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小森 利絵
フリーライター えんを描く

おてがみじかん ライフスタイル 2022-08-17
お手紙とわたし~森嶋也砂子さん編②~

私のまわりにいる「日常の中でおてがみじかんを楽しんでいる人」にインタビュー。6人目は森嶋也砂子さんです。

お手紙の思い出や楽しみ方などについてうかがうインタビューを4回に分けて紹介しています。 前回は「納豆のフタに描く、日常のお手紙編」として、息子さんが中学生から高校生にかけての時に3年ほど、ご家族とやりとりされていたという「納豆のフタのお手紙」についてお話をうかがいました。

第2回目となる今回は「お手紙は再び届く編」です。森嶋さんがご実家を片づける中で見つけたという懐かしいお手紙、それを読み返したことによって、それまで「ごめんね」が残っていた出来事の捉え方が変わったというお話をうかがいます。

今回取材のお願いをした時、「すごくタイミングよく!」とおっしゃってくださいました。実家の片づけをされる中で、懐かしいお手紙を見つけられたそうですね。

森嶋さん:成績表など残されていて困るもん、ドキッとするもんとかもあったんですけど(笑)。昔、近所に住んでいた2つ、3つ年上のお姉さんたちからのお手紙を見つけた時だったから、「すごい!」と思って。仲良しのお姉さんたちが引っ越した後にくれたお手紙を、母が残してくれていたんです。

そのお姉さんたちはやさしくて、遊ぶと楽しくなれたり、時にはけんかもしたり…母曰く、「私が泣かされていた」と言うんですけど、たぶん私ならやり返していたと思うので、向こうも泣いていたと思うような。そんなことも思い出したりして。お手紙を読んでいるうち、その年頃まで戻れた感じがありました。

私からしたら、永遠の憧れのお姉さんたちだったから。当時はもう、めっちゃ大人に見えていたんですよね。

当たり前ですけど、私が4歳くらいだったから、そのお姉さんたちは6歳と7歳くらいだったわけで。お手紙を受け取った当時は「めっちゃ、字うまっ。大人みたい」「なんてきれいにシールが貼られているんやろう」「お店で売っているみたい」なんて思っていたんですけど。

今見たら、お姉さんたちも子どもだったんだなって。字も小学生くらいの子が書く字やし、シールもね、斜めに貼られていたりね。そんなことを改めて感じつつも、こうしてかわいくしてくれたのは当時も嬉しかったなあとか、「また遊ぼうね」という一文に今もほろりと来たりとか。

やっぱり楽しかったんやなと思いました。

「大好きやったのに、お姉さんたちは引っ越してしまって会えなくなった」という、子どもの頃の私にとってはすごく悲しい、淋しい思い出として、ずっと残っていたんです。それが、このお手紙を再び読んだことで、その悲しさや淋しさを上回る、嬉しさや楽しさを思い出せたんです。

このお手紙をきっかけにもう一通、知多半島まで届いたお手紙の思い出も、捉え直すことができました。それも、うまく続かずに途切れてしまったことばかりが印象にあって、「ごめんね」が残っていたんですけど。
「知多半島まで届いたお手紙」とは?

森嶋さん:高校時代の話になります。私が通っていた高校では毎年、学祭が5日間開催される「長い学園祭の学校」だったのですが、私が3年生の時に3日間に短縮されたんです。

短縮された分、楽しめるイベントをと、生徒会の人たちが考えてくれまして。今だったら環境問題の観点などからできないと思いますが、風船にお手紙をつけて飛ばすということをしたんです。

飛ばしたら、それきりそんなことはすっかり忘れてしまい、1カ月ほど経った頃でしょうか。

校内放送でいきなり「何年何組の森嶋泰子さん、至急職員室に来てください」と呼び出されまして。え? 私、何かした? 何がばれた? って。何もしていなくても、何かばれたかもしれないみたいな緊張感が走ったという、「人生で恐かったベスト10」に入るくらいの出来事でして。

恐いなあと思いながら、職員室に行ったら! 「風船が届いたというお手紙をもらったで~」と言われて、「ひいぃ!!」となりました。だってもう、すっかり忘れていましたし、まさか届くなんて思って書いていませんから。心のきれいな、ピュアなお手紙を書いていなかったんですよね。

私のほかに、1年生の子のお手紙も誰かに届いてお返事が来たらしく、全校で2人だけでした。

すごい! 関西から愛知県の知多半島まで届いて、手にしてくださった方がいて、そのお返事が届いたんですね。森嶋さんが風船につけたお手紙には、どんなことを書いたんですか?

