いちはやく感染村と感染者の報告を収集し、アウトブレイク(同時期に数十人の感染者が発生すること)の調査をし、対策を講じること。

ギニアワーム感染予防のため池水を濾すフィルターを配布し、その他の必要な物資を各感染村に配置し、池水に散布薬を撒きながら、国土狭しと奥地の道なき道を延々と巡る。

※トーゴとガーナの国境付近の感染村への道中(トーゴ北部バサール県)
トーゴとガーナの国境付近では、感染者が国境線を自由に行き来する状況調査や、時には県知事を感染村へ連れて盛大に啓発キャンペーンを行なったりする。

国内に20名ほど配置されているスーパーバイザーの活動を指導し、すべての情報をアトランタ本部に報告する。

仕事の内容を羅列するだけなら単純な現場監督の業務なのだが、この撲滅活動にはさまざまな失敗もあった。

※県知事を連れて感染村へ赴いた(若くてイケメンの知事)
報酬金のためにギニアワームを細切れに?!
隣国ガーナからとんでもない情報が飛び込んできた。

ガーナでは感染者を根こそぎ見つけ出す為に、「感染者が自ら感染を報告した場合に、感染者に対して報酬を出す」という戦略をとった、と。

報酬金で感染者を全てあぶり出す、ということだ。
ガーナの感染者たちはズル賢かった。

ある感染者から出てきたギニアワームを細切れに数cmずつに切り刻んで、仲間で小片をシェアして「自分は感染者だ!」と言って、次々とニセの感染者が名乗り出てきたのだ。

傷口がないのに、いろんな村人が細切れギニアワームをおのおの手に持って現れてきたから、監視員もオカシイとすぐに気付いたようだ。

この報酬作戦は即効に頓挫した。村人が必死に考えたギニアワームビジネスだったのだろう。

賢い村人とは常に知恵比べを強いられるのだ。

※ギニアワームが皮膚を突き破って出てくる時の傷
「感染者を隔離」は行き過ぎた戦略!?

※隔離された感染者(ギニアワーム感染者は誰がみても感染者と分かるように包帯で患部に目印をつける)
村落の人々は通常、不衛生な溜池の水を飲用している。溜池は各村に数カ所あることが多い。

一人の感染者がその溜池の水に足を浸けることによって、ギニアワーム幼虫が何万匹も水中に放たれ、初めて水がギニアワームに汚染される。

要するに、感染者が水に入らなないでいれさえすれば、周囲の住民は感染しないのだ。

そこで、とった作戦が「感染者の隔離」。

※村落の診療所が隔離場所となる。
感染者に日給を渡して、ギニアワームが完全に体外に出るまでの1週間ほど村の診療所などの隔離施設で生活してもらう。

隔離施設には監視役をつけて、決して感染者が溜池の水に近づかないように四六時中、注意を払う。

授乳中の母親は子供を連れて施設に寝泊まりしてもらう。

※村じゅうを遊びまわる子供を隔離するのは至難。
ただし、当たり前のことだが、活発な子供は同じ場所でじっとしておれない。目を離した隙に、どこかへ行ってしまう。

家のことが気になって、すぐに自宅に帰ってしまう大人もいる。

どうしても畑仕事や市場へ行かなければならない若者もいる。

しかし、感染者が池水に近づかなくさせる作戦としては、隔離は確かに多少有効だった。

ただ、人間を隔離することが人権侵害のような気がして、私はあまり賛同できなかった。
祈祷師との戦い

※トーゴ北部で伝統医療を施す祈祷師
トーゴ北部の奥地の村で、たいへんな事が起こっていた。

感染者の患部から出てきたギニアワームを祈祷師が切り取っていて、彼独自の治療をして回っていたのだ。

アフリカでは祈祷師による伝統医療が蔓延する地域もまだまだ存在している。

困った・・・祈祷師が片っ端からギニアワーム感染者の傷口から寄生虫を引っ張り出して切り刻んでいる・・・

ギニアワームが傷口から完全に出てくるまでに切ってしまったら、体内に残った一部がまた皮下に戻って違う傷口から出てこようとする。

※ギニアワーム感染の傷口
ギニアワーム感染症は、皮膚の傷口から出てきた糸のような虫をゆっくり巻いて取り出すしか、治療の方法はない。

メジナ虫感染を予防するワクチンも内服薬も存在しない。一度感染しても免疫ができることはない。

ギニアワームの感染によって死に至ることはないが、傷口の手当てが適切ではないと、炎症が増悪したり、敗血症や破傷風といった二次感染を招くこともある。

※患部には伝統医療の薬草が塗り込まれていることが多い
祈祷師による勝手な処置を放置することはできず、なんとかして祈祷師と対話しなくてはならなかった。

そこで私が考えたのは、対立関係を避けて、祈祷師を村の重要な立場として「ギニアワーム治療担当」に育て上げることだった。

彼にギニアワーム感染症の正しい手当の方法と予防法を理解してもらい、彼を味方につけること。

そして、彼に予防啓発の道具を渡して、、、トラック荷台いっぱいのヤム芋を土産として渡した。

ヤム芋は彼の大好物だったらしい。すぐに祈祷師と仲良くなり、彼は協力する姿勢をみせてくれた。

やましい方法も時には役立つのだ。

※ヤム芋を市場でたくさん調達して祈祷師に土産として持って行った
池水の散布薬ABATEで「避妊で人口削減」??
溜池に生息するギニアワーム幼虫は、まずミジンコに寄生する。そのミジンコを駆除するための散布薬「テメホス(ABATE®️)」を溜池に散布してまわっていた。

