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小森 利絵
フリーライター えんを描く

おてがみじかん ライフスタイル 2019-01-25
お手紙とわたし~魚野みどりさん編①~

私のまわりにいる「日常の中でおてがみじかんを楽しんでいる人」にインタビュー。3人目は魚野みどりさんです。

素敵にコラージュされたお手紙を送ってくださったり、「お手紙は封筒も含めて全体で贈り物のよう」ということを伝えてくださったり。「ご当地フォルムカード」(各都道府県を代表する観光名所や行事、名物などのイラストと豆知識が描かれているポストカード)を教えてくださったのも、魚野さんでした。

中でも、魚野さんの「いろんな人を通して届くお手紙は、旅してきた人の話を聴くみたいに、いろんな風景を想像できます」という一言が心に残っています。郵便で届くお手紙は、郵便局員さんや配達員さんなどさまざまな人の手を伝って届くものです。以来、見た目も楽しいお手紙をつくって、わくわくする気持ちも人の手を伝って届けられたらいいなあと思うようになりました。

そんなお手紙にまつわる、ときめく、いろイロを教えてくださる魚野さんに、「お手紙」をテーマにお話をうかがったインタビュー記事を4回に分けて紹介します。第1回目は「家族との思い出編」です。
「お手紙をやりとりした」最初の記憶はいつですか?

魚野さん:「最初の記憶」と言われて思い出したのは、1歳の時に母から届いた絵手紙です。

2歳違いの弟が生まれるということで、私は一時期、祖母の家に預けられていたことがありました。実家が商売をしていて、忙しかったから預けられることになったのですが、まだ1歳ほどの子どもと離れるのはつらかったのでしょう。

母は毎日、私宛てに絵手紙を書いて、送ってくれていました。当時、私は幼かったので、絵手紙を受け取った記憶は残っていません。

でも、4歳の時に祖母が「覚えている?」と母からの絵手紙を綴じたものを見せてくれたんです。「私、こんな手紙をもらっていたんだ」とまるで自分が生まれた時の写真アルバムを見ているような気持ちになりました。

祖母が言うには、絵手紙を見て、私もらくがき帳にお母さん宛に何かを描いていたそうです。何枚かまとめて、祖母が母に送ってくれていたそうでした。
毎日お母さまから届く絵手紙には、どんなことが書いてあったのでしょうか?

魚野さん:ブルーの万年筆で書かれた文字と折り紙でつくったちぎり絵が、今でも印象に残っています。

内容は、1歳の子どもに向けてなので、「今日はお天気でした」「お父さんにこんなことがありました」「『人魚姫』の話は読みましたか?」といった簡潔なものでした。

たとえば、弟と同時期に生まれた叔父夫婦の赤ちゃんに会いに出かける日の前には「お母さんはまだ新幹線に乗ったことがないけれど、楽しんできてね」という一言と新幹線のちぎり絵の手紙が。

後日「1年の間に赤ちゃんが2人も生まれて、おばあちゃんは喜んでいるね」という一言とお気に入りの赤いバスケットを持つ私のちぎり絵の手紙が届いていました。

そのほか、母は童話が好きだから、アンデルセンやグリム、イソップといった童話に登場する場面を、祖母の近所の風景に当てはめて書き綴られたものも多くありました。

「あそこの公園のライオン(遊具)は『ライオンとネズミ』のライオンに似ていると思う」「『イソップ物語』で川を見たら自分よりも大きな肉を加えている犬が見えて、奪おうとしたら肉を落としてしまう話がありますね。おばあちゃんの家の近くに、そこに似た川があります」

小学生になって自分で文字が読めるようになると、「この川のことを言っていたんだなあ」と再発見することもありました。自分が子育てをするようになると、「あの時の母はきっとこんな気持ちやったんやなあ」と響いてくることが増えていったんです。

そういう経験が根っこにあったからでしょうか。私は娘と「交換ノート」をしていたことがあります。
「交換ノート」とは?

