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小森 利絵
フリーライター えんを描く

おてがみじかん ライフスタイル 2022-10-19
お手紙とわたし~森嶋也砂子さん編③~

私のまわりにいる「日常の中でおてがみじかんを楽しんでいる人」にインタビュー。6人目は森嶋也砂子さんです。お手紙の思い出や楽しみ方などについてうかがうインタビューを4回に分けて紹介しています。

これまでに「納豆のフタに描く、日常のお手紙編」「お手紙は再び届く編」とお話をうかがってきて、第3回目となる今回は「『お手紙』をいろイロな視点から見てみる編」です。

前回の懐かしいお手紙を見つけたお話から、森嶋さんが小学生の時にお母さまに贈ったびっくりなバースデーカードや、当時は解読が難しかったおばあさまからのお手紙など、いろんなお手紙の思い出話が飛び出してきました。森嶋さんのお手紙にまつわる、いろイロな思い出、そこから見えてきたこと、思ったことなどをうかがいます。

近所のお姉さんたちからのお手紙のほかにも、懐かしいお手紙が見つかったそうですね。

森嶋さん:私から母への、誕生日カードまで出てきてびっくりしました! 私が11歳、小学5年生の時に書いたもののようです。
中を読んでみて、2度びっくり。母へのお祝いメッセージではなく、インタビューになっていました。自分がしたことですが、祝われる母が答えを書き込まなければならないお祝いカードなんて思いつきません。

質問コーナーまで設けています。そこでは母が私のおねしょの理由を質問していて、私ものびのびと「わかるときと、わからないときがあるのです!」と回答していたので、おかしくて、ずっこけました。

あと、私が中学生の時に亡くなったおばあちゃんからのお手紙も見つけました。

おばあちゃんは「何々を送ってくれてありがとう」「図書係で表彰されておめでとう」など、お手紙をよく送ってくれていたんです。ただ、字をくずして連なるように書いているので、当時の私には一字一字を読み取れなくて。だいたいの内容しかわからなかったんです。
でも、おばあちゃんといえば、お手紙の印象が強く残っています。月に1回は会っていたんですよ。会っていたのに、その時にしゃべった内容は覚えてないんです。電話でもしゃべっていたのにね。お手紙には何が書かれているかははっきりと読み取れなくても、「え? 何?」と思いながらも、何回か読むからでしょうか。

おばあちゃんのお手紙を見つけたのでもう一度、ゆっくりペースで解読にチャレンジしたいと思っています。そうそう、お手紙といえば、変わったことをしたことを思い出しました。
お手紙で「変わったことをしたこと」とは? それはどんなことでしょうか?

森嶋さん:息子が小学4年生の時かな。宿題をしなくなったことがあって「宿題をしなさいよ~」と言ったら、半泣きですごく怒ったことがあったんです。「僕の、お母さんがそんなおもしろくないことを言うなんて思ってなかったわ」「そんな普通のことを言わんといて」って。

みんなが言うようなことを僕に押し付けないでと言いたかったのか、意図はわからないんです。息子が大きくなってから「あの時、どういう思いで言ったん?」と聞いたら、「しょうもないことを言ったな。やりたくないだけやった」と本人は話していたんですけど。

その時は息子があまりにも真剣に怒るものだから、気づいたら手帳の最後のほうのページに、お手紙を書き出し ていたんです。

息子宛てではなく、将来、息子に彼女や結婚してパートナーができた時のことを考えて、こういうところが気難しいとか、これを言ったらだめやとか、息子の取り扱い説明書みたいな内容でした。

もう1つ、「書かせてごめん」という嫌なお手紙を書かせたかもしれないと反省していることも思い出しました。

「書かせてごめん」と思った、嫌なお手紙とは?

森嶋さん:息子が小学生の野球チームを卒団する時に、チームの子どもたちに封筒と便箋を配って、「お母さんやお父さんにお手紙を書いてよ」とお願いして、お手紙を書いてもらったことです。

お手紙を受け取ったお母さんやお父さんは喜んでいたんだけど。子どもたちはもしかしたら、嫌やったのかなと思います。やらされた、みたいな。

私も母の代筆をしながら、嫌やなあという思いがあったのに、立場が変われば同じことをやっていて。「反省はないんか!」って、お手紙の思い出を振り返っていて思いました。
子どもに嫌々書かせてしまったかもしれないと思うことが、私にも心当たりがあります。私も反省しつつ…これまでお手紙にまつわる思い出をうかがってきました。いろイロな思い出がある森嶋さんですが、今までで1番印象に残っているお手紙はありますか?

