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藤田 由布
婦人科医 レディース&ARTクリニック サンタクルス ザ ウメダ

婦人科医が言いたいこと 医療・ヘルシーライフ 2022-12-22
自分の年齢を知らない子ども達

6才以下の子どもを一瞬で見分けるビックリ技
十数年前、ニジェールの村落ち域で活動をしていた時に、首都から900km離れた街の郊外にあるガリンイッサンゴーナ村に長期で滞在していた。

その村の子どもたちは誰一人自分の年齢を知らなかった。

いくつ?って聞いても、「年齢なんて分かんない!」って返ってくる。

ガリンイッサンゴーナ村は大きな稗と粟の畑の中にあり、水道や電気はなく、100世帯くらいの小さな村だった。

そこには400人くらいの元気な子どもがいたが、たった4人しか小学校に通っていなかった。

自分が着ているTシャツに描かれたアルファベットの文字がなんなのか分からない。だから何といった感じだし、文字の読み書きができることがここでの生活になんのメリットがあるのかも実は私も良く分からない。
村の子どもたちは、よく遊ぶし、よく働くし、よく家のお手伝いをする。

子どもでも、村の秩序を大人の一員のように守る。この子たちは、地球上で最も礼儀正しい子どもたちだ。

言われなくても、毎朝太陽が昇る前からロバにのって水汲みにでかける。片道1時間、1日に何度もだ。
子どもの数が多ければ多いほど、畑仕事の動員数も増えて食べ物が増える。

母親は朝から晩まで家の仕事をしているが、女の子が多いと家の仕事が手分けできるし、小さい子どもの面倒も見れる。

村は子どもだらけで、夜は月明かりの下では、歌遊びで飛び跳ねて踊って笑い声が溢れる。
村の人々と村の生活にどっぽり浸かると、学校に行く意義が、正直はっきりと言えない。

村を守って家族を守る生活に、公用語のフランス語は必要なのか?とさえ思えてしまう。

さらには、年齢ってだいたいの数でいいんじゃないか、と思えてくる。
いきなり自宅で出産した13才くらいの少女
昨日まで一緒に歌遊びしていた少女が、次の日の昼下がりに突然自分の自宅のベッドの上で赤ちゃんを産んだ。

ちょっとぽっちゃりした少女としか認識していなかったが、まさか妊娠して臨月だったとは…。

彼女自身も自分が何歳か知らないし、学校に行ったこともなかった。部屋の片隅に母子手帳が転がっていたが、中身はほとんど白紙だった。初期健診での1回だけ受診歴があるくらい。

赤ちゃんが産まれた時の産声が村の一角で響きわたると、村の女性たちがわらわらと集まり、手慣れた方法で臍の緒を切り、赤ちゃんを洗う。
6畳くらいの部屋の中でとうがらしを炊いて、噎せた際の腹圧で胎盤を娩出させたり、5kgほどの石を持たせて腹圧かけさせたり、と目を見張る胎盤の出し方が、私の目の前で展開されていった。

赤ちゃんを産んだばかりの少女は、ただただ呆然としたままで、最初は自分がたった今産んだ赤ちゃんに見向きもしなかった。

出した胎盤は瞬時に家の前の土の中に埋める。そして、その日のうちに、夫は自分の荷物を家の中から運び出して、1週間だけ家を母子だけのために明け渡すのがしきたりだ。
ニジェールの子どもは6人に1人は5歳まで生きれない。11人に1人は1歳を迎えず亡くなってしまう。

産まれてすぐに亡くなってしまう子も多い。赤ちゃんが産まれたお祝いの儀式「バッテム」は、生後1週間後に行う。

産まれてすぐの赤ちゃんは白い肌で、1週間くらいかけてメラニン色素が生成されて黒い肌になる。

村の女性たちは産まれたばかりの赤ちゃんを濁った水で手際よく世話しているが、私はその泥水が気掛かりで仕方なかった。
6歳以下だけに接種する「ポリオワクチン」
西アフリカでは、当時まだまだ小児ポリオの症例は毎月のように見つかっていた。

その度に、ポリオワクチン接種キャンペーンが展開されていて、3ヶ月連続でキャンペーンが行われるということも普通にあった。

ポリオワクチンは当時は生ワクチンで、ピンク色の液体数滴を口の中に垂らすという接種方法だった。

ワクチンは甘く味付けされているので、喜んで口を開けて寄ってくる子どももいる。
ワクチン接種の対象は、6歳以下の子ども全員。

子どもの数も半端ないし、男の子も女の子も昼間は家におらず、広い大地のあちこちに散らばっている。

子ども一人一人にワクチンを接種するのは大変な作業だ。

しかも灼熱の炎天下で、木陰にいなくては日差しが痛いほど熱い。

冷蔵ボックスにワクチンを入れて村から村へ歩いて移動し、村人たちに声をかけながら、接種済みの子どもの数を記録して回る。
ポリオワクチン接種班は、地方の保健省スタッフ、衛生技師、看護師らで構成され、私も同行した。