魚野さん:最初は娘の絵を残すことができたらいいなあという想いから、日付も記せるノートで、娘とやりとりを始めました。幼稚園に入園する前のことだったと思います。

私が「おやすみ」と書いたら、娘が「はーい」。私が「お星さまの絵」を描いたら、娘も真似っこして「お星さまの絵」を描いて。

まるでヘブライ語に見える文字を書いたり、三つ編みをした子の顔を描いたりなど、やりとりが積み重なっていきました。

今は、娘とはお誕生日にバースディカードを贈り合っています。「娘と2人で」ではなく、夫も含めて「家族3人で」なんです。
家族でバースディカードを贈り合うの、素敵ですね。

魚野さん:夫からはバースディカードのデザインは毎年同じで、年齢の部分だけが違うもの。一言もなくてそっけないんですけど、ワインと一緒に送ってくれます。

娘は紙好きで、社会人になってからますます凝り始めたので、エンボス加工など特殊なバースディカードを選んでくれます。

娘の場合、メッセージはカードではなく、普通のメモ用紙みたいなものに「おめでとう」って書いてあるんです。カードそのものがとても素敵だから、そこにメッセージを書くのはもったいないって。カードそのものがプレゼントなんですね。

それに加えて、包装紙や箱がかわいくて、おいしい洋菓子店のケーキも買ってきてくれるんです。

私からは、夫に絵本作家の林明子さんの『はじめてのおつかい』のポストカードにしました。私自身がその絵本がすごく好きで、夫の生い立ちを考えると、これがいいかなあと選びました。娘にはイラストレーターのyamyamさんのポストカードにしました。

「家族でバースディカードを交換しよう」と話し合って始めたわけではなくて、「しきたり」というか、「当たり前」のように、気づいたら家族同士でバースディカードを交換しています。

↑魚野さんの夫さんからの郵便物に貼られていた切手。義理のお母さまは切手を収集されていたそう。「『かぐや姫』など物語のある切手ばかり。こうして貼ると、まるでアートみたいですよね」と魚野さん

(2018年9月取材)
※お話をうかがって

魚野さんとお母さまとのお話をうかがって、お手紙って送ったその時にも届くけれど、その後もまた何かあるごとに届くものなんだなあと改めて思いました。

お手紙を読むと、「このお手紙をもらったのはこんな時期だったなあ」「この後、こんなことがあったなあ」などその前後のことも思い出せますし、年齢を重ねたり、関係性が変わったりするごとにお手紙から受け取れるもの、響いてくるものが変わってきます。

また、メッセージだけではなく、書き方、文字、絵、色、匂い、紙、切手など、さまざまなものが記録されているものです。そこに書かれているメッセージ以上に伝わってくるものがたくさんあるのだとも思います。

それにしても、絵手紙の内容がとても素敵。おばあさまの近所の風景に、童話や物語の一場面を当てはめるなんて、まるで絵本や童話集のようです。

魚野さんのお母さまは現在も絵手紙をよく描いておられるとのこと。「栗、茹でた」「南天が咲いているよ」といった絵手紙を描くほか、年賀状や暑中お見舞いは1枚ずつ手描きされているそうです。

次回は「旅先から自分宛のお手紙編」として、魚野さんがインドを1人旅した時に、行く先々で自分宛にお手紙を書いていたという当時のお話をうかがいました。
profile
レターセットや絵葉書、季節の切手を見つけるたび、「誰に書こうかな?」「あの人は元気にしているかな?」などアレコレ想像してはトキメク…自称・お手紙オトメです。「お手紙がある暮らし」について書き綴ります。
小森 利絵
フリーライター
お手紙イベント『おてがみぃと』主宰
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』
 
『おてがみぃと』
『関西ウーマン』とのコラボ企画で、一緒にお手紙を書く会『おてがみぃと』を2ヵ月に1度開催しています。開催告知は『関西ウーマン』をはじめ、Facebookページで行なっています。『おてがみぃと』FBページ

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