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藤田 由布
婦人科医 レディース&ARTクリニック サンタクルス ザ ウメダ

婦人科医が言いたいこと 医療・ヘルシーライフ 2021-04-07
放置しないで!生理不順 ・ 無月経

「3ヶ月くらい、生理が止まっているんです」
「昔から生理が来たり来なかったり、生理不順なんです。」
「生理周期が40日以上で、遅れがちなんです。」

こういう女性、結構多いのです。

月経不順(生理周期がバラバラ)や、無月経(生理が来ない)は、実はとても危険なのです。放置は厳禁です。

心当たりがある女性は、必ず婦人科でご相談ください!

治療すべき病気が隠れているかもしれないし、放置することで将来的に不妊症や子宮の病気が増悪することもあります。
原因はいろいろ
月経不順や無月経の原因は、いろいろです。

無月経でまず考えられるのは、妊娠の可能性です。

生理が1週間以上遅れている場合は、妊娠検査薬を使用してみるのもいいかもしれません。はっきりしない場合は、婦人科でも即日検査が可能です。

とても稀なケースですが、染色体異常、腟や子宮の先天異常など性器の異常の可能性も考えられます。しかし、ほとんどの場合は、まず始めにホルモン異常、急激なダイエット肥満、強いストレスなどを考えます。

原因が複数に重なる場合もあるので、自分で判断せず、必ず医師に相談してください。

「婦人科って何されるか分からない、怖い!」と感じるかもしれません。性交経験がない女性は、内診が怖くて婦人科に行けない!と言うかもしれません。

内診が怖い場合は、問診時に不安であることなどスタッフにお伝えくださいね。

必ずしも内診が必須ではありません。性交経験がない女性や思春期の女性に対して通常は内診しません。血液検査だけで分かる疾患もあります。少し高額になりますが、MRIで診断することもあります(場合によりますが)。
一応、定義を示します
※月経に関するトラブルは個人によって経緯も違えば、環境や背景もそれぞれ違うので、自分で判断せず、かならず婦人科医に相談してください!
月経不順の原因でよくあるのは、PCOS
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)とは、卵巣で男性ホルモンがたくさん作られてしまうせいで、排卵しにくくなる疾患です。女性の20人に1人の割合でみられます。

排卵されない卵胞は卵巣にとどまるため、超音波検査でみると、卵巣の中にたくさんの卵胞(嚢胞)を10個以上認めることから多嚢胞性卵巣と呼ばれます。

この疾患は、血液検査でも分かることがあります。テストステロン(男性ホルモン)の値が高く、また、LH(黄体形成ホルモン)がFSH(卵胞刺激ホルモン)と不均衡に高い値になることが多いです。

この疾患は決して放置してはいけません。最近、PCOSで問題となっているのは、子宮体ガンのリスクが高くなることです。

PCOSは排卵しにくいので、プロゲステロン分泌が起こりづらくなります。内膜増殖を抑制するプロゲステロンの分泌がないと生理が起こりません。

排卵が起こっていない状態は、子宮内膜がエストロゲン刺激にずっと晒されていることであり、生理が起こらず、内膜がどんどん厚くなっていきます(持続する内膜増殖作用のこと)。この状態が子宮内膜癌(子宮体がん)のリスクを高めるのです。

事実、30歳以下の若年性子宮体癌の60%にPCOSが認められたとの報告があります。

だから、生理不順の女性は、子宮体がんを防ぐ目的においても、ピルなどを用いて定期的に生理(正確には消退出血)を起こさせることが必要なのです。
PCOSの症状でもあるニキビや多毛にも有効である第3世代ピル(マーベロン、ファボワール)や、第4世代ピル(ヤーズ、フレックス)が効果的です。

海外では、肥満の方にPCOSは多く見られますが、日本では細身の女性にも多く見られる疾患なのです。
甲状腺疾患の可能性も
あと、頻繁にみられるのが、甲状腺疾患による月経不順です。

甲状腺は首の気管の真前にあるチョウチョのような形をしている分泌腺臓器です。食事から摂取したヨウ素を取り込んで甲状腺ホルモンを産生しています。 この分泌は、脳下垂体で厳密に調整されています。

つばをゴクンとのむ時に首に手を当てると、甲状腺が上下に少し動くのが分かります。

甲状腺機能の障害には、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症があり、橋本病、バセドウ病、甲状腺炎、腫瘍など様々な疾患があります。

甲状腺が腫れている場合は、診察で分かることがあります。しかし、全く腫れてない場合でも疾患が隠れていることも多いです。

月経不順がきっかけで、バセドウ病や橋本病などの甲状腺疾患が発見されることは珍しくありません。
おっぱいから乳汁が出てませんか
妊娠中や授乳中は、通常、プロラクチンの値が高いです。これらの時期以外に、高い値を示す場合は異常であり、生理が止まることが多いです。

そしてプロラクチン値が高いせいで、妊娠中や授乳中でもないのにおっぱいから乳汁が出てきてビックリされる女性も多いです。

プロラクチンが高くなる原因で多いのは、下垂体腺腫(プロラクチノーマ)、薬剤性高プロラクチン血症、腎不全などです。

精神科の薬や吐き気止めの薬のせいでプロラクチン値が高くなることも、めずらしくありません。私が婦人科クリニックで勤めていた時は、1ヶ月に1名は薬剤性高プロラクチン血症で無月経となった女性をみました。

