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あみ りょうこ 版画家 ninjacco
1982年大阪生まれ、兵庫育ち。メキシコのオアハカ州での暮らしを経て、2020年から日本に。 ものつくりが好きで、オアハカで版画に出会い制作を続けている。
AMIのAMIGO アート・芸術 2020-09-21
Vol.28 やっぱり食なのだな、の巻
オラー、こんにちは。あみりょうこです。暑い、暑い、もうあかんかも……と口を開けば暑いを連呼する日々でしたが、先週くらいから急に涼しい風が吹き始めました。

「やったーーーーー!」

と思わず声が出るほどうれしかったです。確かに、セミの声が聞こえなくなってきて、夜になると虫の声が聞こえてくるようになったなと思っていたのです。

相変わらず世界はコロナを抱えたままで、ニュースを見ると増えただへっただという感染者数のことを耳にしていて、もはやそれすらがニューノーマルとなっていて、いったいいつになれば「コロナなし、ひゃっほーう!」とできるのだろうか、と薄い期待をしながら日々を淡々と着実に過ごすしかないと思っていた中、肌で感じる気候の変化。確実に季節は巡っているのだなぁとしみじみとしてしまいました。

そして、日本にいるなぁ、というのを妙に実感したのでした。オアハカにいるときは、季節が「あ、今変わっている」という感覚はあまり持っていませんでした。

基本的に雨季と乾季という感じで1年を見ていました。気温の感覚で言うと、「暑い・めっちゃ暑い・ちょうどいい・ちょっと寒いかも?」という振れ幅なので変化に乏しく四季を感じながら、というほどではないです。

だいたい年間を通じて過ごしやすいのですが、年が明けて2月くらいになると暑さが絶好調になりはじめ、照り付ける太陽を浴びながら「焦げる!」とつぶやきながら影を探して壁に沿うように歩き風が吹いて砂ぼこりが舞い、「さすが、フェブレロロコ(2月の気候は変わりやすくて2月はクレイジーだ、という意味)だ!」なんて感心しながらなんとなく過ごします。

3月は「マルソ、オトロポコ(3月もそのクレイジーな感じがまだちょっと残る)」だから、もう少しの辛抱だ!と腹をくくり、でも実際には4月も5月も暑くて、6月くらいになると夕方に夕立が降り始めます。雨期の始まりです。

日中は気温が上がるのですが、夕方にすべてを洗い流すような激しい雨がが降って一気に昼間の熱気を覚ましてくれるので夜間は過ごしやすくなります。

その一番暑い時期でも、空気が乾燥しているのでエアコンなしの部屋でも何とか過ごせていたのを思い返すと、湿気の高い日本の夏の方が過酷で耐え難いものだと今年の夏を振り返って断言できます。
雨期がまたしばらく続いて、10月くらいに乾期が始まります。乾期が始まった時の空の青さは本当に深くて濃くて、思わず空を二度見してしまうくらいでした。

オアハカの街並みはカラフルにペイントされた壁が多いので、壁と空のコントラストができて空の青さを余計に強調してくれるのかもしれません。

個人的には「死者の日」の前後の空は本当に美しいと思います。ご先祖様もいい時期に帰ってくるな、そりゃ楽しいわ、と思います。日本のお盆の時期はもはや暑すぎるので、帰ってくる方もお参りする方も大変ですよね。

先日おしゃれなカフェに行きました。店内の中央がオープンキッチンのようになっていて、カウンタも付いています。

テーブル席がいっぱいだったのでカウンタに座ってキッチンの様子を見ていると、それぞれの店員さんが小気味よく動いてそれぞれの仕事をこなしていました。「これ、ずっと見ててもあきひんやつや」と思いながらじいっと見ていると、大きな鉄板があるのに気が付きました。

メニューにホットサンドイッチなどがあり、その大きな鉄板の上で卵やら、ベーコンやら、パンやらを焼くためのもののようです。鉄板は常にあったまっていていつでも準備OKらしく、卵が投入されるとじゅっといい音。

こてで形をきれいに整えてパンにはさまれるのですが、そのサイズが大きすぎず小さすぎず、つまりぴったんこで、見ていてなんと気持ちいいんだ!思わずうっとりとしてしまっていると、ふと「トルタ」のことが思い出されました。
「トルタ」とはメヒコのホットサンドイッチのような食べ物なのです。「うまい・安い・早い」の三拍子がそろっているので軽食として広く好まれています。食堂でもありますし、ストリートフードの屋台としても見かけます。

