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藤田 由布
婦人科医 レディース&ARTクリニック サンタクルス ザ ウメダ

婦人科医が言いたいこと 医療・ヘルシーライフ 2021-12-02
猿から両手ビンタと飛び蹴りされて、凹んだ私 其の①

炎天下に水銀式の温度計を置いたら、温度計がパリンと割れた・・・。1年中ずっと暑く、吹く風は熱風。この熱風は肌にあたるだけで熱くて痛い。昼の1時頃は木陰に入らないとやってられない。
青年海外協力隊としてニジェールの奥地、ザンデール県の保健局に派遣されたのは、はるか昔、私が21才の頃。
家の周囲は、いつも賑やかで

ザンデールの街の中心地
赴任してすぐに私はザンデールの街のど真ん中に、平屋の一軒家を与えてもらった。

シャワー室が2つもある家具付きダブルベッドの部屋が2つ、中央に20畳くらいのリビングで快適な家。全部の部屋の床はうっすら砂ボコリが絨毯のように敷き詰められている。

屋根裏からはヤモリの大群の足音が聞こえる。家の壁には模様のようにいつもヤモリが這いつくばってクークークーと鳴いている。

ヤモリも同居人と思ったら気にならない。雨期の雨漏りも日常となり気にならない。

各部屋の天井には蛍光灯の電気が付いている。近所で電気が付いている家は私の家だけ。なので近所の学生は私の家の前で宿題をやったりしていて常に近所の人々がそばにいる。

家の外には運動場くらい大きな庭。せっかくの大きな庭なので、馬と羊を飼って、犬2匹を番犬として放し飼いにしていた。庭にはガードマンの家族の家があり、子供と家畜が走り回っている賑やかな家だった。

ガードマンのご家族と日本料理カレーライスを一緒に試食
住み始めてすぐ、近所からやってくるホロホロ鳥が本当にうるさかったのを思い出した。

うちの庭に毎朝、3匹そろって泣き喚きにくる。毎朝だ。あまりにも鬱陶しい「うるさい奴ら3匹」は、うちの犬が追い払ってくれていた。

ホロホロ鳥
家のすぐ隣に小さなモスク(イスラム教の寺院)があり、1日5回のお祈りの時間に大音量でコーランが流れる。そのスピーカーは、もろに私の家の方向を向いていた。

はじめのころ、大音量のキーキーとハウリングした音に慣れずに苦痛だったが、不思議なことに慣れると大音量コーランは心地良くなってきたのである。
馬を競馬で走らせて一攫千金?!

誇り高きトアレグ族とラクダたち
馬は2万円くらいで購入したのを覚えている。馬の餌代は毎月1万円かかった。

馬の餌はヒエとアワである。人間の私より馬の餌の方が食費がかかった。

私は、馬は飼う前から名前を「龍馬」にしようと決めていた。ニジェールでひたすら司馬遼太郎の本を読んで、坂の上の雲を読んだあとに「絶対、龍馬にしよう」と思ったのだ。

しかし、馬が家に到着したら、うちの近所の住民がすでに私の馬の名前を決めてしまっていた。

飼い主に断りもなく勝手に決めていたのだ。その名は「ダンバカザン」。

ガードマンは興奮気味に「ダンバカザンは西アフリカで最強の競走馬だったんだ!」と。そして近所の人々も「おおお、ダンバカザンっていい名前だ」と。

ま、いっか、強そうな名前だし。

ある日、龍馬改め「ダンバカザン」を競走馬に出そうと、近所の誰かが言い出した。

優勝したら1年分の餌代になるくらい、いや、もっと大金の優勝賞金が出るらしいのだ。

私よりも身体の小さい10歳くらいの少年を乗せて走らせるとよい、と周囲が提案してきた。たまたま近所の乗馬が上手な少年が立候補してきたので、お駄賃をあげて競馬に出馬したのだ。
走り出してビックリした。ドデン、ドデン、ドデンと、うちのダンバカザンの走り方が何かオカシイ。