森嶋さん:「ひまわりのように、心がパッと明るくなりました」という、11年ほど勤めた法律事務所の上司からもらったお手紙です。私の退職後に、その上司が病気をされて。私が送った手紙へのお返事でした。

その事務所や上司とは退職後もつながりがありまして。場所的にもよく通るところでもありましたから、ケーキを持って行こうとか、上司の連載記事を読んだよとか。反対に、上司が私の関わっている舞台公演を観に来てくれたこともありました。

病気のことを聞いた時は悲しくなって。なんて言葉をかけたらいいのか、わからなくて。私より若かったし、子どもさんも幼かったからね。なぐさめとか、励ましとか、本当にどう言っていいのかがわからず…

私が好きな画家さんがいて、その方の作品の一つに上司の面影を感じる人物が描かれたものがあったので、その絵を受け取ってもらえたら嬉しい、というお手紙を出したんです。お手紙をきっかけに、またお会いできたらという願いも込めて。

その頃にはもう、事務所に出勤されておられなくて、結局お会いできぬままだったんですけど。私の書いた手紙のお返事として届いたのが、「ひまわりのように、心がパッと明るくなりました」というお手紙でした。

もし、私があの事務所で働き続けていたら、何か少しでもお役に立てたのかなと思いながら。何のお力にもなれなくて、混乱してしまっていたのですが。上司からのあのお手紙を読んで、その優しさに救われた感じがしたんです。

その上司の方とのお手紙の思い出をもう一つ。「成年後見制度のお仕事もされていて、その依頼者が『手紙がほしい』とおっしゃられるということで、上司は月1回、お菓子と『お元気ですか? お変わりないですか?』というお手紙を送っていたんです。希望される方が多く、事務員が一部代筆し、手書きを希望される方には上司が直筆で書いていました。そんな姿も見て、思いのある、いい弁護士さんやなと思っていたんです」 ※成年後見制度とは「自身の判断能力に不安のある方々を法的に保護し、支援する制度」のこと。
(2022年1月取材)

<お話をうかがって>

おばあさまとは会うし、電話でもしゃべっていたのに、「お手紙の印象が強く残っている」と森嶋さん。

そのお話をうかがいながら、お手紙を読んでいると、書いてくれた相手のことが思い浮かんだり、文字が頭の中で再生される時には相手の声や口癖も思い出されたり、時に相手の声で音声再生されたり、お手紙という物体の重みを感じたりなど、いろいろな感覚が動くからかもしれないなど、いろいろ考えていました。

このことに関連してもう一つ。たとえば「ありがとう」という一言だけが書いてあったとしても、その書き綴られた言葉以上のものを受け取ることができる場合があります。「あの人のことだから、こんな気持ちから言っているのだろうな」「きっとこんな表情で言っているのだろうな」など、思い浮かぶものがあるからです。

関係性が深まれば深まるほど、そうやって感じ取れるもの、想像できることが多くなっていくのではないでしょうか。そう考えると、お手紙のやりとりは、ただ文字や文章、言葉で成り立っているものではなくて、関係性や日々のコミュニケーションが積み重なった上でのものだと思いました。

次回は「“いつか”が詰まった箱セット編」として、お手紙を書く時のおともや「年賀状をつくったけど出せへんかった事件」、最近書いているお手紙についてお話をうかがいます。
profile
レターセットや絵葉書、季節の切手を見つけるたび、「誰に書こうかな?」「あの人は元気にしているかな?」などアレコレ想像してはトキメク…自称・お手紙オトメです。「お手紙がある暮らし」について書き綴ります。
小森 利絵
フリーライター
お手紙イベント『おてがみぃと』主宰

編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』
 
『おてがみぃと』
『関西ウーマン』とのコラボ企画で、一緒にお手紙を書く会『おてがみぃと』を2ヵ月に1度開催しています。開催告知は『関西ウーマン』をはじめ、Facebookページで行なっています。『おてがみぃと』FBページ

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