6歳以下の子どもを見つけて、ワクチン接種して、子どもの数を数えて、記録して、報告書にまとめて、というのを延々と繰り返すのは、本当に大変な作業だった。

時折、木陰に腰掛けて水分補給しつつ、「あの村で接種した子ども数、どのくらいだったっけ?」と、おおよその数を記録レポートに記載していたのを覚えている。

暑いし、クタクタだし、子どもはあちこち散らばっていて捕まえるのも大変だし、いちいち正確な数を数えている場合ではなかったので、なんとなくの数で報告書を作っていたのを覚えている。
さて、ワクチン接種の対象者は6歳以下の子ども全員。しかし、誰も自分が何歳かわかっていない。

親も自分の子どもが何歳か正確な数字を知らない。

「あの旱魃(かんばつ)の年に生まれた子」
「あの豊作の年の次の年に生まれた子」
「あの子はあっちの子が生まれた翌年くらいに生まれた子」

年齢の表現は、こんな感じの表現をしていた。

では、大勢いる子ども達の中から、どうやって6歳以下を瞬時に見分けるのか?
乳歯の数ではない。個人差があるし、いちいち一人一人の歯の数など数えてたら日が暮れる。

手の長さも個人差がある。

6歳といえば小学校に入学する頃だから、文字がう読めるかどうかか?いや、ここはほとんどの子が学校に通っていない。

正解は、一方の手で、反対側の耳をつかめるかどうか
なぜなら、幼い子どもは4頭身ほどで、頭が大きい。だから、手で反対側の耳が届かない。」
一方、6歳以上の子どもは、手で耳を掴めるのだ。

文字が読めなくても、自分の年齢を知らなくても、わんさかいる大勢の子どもに「はーい、皆んな耳をこうやって掴んでみてー!」と言ったら、瞬時に6歳以上と6歳以下を見分けることができるのだ。

こうやって、耳に手が届かなかった6歳以下を集めてワクチン接種を効率よく取り行っていた。

実際、6歳以下は耳に手が届かないかどうか、日本の皆さんも試してみて欲しい。

※キャンペーンのポスター
ニジェール写真集

※ニジェールの村落地域に小学校 2000年

※教室には黒板と木の机がぎっしり。毎年の雨期には校舎は壊れてしまう。

※筆者がニジェールのザンデール県郊外で草の根協力で建設した小学校校舎 2000年

※ニジェールの村落の典型的な家と庭

※ニジェールで流行っていたブッシュとビンラディンTシャツ 2002年

※筆者が飼っていた猿のキキ。私の歯ブラシをいつも盗む癖がある。

※日本から持って行ったハエ取りテープをニジェールで使ったら、5分以内にハエでぎっしりになってしまった

※青年海外協力隊の仲間でニジェール最東端のンギグミの真っ白な砂漠 2000年

※ニジェールの青年海外協力隊の首都ニアメにある隊員連絡所にて 2000年
profile
全国で展開する「婦人科漫談セミナー」は100回を超えました。生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期障害は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、HPVワクチンのこと、婦人科のカーテンの向こう側のこと、女性の健康にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。
藤田 由布
婦人科医

大学でメディア制作を学び、青年海外協力隊でアフリカのニジェールへ赴任。1997年からギニアワームという寄生虫感染症の活動でアフリカ未開の奥地などで約10年間活動。猿を肩に乗せて馬で通勤し、猿とはハウサ語で会話し、一夫多妻制のアフリカの文化で青春時代を過ごした。

飼っていた愛犬が狂犬病にかかり、仲良かったはずの飼っていた猿に最後はガブっと噛まれるフィナーレで日本に帰国し、アメリカ財団やJICA専門家などの仕事を経て、37歳でようやくヨーロッパで医師となり、日本でも医師免許を取得し、ようやく日本定住。日本人で一番ハウサ語を操ることができますが、日本でハウサ語が役に立ったことはまだ一度もない。

女性が安心してかかれる婦人科を常に意識して女性の健康を守りたい、単純に本気で強く思っています。

⇒藤田由布さんのインタビュー記事はこちら
FB:https://www.facebook.com/fujitayu
レディース&ARTクリニック サンタクルス ザ ウメダ 副院長
〒530-0013 大阪府大阪市北区茶屋町8-26 NU茶屋町プラス3F
TEL:06-6374-1188(代表)
https://umeda.santacruz.or.jp/

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