結果、ダンバカザンは太りすぎて腹回りが他の馬より二回りほど大きくて、完全なビリケツだった。

うちの馬は食いしん坊だったらしい。食べ過ぎで太っていたのだ。

走りがトロ過ぎて会場から失笑が漏れるほどであった。

「あの馬、ラクダのレースに出た方がいいんじゃないかー」と、笑われる始末だった。

遅い馬は、ゆっくりのんびり走るラクダ疾走に揶揄されるのだ。

ラクダのレース
西アフリカで最強の馬の名前を汚してしまった。ダンバカザンよ、恥をかかせてしまって申し訳なかった。
ニジェールの馬はニンジン嫌い?!
アフリカでは「馬はニンジンが大好物」というわけでなかった。

私は馬といえばニンジンと思い込み、市場で大量のニンジンを買って家に持ち帰った。太りすぎたダンバカザンをニンジンでダイエットさせることが目的だった。

大量のニンジンを抱えた私をみて、ガードマンが「なぜニンジン?」と聞いてきた。

「馬のエサに決まってるやん」と言ったら、皆なキョトンとしているではないか。

え?馬がニンジン食べるの?と、ガードマン。

え?馬といえばニンジンじゃないの?と、私。

ガードマンいわくニジェールの馬はニンジンを知らないらしい。食べるわけがないとのこと。

私は信じられずに、馬の口元にニンジンの束を差し出した。すると馬はニンジンを見向きもしない。

ほれほれ、美味しいぞー、といって私もニンジンを頬張って美味しそうに食べている姿を馬に見せたのだが、それでも馬はニンジンに見向きもしない。

おかしいなあ、絶対美味しいのに!と味見くらいしてみてよの勢いで、馬の口元にニンジンを少し強めに押し当てたら・・・

カプっと馬に指を噛まれてしまった。馬が人間を噛むことなんてないはずなのに。

アフリカでは哺乳類の動物に噛まれたらすぐに狂犬病のワクチンを接種するのが決まりである。

馬に噛まれるとはショックだったが、仕方がない。完全に私が悪い。馬は絶対ニンジンが大好物だと思い込んだ私が悪かったのだ。

渋々その足で900km離れた首都まで上京し、その日から狂犬病ワクチンを6回受けたのであった。
馬と猿と犬と一緒に通勤
犬のキャオは放し飼いだったので街の隅々まで知り尽くしていた。野良犬と大差ない生活をしているようだが、「キャーオー!」って呼ぶと3分以内にどこからともなく帰ってくるのである。

キャオとはハウサ語で「かわいい」という意味。

キャオは街の裏道を知り尽くしていた。キャオは、肩に猿を乗せて馬に乗る私より先頭を歩き、馬に道案内をする重要な役割を担ってくれていた。

キャオは、私が知らない道なき道を知り尽くしており、ショートカットの道なき道を案内してくれる。

キャオのお陰で、砂利道も砂漠の道もバイクよりも早くに移動できる私たち4匹(ヒト、馬、犬、猿)だった。

キャオは賢い犬だったが、2年ほどたったある日、隣国ナイジェリアの犬肉を食する笛を吹く民族にさらわれて帰らぬ犬となってしまった。

近所の人たちが言うには、「あの民族に食べられたんだろうよ」と。

ザンデールには、定期的に笛を吹いて街中を練り歩く民族が隣国からやってくる。

笛を吹いてついてくる犬を持ち帰るのだ。食べるために。

彼らいわく茶色の毛の犬が美味しいらしい。

ガードマンの妻は料理上手のファトゥマさん。日本から送ってもらったカレーライスを一緒に作った。
この子、ニホンザル?
気がついたらニジェールの我が家に住み着いた猿のブーブー君。この写真が実物のブーブー君である。

どんな経緯で私の自宅にブーブーがやってきたのか全く思い出せないのだが、ニジェール人の知り合いが我が家に連れてきたことは覚えている。

かわいい顔してキョトンと私を見上げるブーブーに、私は「うちにおっても、別にええよ」と目で合図し、その日からブーブーは我が家の庭に居候することとなった。

私がバイクに跨ったら、ブーブーはちゃんと私の腰に両手を回してニケツしてくれた。

ただし、ブーブーはノーヘル。私は猿のヘルメットは持ち合わせていなかった。

ちゃんと私の腰にしがみついて一緒に街をバイクで駆け抜け、私達は出会った当初からまあまあ仲良しコンビだった。

はじめのうちだけは。。。
ブーブーは甘い練乳コーヒーが好き
ブーブーは甘いコーヒーミルクが好きだったので、私は毎日ブーブーにコップ1杯のコーヒーにたっぷり練乳を混ぜて甘い甘いカフェをあげていた。

彼はたいそう嬉しげに毎日それを飲んでいた。

ある日、コーヒーを切らしたため、代わりにコップ一杯の水をあげた。

途端にブーブーが豹変。
ブーブーが真っ赤に怒った顔になり、コップの水を私の顔面にぶっかけてきて、ジャンプして両手ビンタをくらわして、さらに飛び蹴りをしてきた。

え・・・、ブーブー、君は正気か?

