藤田 由布 産婦人科医 レディースクリニック サンタクルス ザ シンサイバシ 生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、女性にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。 |
探偵ナイトスクープに出演「ギニアワームを返して!」その① |
私は医師になる10年前までは、長年アフリカで寄生虫を追っかけていました。
異質な経歴だと後ろ指さされることも多いのですが、今となってはオモシロイ仕事をしてきたと胸を張って言えます。 唯一無ニの遠回り雑草人生だからこそ、人の痛みにも敏感で、人一倍の共感力が備わっていると自負しています。 体内で1mまでに成長するギニアワーム
私は、1997年から長年にわたりギニアワーム感染症の専門家としてアフリカの奥地で活動してきました。
この寄生虫、見た目はグロテスクですが、実はすごい虫なんです。 古代から人類を苦しめてきたこのギニアワームは、ヒトの体内で1mほどに成長し、雨季になったら肌を突き破って体外に出てくる。 感染した人は痛みで歩けなくなり、雨季の大事な畑仕事も出来なくなる。市場で経済活動もできなくなる。 このように貧困スパイラルのどん底に突き落とされるこのギニアワーム感染症は、池などの不衛生な水を飲用する貧しい国でしか流行しないため‘貧困の象徴’とされ、この寄生虫がいる国は「負け組」とさえ揶揄されてきました。 ※2011年時点でのギニアワーム感染国の分布地図 そんな古代から人類を苦しめてきた寄生虫‘ギニアワーム’が、なんと撲滅目前まできていて、来年あたりに世界的ビッグニュースになることが予想されています。感染者は、世界であと、たったの20数人なのです。
かつては、天然痘につづく撲滅可能な疫病はポリオだと言われていました。※→写真:ポリオに罹患した少女(ニジェール・ザンデール県) でも、感染サイクルの複雑さからポリオ撲滅の達成は近年は停滞気味です。むしろ、ギニアワームの方が早くに撲滅達成するだろうとWHOの見解も変わってきました。 WHOマークの蛇もギニアワーム?!
ギニアワームは一見、遠いアフリカの寄生虫のようですが、実は、この虫は皆さんの暮らしと少し近いところに見られるのです。
救急車の車体に描かれているマークや、WHOのマークの中央に描かれている蛇もそう、医療・医術の象徴として世界的に広く用いられているあの蛇マークがギニアワームなのです(諸説あります)。 ギニアワームはその残骸がミイラの身体からも出てきたという古代から存在していた寄生虫なのですが、不衛生な水を飲用する村落に蔓延し続けてきた感染症です。 人類が疫病を撲滅させた例は過去にたった1つのみ。1980年に撲滅宣言された天然痘だけです。 それから40年経った今、2つ目の人類の勝利が成し遂げられようとしています。それがこのギニアワーム感染症です。 ミジンコに寄生しながら、人体に寄生する賢いヤツ
1年かけて体内で1m程に成長するこのギニアワームは、まず溜池にいるミジンコに寄生します。その溜池の水を飲むことでギニアワームは人体に寄生し感染するのです。
ギニアワームは幼虫の頃は1mm以下で目に見えないくらい小さく、ミジンコごと体内に入るとまず胃に到達し、ミジンコの殻によって胃酸から守られ、ベビーギニアワームは小腸でミジンコから脱出し、そこで雄と雌が出会い交尾をします。 宿主の人様になんの断りもなく、勝手に人体内で子孫繁栄をしてくれるのです笑。 小腸の次は、腎臓などの臓器がある後腹膜へまわります。このあたりで雄は3ヶ月で3cm程度まで成長して死んで人体内に吸収されます。雄は哀れです。 一方、雌は後腹膜から皮下組織まで移動し、1mほどに成長を遂げ、皮下をニョロニョロ動き、最後は皮膚を突き破って体外へ顔をというかお尻を出します。そして皮膚が水に触れた時に一気に100万匹の幼虫を放つのです。
その水というのが、その村ではみんなの飲水だったりするので、村全体に一気に感染が広がってしまうわけなのです。 お産より痛いわ!
ギニアワームの感染者の8割は、重力の影響で膝下の皮膚から虫が出てきます。
この皮膚を突き破る時が最も痛く、感染した婦人達は「お産より痛いわ!」といって悲鳴をあげます。 感染者はひどい痛みのせいで、足を池水に浸そうとし、溜池などの水場へ行くのですが、その時を狙って皮下にいるギニアワームは一気に皮膚を突き破るのです。 なんとも賢い寄生虫。 ギニアワームは、雨期や水の匂いを知っている寄生虫とも言われています。 村落の人々はいつも同じ溜池をみんなで利用しています。 一人の感染者がその溜池の水に足を浸けることによってギニアワーム幼虫が何万匹も水中に放たれるので、その水を村中の人々が飲用していると、翌年に感染者が何十倍にも増えて‘アウトブレイク’する、というわけなのです。 感染者は寄生虫が皮下で動く痛みのせいで畑仕事に行くことが出来ず、働くことができず、市場に行くこともできず、その家族は経済的なダメージを受け貧困スパイラルに陥るのです。
あと少しでこの世から撲滅される・・・!!