森嶋さん:阪神タイガースが優勝したらいいな…みたいな。

それに対して、どんなお返事が来たんですか?

森嶋さん:「関西のほうから阪神タイガースを応援する手紙が届いて、高校生やし、勉強も頑張っているんやろうね。私は給食をつくっているんですよ~」という、めっちゃ愛に溢れた、あったかいお手紙でした。「知多半島って、どこ?」と思って、地図を広げましたね。それくらい、びっくりしましたし、嬉しかったです。

相手の方の住所も書かれていたので、返事を書いて送ったら、またお返事をくれたのに、そのまま私のほうが返事を書かず、フェードアウトしちゃったんです。

相手の方は今の私くらいの年齢で、私は息子くらいの年齢だったから。お手紙のやりとりという、ラリーを続けようにも、共通の話題が見つからないしという感じで、それっきり。でも、「返事をしなかった」という後悔が、心にちょっとの「ごめんね」として残っていたんです。
「もしも、あの時」と思うことが、後悔として残っていくことがありますね。

森嶋さん:今でも「あの時、返事を書いていたら」「年1回、年賀状だけでも出していたら楽しかっただろうな」と思うことはあるんですけど。私の中で「ごめんね」が残っていたというのは、相手の方からたくさんのものをもらったからなんですよね。

お手紙が誰かに届いてびっくりしたし、返事を書いたらそのお返事がまた来たし。私が高校生ということで、相手の方は「自分は給食の調理師をしている」と何かしら共通項を見出そうとしてくれたわけじゃないですか。なんていい人なのって。

私といえば、阪神タイガースを応援していたとはいえ、届かないだろうと思って少し投げやりな感じのお手紙を書いていたのに。相手の方はいいふうに受け止めてくださって、お返事も書いてくれて。その「してもらったこと」の嬉しさが私にはあったから、それに対して返しきれなかった「ごめんね」が残っていたんだと思います。

それが、あのお姉さんたちの懐かしいお手紙を見つけて読んだことによって、変わったんです。私自身があの時の相手の方と同じくらいの年齢になった今だから、そう思えたということもあるかもしれません。

きっとわかってくれていただろうなって。

高校生だから一応お礼として1通だけ、お手紙を書いてきてくれたんだな、風船が届いて少しでもやりとりが生まれたことが楽しかったなって。そう思ってくれていたんじゃないかなというふうに捉え直せ、嬉しかったり楽しかったりした思い出に変えることができたんです。
(2022年1月取材)

<お話をうかがって>

部屋を片づけたり、机や押し入れを整理したりする中で、偶然懐かしいお手紙を見つけることがあります。お手紙は物体として存在しているからいいのだろうなと思います。「思いがけず見つけてしまう」ということが起きやすく、「読んでみよう」となることがあるからです。

片づける手を止めて、封を開けて、お手紙を読み返す瞬間。そこに書き綴られているメッセージは確かに、そのお手紙が届いた当時に受け取っているんだけど、再び読むことによって感情や気持ち、思いが更新されるという感覚があります。同時に、自分の心境や状況、経験が、メッセージの受け取り方や解釈の仕方に影響を与えることにも気づくんです。

あの時の私には「こう」としか読み取れなかったけれど、「もしかしたらこういうことを言いたかったのかもしれない」というふうに新たなメッセージが浮かび上がる。森嶋さんがお話しくださったように、悲しかったり淋しかったりしたことも、嬉しかったり楽しかったりしたことに変わる。

お手紙は読むたびに、更新されていく感じがするんです。だから、お手紙は「再び届く」「何度も届く」というふうに思います。

次回は「『お手紙』をいろイロな視点から見てみる編」。森嶋さんが小学生の時にお母さまに贈ったびっくりなバースデーカードや、当時は解読が難しかったおばあさまからのお手紙など、いろイロなお手紙の思い出、そこから見えてきたこと、思ったことなどをうかがいます。
profile
レターセットや絵葉書、季節の切手を見つけるたび、「誰に書こうかな?」「あの人は元気にしているかな?」などアレコレ想像してはトキメク…自称・お手紙オトメです。「お手紙がある暮らし」について書き綴ります。
小森 利絵
フリーライター
お手紙イベント『おてがみぃと』主宰

編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』
 
『おてがみぃと』
『関西ウーマン』とのコラボ企画で、一緒にお手紙を書く会『おてがみぃと』を2ヵ月に1度開催しています。開催告知は『関西ウーマン』をはじめ、Facebookページで行なっています。『おてがみぃと』FBページ

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