大事なのは、MRIで脳の下垂体が腫大していないか画像診断で確かめて、脳外科の医師に診てもらうことです。
過度なストレスを感じていませんか
ストレスで生理が止まってしまうこともあります。

ストレスとは、体の外からの精神的、社会的、物理・化学的な刺激を指します。体が自己を守る防衛反応として、このストレスが月経を調節している脳の視床下部の働きを混乱させ無月経の原因となります。

私が婦人科クリニックで最も多いと感じたのが、親族との死別によるショックやストレスによる無月経です。

あとは職場での人間関係、受験、就職、転職、引越しといった環境ストレスが原因となることもあります。

ずっと生理が止まっている状態はよくありません。薬でホルモンバランスを整えてあげることが大事です。

生理はストレスのバロメーターとも言えます。無意識に無理した生活を送っていないか、立ち止まって自己のストレスチェックをしてみるのもいいでしょう。

ただ、3ヶ月以上生理が止まってしまった場合は、かならず婦人科でご相談くださいね。
ダイエット中に生理が止まることもあります
ダイエット中に生理が止まることも、よくあります。

ダイエットで皮下脂肪が減少すると、女性ホルモンの産生を調節している脳の視床下部や下垂体からのホルモン産出が抑制されます。

そうすると、卵巣から、女性ホルモンのエストロゲンが出なくなって、無月経になるリスクが生じます。

女性は体にある程度の脂肪を保つことが大切なのです。
女性ホルモンは、脳、血管、筋肉など体の様々な部分に機能していますが、無月経になると一番問題となるのは、骨塩量が減ることです。

過度なダイエットによる無月経になると、月経が正常な人に比べて骨塩量が低下し、骨が弱くなるのが大きな問題です(骨粗鬆症)。
アスリートの無月経は要注意
これ、要注意です。

過度なスポーツは、初潮発来を遅らせたり、無月経の原因となることがわかってきました。

過度なスポーツによる無月経は、女性ホルモン分泌が停止してしまうことが問題となります。女性ホルモンの中でもエストロゲンには骨を丈夫にする作用があるため、疲労骨折を引き起こしてしまいます。

「女性アスリートの三主徴」をご存知ですか?

これは、アメリカスポーツ医学会から1997年に発表された女性アスリートの健康管理上の重要な問題点です。

「エネルギー不足」「無月経」「骨粗鬆症」のことをいい、体重が軽いことが有利とされる審美系の競技(器械体操、新体操など)や、陸上長距離などで起こりやすいことが知られています。
アスリートにとって過度のトレーニングを行うことは、疲労骨折を引き起こし、選手生命どころか、引退後の健康にまで悪影響を及ぼすことが懸念されます。

女性アスリートの指導者らは、この三主徴の予防対策についての理解を深めながら、トレーニング頻度や強度の調整、そして体重コ ントロールに留意していくことが重要となってきます。

バランスのとれた食事や、エネルギー消費量に見合った摂取量の維持をちゃんと考える周囲のサポートが必要となります。
他にもあります、無月経の原因
他にも無月経の原因は様々あります。

染色体異常(ターナー症候群など)、先天性卵巣形成不全、副甲状腺疾患、クッシング症候群、アジソン病、糖尿病、胸腺無形症、サルコイドーシス、重症筋無力症、SLE、副腎酵素異常、卵巣のアンドロゲン産生腫瘍、莢膜細胞増殖症、ムンプス卵巣炎、結核などの感染症、他にもあります。

こんなにもたくさんの原因を羅列しましたが、いろいろと精査しても、実際は原因の分からない無月経もたくさんあるのです。
月経不順の放置は厳禁です!
生理不順や月経不順の原因は様々ですが、どんな原因であれ放置は厳禁です。

説明したとおり、治療すべき病気が隠れているかもしれないし、放置することで将来的に不妊症や子宮の病気が増悪することもあります。

生理不順・無月経は、かならず婦人科でご相談くださいね。
profile
全国で展開する「婦人科漫談セミナー」は100回を超えました。生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期障害は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、HPVワクチンのこと、婦人科のカーテンの向こう側のこと、女性の健康にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。
藤田 由布
婦人科医

大学でメディア制作を学び、青年海外協力隊でアフリカのニジェールへ赴任。1997年からギニアワームという寄生虫感染症の活動でアフリカ未開の奥地などで約10年間活動。猿を肩に乗せて馬で通勤し、猿とはハウサ語で会話し、一夫多妻制のアフリカの文化で青春時代を過ごした。

飼っていた愛犬が狂犬病にかかり、仲良かったはずの飼っていた猿に最後はガブっと噛まれるフィナーレで日本に帰国し、アメリカ財団やJICA専門家などの仕事を経て、37歳でようやくヨーロッパで医師となり、日本でも医師免許を取得し、ようやく日本定住。日本人で一番ハウサ語を操ることができますが、日本でハウサ語が役に立ったことはまだ一度もない。

女性が安心してかかれる婦人科を常に意識して女性の健康を守りたい、単純に本気で強く思っています。

⇒藤田由布さんのインタビュー記事はこちら
FB:https://www.facebook.com/fujitayu
レディース&ARTクリニック サンタクルス ザ ウメダ 副院長
〒530-0013 大阪府大阪市北区茶屋町8-26 NU茶屋町プラス3F
TEL:06-6374-1188(代表)
https://umeda.santacruz.or.jp/

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