ニジェールのティラベリ県ギニアワーム撲滅チーム。前列左:筆者/右端:PeaceCorpアリソンさん 雨の季節を知っている賢い寄生虫として古代から貧困地域を苦しめてきギニアワーム感染症。これが、なんと、ついに撲滅目前なのです。
残す感染国はあとチャド、南スーダン、エチオピア、マリの4カ国。感染者は、世界であと約20人のみです。 ギニアワーム撲滅活動を牽引するのは、元アメリカ大統領のジミーカーター氏の財団である 1986年のデータによるとサハラ以南アフリカの多くの国々で350万症例も報告されていました。それが、あとたったの20名ほどに至ったのです。人類の快挙です。
子供の日課は毎朝ロバに乗って5〜10km先の池まで水汲みにでかける ギニアワーム撲滅対策には、日本政府も莫大な援助をこれまで行ってきました。衛生な井戸水の普及、手押しポンプの建設、水を濾すためのフィルター布など、資金援助などでも多大なる貢献を果たしてきました。
(左)溜池の水を家で濾している (右) 日本の援助で建設された手押しポンプ ニジェールのザンデール県の奥地にあるガリンイッサンゴーナ村(150世帯くらいの村)主食はヒエ・アワ 仲良しコンビ、アミーナとザラ。すでに家事は全般しっかりできる。年齢は本人達も知らないとのこと 私は1997年からニジェール国のギニアワーム撲滅対策に携わり、カーターセンターの技術コンサルタントとしてニジェールとトーゴ共和国でこの活動に尽力してきました。担当した感染村は1000村を超え、集めたギニアワームは400匹以上。
寄生虫400匹を水筒に入れて持ち帰る
15年以上前になりますが、私はギニアワーム計400匹ほどを水筒に入れて持ち帰りました。
私が日本に持ち帰ったギニアワームは、アフリカ現地で体外から摘出した直後にエタノール95%に浸けて標本にしてあります。 エタノールに浸して6ヶ月以上経った完全な標本であり(現にカピカピ状態)、感染能力は全く無い状態である事を先に説明しておきます(法に触れていませんので、ご安心くださいませ)。 あの有名なリビアの航空会社「アフリキヤ」
私が西アフリカに出張する際によく利用したのは、リビアの航空会社で、今はなき‘アフリキヤ’の飛行機でした。
アフリキヤ航空は、搭乗の際に必ずダブルブッキングで数名が乗れなくなることで有名な航空会社でした。 トリポリ空港でのこと。搭乗ゲートが開いた途端に、一目散に広い飛行場を軽く300mをダッシュで駆け抜けて自分が乗る機体を目指す。 誰よりも早くに飛行機に乗り込んで座席を確保しなければ、ダブルブッキングで自分が乗れなくなってしまいます。 私も、何ふり構わず猛ダッシュで飛行機の階段を駆け上り、途中、隣で走っているオバちゃんの大きなお尻に吹き飛ばされそうになりながらも機内へ滑り込む。
指定席なんてないので、とりあえず席を確保しなければならない。はて、自由席の国際線飛行機なんて今でも存在するのでしょうか。 共に猛ダッシュで横並びの皆んなの頭によぎるのは、もし自分がダブルブッキングで乗れなかったらどうしよう、ということ。機内に乗り込んだ後も勝負は続く。
みんな手荷物かばんを座席めがけて投げ込み、席をキープ。私も皆んなの真似をして、お土産用に買ったお菓子の手提げ袋を2m先の空いた座席にシュート。無事、1席確保。 このように、蹴落とし合いのビッチ精神で私は無事に機内に搭乗。 ふと周囲を見渡すと、機内の前方には5人ほどのアフリカン達が呆然と立ち尽くし、青ざめた顔で「席が無い」と。アフリキヤ航空はスリリング極まりない飛行機でした。 私はホッと胸を撫で下ろしてゲットした座席にゆっくり腰掛けました。あろうことか座席のシートベルトは完全に壊れており、シートベルトのバックルがない。
仕方ない、シートベルトの両端を蝶々結びなんかしちゃったりして・・・と深く腰掛けると、座席はグラグラに揺れているではないか。 それでもこのアフリキヤ航空を何度も利用したのは、ただただ激安だったから。ただし、終始不安定な空の旅だったのでした。 あろうことか、全部あげてしまった
なんとか持ち帰ったギニアワーム入り水筒ですが、これが後にとんでもないことを巻き起こすのです。