溜池には適切な散布薬の量を投入するために、池の堆積もちゃんと測る。

この散布薬は人体に影響がないことは分かっている。

しかし、村の住民は「何なんだ、あの白い液体は!」となるのは当然だ。

※村の住民が飲む池水は茶色に濁っている
海外からのスタッフは、日本人の私以外は全員アメリカ人である。

住民いわく「アメリカ人が撒くあの散布薬は、アフリカ人口を削減するための避妊薬が入った液体なのではないか?!」というデマの噂が広がった。

これはギニアワーム感染を撲滅するために大事なもので安全な散布薬だ、と住民を説得しつつも、私の本心は、自分の飲用水に得たいの知れない薬を撒かれるなんて、誰しもたまったもんじゃないだろうな、、、と。
村の住民は、秘密だらけ

※畑仕事で喉が渇いたら、池水をフィルター付きのストローで飲むように啓発した
感染村は車両でアクセスできない村落地域に広がる。そういった奥地の住民は、よそ者の私達に、そう簡単に村のことを教えてくれない。

みなさんが飲料する溜池はどこにある?と聞いても、すぐに全てを教えてくれない。

そらそうだ。あの得たいの知れない散布薬をドバドバと撒かれるかもしれないし、住民にとってみたら他に何をされるか警戒して当然だ。

畑の真ん中にある小さな池を見つけた私とアメリカ人同僚のリサが、「この水は皆んな飲みますか?」と村人に聞いた。

村人は、「これは誰も入ったことないし、我々はこの池は使ってないよ!」と。

しかし、池の縁や底をみると、そこは人間の足跡だらけだった。

※写真の池は村人いわく「この池は誰も入ってないし使ってないよ」と
ギニアワームに青春を捧げた私

※ニジェールのザンデール県にあるガリンイッサンゴーナ村
大変な困難もたくさんあったけど、ギニアワーム撲滅の仕事は、本当に楽しかった。

400匹も持ち帰ってきたのに、全部あげてしまうとは、私はどれほどお人好しなのか。

私が医師となるきっかけとなった寄生虫であり、20代の青春を捧げたものである。

1匹くらい誰か返してくれないだろうか…

そこで関西人なら思いつくのが「困った時には探偵ナイトスクープにお願いしよう」と。

もし、ギニアワーム標本が講義や研究に活用されずに埃を被った状態なら返してほしい、という依頼を出した。

※1匹だけ戻ってきたギニアワーム
そして、私が研究者たちに譲渡した可愛いギニアワーム達が、今どのような状態なのかも知りたかった。

探偵ナイトスクープのおかげで、私が20代の青春をすべて捧げたギニアワームが、1匹だけ手元に戻ってきた。

そして、戻ってきたギニアワーム標本と同じくらい探偵手帳が私の宝物となった。

※探偵手帳
数年以内にこのギニアワーム寄生虫がこの世からなくなるわけだが、疫病撲滅とは最強のサステナビリティーであり、人類が成し遂げた最高の偉業だ。

私はこの快挙に長年携わることができた経験に感無量である。

この疫病撲滅の活動は、当事者の住民を主体として取り組んだ感染症対策で、実に知恵と工夫が要された。

今、産婦人科医として働く私にとって、この知恵と工夫が活かされていることに間違いない。

いつも思うことがある。

ひとの夢は単純で純粋なほうがいい。
思い込みが強ければ強いほど、ひとを動かす力も強い。
どんな人生にも何らかの「縛り」や「制限」があるけど、むしろこの制限の中で学ぶ事が多い。
回り道をすることで、違った世界を見て、人一倍痛みを感じ、人生に楽しみやゆとりが増えることのである。


この重くて優しい言葉を胸に抱きながら、医師という仕事を固定観念にこだわることなく、自分らしく全うしようと思う。

※村落住民が炎天下で水汲みをしている

※ニジェールのトアレグ族職人の木彫りアートは絶品である
profile
全国で展開する「婦人科漫談セミナー」は100回を超えました。生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期障害は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、HPVワクチンのこと、婦人科のカーテンの向こう側のこと、女性の健康にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。
藤田 由布
婦人科医

大学でメディア制作を学び、青年海外協力隊でアフリカのニジェールへ赴任。1997年からギニアワームという寄生虫感染症の活動でアフリカ未開の奥地などで約10年間活動。猿を肩に乗せて馬で通勤し、猿とはハウサ語で会話し、一夫多妻制のアフリカの文化で青春時代を過ごした。

飼っていた愛犬が狂犬病にかかり、仲良かったはずの飼っていた猿に最後はガブっと噛まれるフィナーレで日本に帰国し、アメリカ財団やJICA専門家などの仕事を経て、37歳でようやくヨーロッパで医師となり、日本でも医師免許を取得し、ようやく日本定住。日本人で一番ハウサ語を操ることができますが、日本でハウサ語が役に立ったことはまだ一度もない。

女性が安心してかかれる婦人科を常に意識して女性の健康を守りたい、単純に本気で強く思っています。

⇒藤田由布さんのインタビュー記事はこちら
FB:https://www.facebook.com/fujitayu
医療法人 大生會 さくま診療所(婦人科)
〒542-0083 大阪府大阪市中央区東心斎橋1-14-14 T・Kビル2F
TEL : 06-6241-5814
https://www.sakumaclinic.com/

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