注文してから中に入れる具とパンを鉄板で焼いて調理してくれます。私がよく食べていたのは移動式のトルタ屋さんでした。あちこち移動して売るのではなく、毎日同じ場所に来てくれるのですが、夜になるとどこかに行ってしまいます。

小さなスペースの中で、わりにたくさんの人が働いていて、お互いに場所を邪魔せずに持ち場の仕事をこなす感じもこのカフェのオープンキッチンに似ていたので思い出したのかもしれません。
注文を聞く人、トルタを鉄板で焼く人、パンの下ごしらえをする人、洗い物をする人などに分かれているのですが、トルタを鉄板で焼く人のこてさばきが本当に気持ちいいです。

家庭や職場の人数分を持ち帰りで頼んでいく人も多くいます。その際の一人の注文の数は結構な数になるのですが、それを上手に焼きこなしていく姿は感動的です。ずっと見ていられるような、そう、御座候の前でついつい立ち止まってしまうような感覚です。

メヒコにいるときは、大きな鉄板を見るとよく「ああ~、あの鉄板でお好み焼きを焼いたらめっちゃおいしいやろうなぁ」と思っていましたが、まさか日本で鉄板を見てお好み焼きよりも先にトルタを思い出すとは。

コロナ禍の中で、オアハカの人の歩いていない町の写真がアップされているのをたくさん見ました。自分が知っている道なんかだったりすると胸が締め付けられるようななつかしさにかられます。

人がたくさん歩いていたら、いいなぁ、観光してるなぁ、と違う感想を持ったかもしれませんが、人がいない写真というのは「その道と自分」という目で見てしまうので、何とも言えない気持ちに襲われます。

一方今回のように、日本にあるものを見てふいにメヒコで満たされる瞬間があります。だんだん気が付いたのですが、そういう時は大体食べ物に関連しているなということです。

鉄板を見て、トルタのことを思い出し始めたと思ったら、頭の中ではもうその屋台に並んでいる自分がいます。

名前を聞かれていつも聞き取ってもらえなくて、スペルを言って、自分のトルタが出来上がるのを待つのですが、日差しがきつすぎるので少し離れた木の陰で待ちます。遠めでトルタが調理される様子を見ながら、あれが自分のかな、と思いながらチーズが溶ける様子を見てつばを飲み込みます。

出来上がって名前を呼ばれるのですが、うまく呼んでくれる人や、スペルを見てあきらめられて結局伝票番号で呼ばれたりすることもあります。

“¿Para llevar o para aquí?(パラジェバール・オ・パラアキ?/持ち帰り?ここで食べてく?)”

“Para aquí!!(ここで)”


というと、トルタを半分に切ってお皿のまま渡してくれます。お皿の重みと底のぬくもりが手のひらに感じられるような気がするから不思議です。

メヒコにいて日本を想い、日本にいてメヒコ、あるいはほかの場所を想うということがあります。みなさんにもあるのではないでしょうか。

きっと、自分が今いないところへ思いを馳せるのは人の性質なのでしょう。大好きな場所を思い出してあたたかくなる気持ちは甘美でうっとりします。

しかし、口の中に広がるよだれと高まった食べたい気持ちをどうしてくれる、とこの妄想癖が恨めしい気持ちになります。食欲の秋が始まりました。

それでは、また!Nos vemos!
works
【今月の作品】
ここのところ立て続けに友人がお母さんになりまして、ギフト用にTシャツを刷って送りました。その友達のことを思い浮かべて、印象深い一言を添えました。

写真のものは、三重県出身の友だちが学生の時によく使っていた方言「せやもんでさ!」です。静岡県出身の友だちは「だもんで」、関西出身の友だちは「せやから」と使っていたので、静岡と関西の間の三重はちょうど足して二で割ったみたいな言い方になるのか!!と妙に感動したのを覚えています。

すくすく育って早く着てもらえるようになったらいいなと思います。

※オリジナルの言葉を添えてTシャツをオーダーしたいという方がいらっしゃいましたら、お気軽にお問い合わせくださいませ!喜んで刷らせていただきます!
連絡先→ryoko019@gmail.com
9月27日(日)に、シルクスクリーンの印刷の体験会をすることになりました。
詳しくは、Instagram(@obakepress)をご覧くださいませ。
profile
あみ りょうこ
版画家

1982年大阪生まれ、兵庫育ち。メキシコのオアハカ州での暮らしを経て、2020年から日本に。 ものつくりが好きで、オアハカで版画に出会い制作を続けている。
HP:https://amiryoko.wordpress.com/
instagram:ninjacco
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