知り合いの寄生虫学の著名な先生に「こんな面白いものがあるんです」と知らせたことがきっかけで、なぜか全国の大学医学部の偉い先生方に噂が知れ渡ってしまったのです。 「私にもギニアワームを譲ってほしい」と突然連絡が殺到したのです。ざっと国内外26大学から、30名ほどの先生方からのラブコールです。 私は気前がよかったのか、ギニアワームの価値を見くびっていたのか、ほとんど全てのギニアワームを先生方にあげてしまったのです。 獨協医科大学の寄生虫学講座の松田肇先生には、100匹ほど瓶にぎゅうぎゅうに詰めて全部あげてしまいました。 人様に譲渡したものは、もう私のものではない。しかし、あれから15年以上経過。あのギニアワーム達がどこでどうしているかやはり気になったのでした。 探偵ナイトスクープに依頼
あれから15年以上経過した今、ふと「お嫁に行ったあのギニアワーム標本たちは今、どこでどうしているのだろう」と思いたったことが発端でした。
関西人ならお分かりでしょう。困った事があると、「探偵ナイトスクープに頼めば何とかしてくれるだろう」の発想です。 ずっと憧れてた探偵手帳(探偵ナイトスクープ) もし、ギニアワームが研究に生かされている状態ならそのままご活用していてほしい。けれども、もしホコリが被った状態なら返して欲しい、という依頼内容です。
いちど人様にあげたモノを返せというのは、烏滸がましいのは重々に承知です。ただ、西アフリカの過酷な環境でやり遂げた仕事だけあって、ギニアワーム寄生虫に愛着が湧いてしまった感は否めません。教育や研究に活用されていない日陰の標本となっているなら、私の手元に置いてあげたい、そんな風に思っただけです。 探偵は、たむけんがいい!
探偵ナイトスクープのホームページ経由で依頼メールを送ってから3日後くらいに電話がありました。若手の構成作家さんから「決定ではないが、出来れば採用させてほしい」と。
それから「どの教授にあげたか名前のリストありますか?」などの質問があり、数日以内で撮影の日程が決まりました。 こんなにもすぐに採用が決まるんだ・・・・。 それからロケの日程をあれこれ話し合い、決まったのが、その次の週の日曜日。学会の私の登壇の日で、西梅田のガクトホールに探偵ナイトスクープのロケ班ご一行もくることとなったのです。 他の発表を控えた先生方にご迷惑かけてしまうので恐縮でしたが、関西の愛され番組の探偵ナイトスクープなので、ありがたい事にすぐに承諾いただけました。 そして、最初に頭によぎったのは、探偵は誰がくるのだろう。 ディレクターさんと電話で打ち合わせしている時に、思わず「私、たむけんがいいですー」と言ってしまいましたが、「それは、当日までのお楽しみにしておいてください!」と言われてしまいました。また、「撮影の日は、探偵の芸人は東京から朝始発の新幹線で大阪に来ます」との情報をもらいました。 ということは、東京の芸人さんか・・・・・ 探偵は寛平ちゃんとたむけんではない、と悟ったのでした。 そして当日、現れた探偵さんは・・・・続きは次回「探偵ナイトスクープに出演「ギニアワームを返して!」その②」 |
藤田 由布
産婦人科医 レディースクリニック サンタクルス ザ シンサイバシ 院長 大学でメディア制作を学び、青年海外協力隊でアフリカのニジェールへ赴任。1997年からギニアワームという寄生虫感染症の活動でアフリカ未開の奥地などで約10年間活動。猿を肩に乗せて馬で通勤し、猿とはハウサ語で会話し、一夫多妻制のアフリカの文化で青春時代を過ごした。 飼っていた愛犬が狂犬病にかかり、仲良かったはずの飼っていた猿に最後はガブっと噛まれるフィナーレで日本に帰国し、アメリカ財団やJICA専門家などの仕事を経て、37歳でようやくヨーロッパで医師となり、日本でも医師免許を取得し、ようやく日本定住。日本人で一番ハウサ語を操ることができますが、日本でハウサ語が役に立ったことはまだ一度もない。 女性が安心してかかれる婦人科を常に意識して女性の健康を守りたい、単純に本気で強く思っています。 ⇒藤田由布さんのインタビュー記事はこちら FB:https://www.facebook.com/fujitayu レディースクリニック サンタクルス ザ シンサイバシ 〒542-0085 大阪府大阪市中央区心斎橋1-8-3 心斎橋パルコ10F TEL:06-6253-1188(代表) https://shinsaibashi.santacruz.or.jp/ |
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