その日を境に私たちの関係は悪化。
猿から両手ビンタと飛び蹴りをくらって凹んだ私は、ブーブーと決別すべく、里親に出す事を決意。

さっそく、猿を欲しいと言ってくれたご近所さんにブーブーを出向させた。

けれども、ブーブーはどこへ行ってもご家族から嫌われてしまい、1週間以内に我が家に舞い戻ってきてしまう始末。

青年海外協力隊の仲間で集うと面白いことだらけ
猿の女の子とお見合い作戦
出向させても、すぐに我が家に舞い戻ってくるお猿のブーブー。

ガードマンと連日の作戦会議をする。どうやったらブーブーが気持ちよく養子に出迎えてもらえるか。

そこで我々は、ブーブーの気性の荒さは恋することで穏やかな性格になるかもしれない、と睨んだのである。

ブーブーの不貞腐れたような開き直ったような横顔が見える。

くるっとこっちを振り向き、私たちを睨めつけるではないか。「わしの話か?」と言っているようである。
ブーブーとビービーの運命の出会い
養子先が決まらぬある日、ガードマンが興奮気味に「大変だ!」と走って帰ってきた。

隣町の割と裕福な家族が、ブーブーと同じ種類の猿を飼っており、その猿は雌猿とのこと。

よし、ブーブーお見合い作戦決行だ。

私とガードマンは、菓子折りを片手にその雌猿の家を訪れ、お見合いの下見を決行したのである。

雌猿を飼っているご家庭のお庭には大きな葉の木が生い茂っており、その木の枝の高いところにブーブーそっくりな猿が腰掛けているではないか。雌猿のその子は毛並みも綺麗で、確かに顔も女の子っぽい。

この子の名前は? 家の主人に聞くと、「ビービーだよ」と。
ビービーって・・・笑いかけたが、むしろ運命の光が先に差し込んだ。この縁談は、いける。

もしブーブーとビービーが晴れて夫婦となった暁には、子供の名前は男でも女でもブービーと名付けよう、と勝手に盛り上がったのである。

ヤマハDT50のオフロードバイクで900kmツーリング(1999年ニジェール)
しかし、この後、予想を完全に裏切られる結果となったのである・・・・・。

続きは次回「猿から両手ビンタと飛び蹴りされて、凹んだ私 その②」へ
profile
全国で展開する「婦人科漫談セミナー」は100回を超えました。生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期障害は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、HPVワクチンのこと、婦人科のカーテンの向こう側のこと、女性の健康にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。
藤田 由布
婦人科医

大学でメディア制作を学び、青年海外協力隊でアフリカのニジェールへ赴任。1997年からギニアワームという寄生虫感染症の活動でアフリカ未開の奥地などで約10年間活動。猿を肩に乗せて馬で通勤し、猿とはハウサ語で会話し、一夫多妻制のアフリカの文化で青春時代を過ごした。

飼っていた愛犬が狂犬病にかかり、仲良かったはずの飼っていた猿に最後はガブっと噛まれるフィナーレで日本に帰国し、アメリカ財団やJICA専門家などの仕事を経て、37歳でようやくヨーロッパで医師となり、日本でも医師免許を取得し、ようやく日本定住。日本人で一番ハウサ語を操ることができますが、日本でハウサ語が役に立ったことはまだ一度もない。

女性が安心してかかれる婦人科を常に意識して女性の健康を守りたい、単純に本気で強く思っています。

⇒藤田由布さんのインタビュー記事はこちら
FB:https://www.facebook.com/fujitayu
レディース&ARTクリニック サンタクルス ザ ウメダ 副院長
〒530-0013 大阪府大阪市北区茶屋町8-26 NU茶屋町プラス3F
TEL:06-6374-1188(代表)
https://umeda.santacruz.or.jp/

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