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藤田 由布 婦人科医 レディース&ARTクリニック サンタクルス ザ ウメダ
生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、女性にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。
婦人科医が言いたいこと 医療・ヘルシーライフ 2023-02-02
女32歳、ヨーロッパの医学部に入学
その④〜外科の試験で絶対に落第しない合言葉〜
3年次は病理学が最大の難関

※病理学の教科書
1〜2年生を留年せず乗り越えてきたという自信がついたせいか、口頭試験にも慣れてきたせいか、3年次は少しだけリラックスして勉強に集中できた。

2年生の時ほど留年する学生はいない、という情報を上級生から得ていたことで安堵できた。

とはいえ、3年生になっても、まだまだ油断は禁物。折り返し地点にも達していない3年生の最大の難関は「病理学」だ。

※医学部キャンパスは緑豊かで野生のリスやハリネズミも出てくる
新学期早々、恐ろしい話が飛び込んできた。

病理学で落とされて留年が決まった女子学生が祖国のスウェーデンで、浸水自殺を図ったというのだ。

恐ろしい。

そんなことぐらいで命を落とすなんて、と思う一方、留年など絶対にイヤだと必死にガリ勉生活にハマっている自分にとって、彼女の憔悴ぶりは何となく理解できるから恐ろしかったのだ。

ショッキングなニュースは、これだけではなかった。

私たちが最もよく使っていた13階建てくらいの校舎「Tビルディング」の12階から飛び降り自殺もあった。解剖学の試験に落ちた学生だったらしい。

実際にこの校舎の12階から下を見下ろしてみたら背筋が凍った。

※授業はパワーポイントスライドで進められることが多い
3年次の必修科目は以下のとおり。(選択科目や一般教養科目は省略) 太字が難関教科。

病理学が最もキツかった。そのほかの教科はタイトルからして割と興味をそそられたが、病理学がしんどすぎて楽しめる余裕ですらなかった。

3年次
3年生1学期
Pathology 1 病理学 5単位
Surgical Techniques 外科手技 3単位
Immunology 免疫学 4単位
Medical Anthropology 医療人類学 2単位
Microbiology 1 微生物学 5単位
Oncology 腫瘍学 1単位
Clinical Biochemistry 1 臨床生化学 3単位

3年生2学期
Pathology 2 病理学 5単位
Microbiology 2 微生物学 5単位
Internal Medicine 内科 3単位
Medical Psychology 2 医療心理学 2単位
Clinical Biochemistry 2 臨床生化学 7単位

Surgical Techniques (外科手技)の授業は実技を学べる内容で、実際に手術器械を並べて1つ1つの使い方を学び、メスで皮膚を切ったり、持針器で針を使って縫ったり、糸結びを学んだりするのだ。

※キャンパス内にある実験用のラット小屋
練習に使うのは犬。手術練習用の犬がキャンパスの最も隅っこで飼われていて、その犬に麻酔をかけて背中の毛を剃り、その皮膚を切ったり縫ったりするのだ。

イスラエル人の学生の何人かが、動物虐待反対の運動のビラを配っていた。キャンパスの隅の小屋でずっと吠えている犬の鳴き声が聞こえる時、罪悪感を感じたのを覚えている。
外科手技で「ぜったい落第しない合言葉」
外科手技の実習はおもしろかったが、試験は難しかった。

試験官と1対1で、手術で使う器械の名前を即答し、決められた通りにテーブルに並べ(日本ではオペ室看護師の仕事)、臓器別で使う針や糸の種類やその強度をプレゼンしなければならない。

縫い方や、片手と両手での糸結びなどの実技の試験もあり、臓器別の手術合併症なども口頭試問する。

ただし、この外科手技の試験で落とされそうになった際に、必ず救済策があった。

それは「ステイプラーの発明者は誰?」という質問だ。

これはサービス問題だ。最低評価の「2」でギリギリ通してくれるという合図である。

ステイプラーというのは、皮膚を縫い合わせる時に使う医療用のホッチキスのこと。

※ステイプラー(左)/アラダー・ペッツ博士(右)
ステイプラーは世界中で使われている手術用具である。日本でも日常的に使われている。

このステイプラーを発明したのがハンガリー人のアラダー・ペッツ博士であり、教官たちはペッツ博士のことをとても誇りに思っている。

ここの医学部の学生たちの間では、アラダー・ペッツという名前さえ覚えておけば外科手技の試験は最低点だけどパス(合格)はできる、というのが有名な話だった。
病理学の授業で酔っ払った先生と2人きり

※解剖学は大変だっただけに思い出深い校舎だ
病理学の教授陣の中で一人いつもアルコール臭がする偉い教授がいた。

真っ赤な顔をして早口で淡々と授業を進めていく。足取りもおぼつかないその教授は呂律も回っておらず、学生の殆ども英語が第二外国語なので必死に授業についていく。

ただ、3回目、4回目の授業になるにつれ、出席する学生がどんどん減っていき、5回目以降は教室に数人しかいない授業となった。

しかし、私は病理学に落とされるのが怖くて全ての授業に出席していた。

※ガランとした実際の教室
7回目くらいの授業で、ついに大講堂で出席者は私一人の状態となった。アルコール臭を浴びながら、一対一の授業となり、あくびも出来ない緊張感だった。

正直いうと、私にはあざとい魂胆があった。

もし万が一、最終試験でこのアルコール臭教授が自分の口頭試問に当たった時のために自分の顔を売っておこうという汚い思惑があった。

自分の授業にたった1人しか出席していないその学生を、試験で落とすわけがないと思ったのだ。

こんな醜い思考が浮かぶくらい、私にとって進級試験とは背に腹をかえれない死活問題だった。

しかし、赤ら顔で殆ど酔っているアルコール臭プンプンの人間が、私の顔を覚えているわけがない。

試験の時も赤ら顔の教授からもらった私の病理学の成績は「3」、普通。良くも悪くもない。辛うじてパスした程度。

酔っ払いの授業を頑張って全部出席していたことを、少し後悔したりもした。
40カ国の人種のルツボ

※ハンガリーの医学部の学生は多国籍で、世界中の40カ国から集まっている
学生の国籍は40カ国ほどあった。最も多いのがイスラエルで、1学年に30人はいた。

さらに、パレスチナ、ノルウェー、スエーデン、アイスランド、韓国、ベトナム、ドイツ、キプロス、ナイジェリア、イランもそれぞれ10人以上いた。

イギリス、カナダ、オーストラリア、サウジアラビア、イタリア、ギリシャ、ケニア、アメリカ、ロシア、スリランカ、パキスタン、台湾、モーリシャス、ベラルーシからも複数人いた。

同じ教室に、イスラエル人、パレスチナ人、イラン人、アメリカ人がいるのだから不思議な感じだったが、イスラエル人とパレスチナ人は仲が悪かったのは言うまでもない。

他にもいろんな国から来ていた。私の同級生の日本人は、1年生の時は10人ほどいたが、6年間ストレートで一緒に卒業したのは、私ともう一人のケイ君のみだった。
大学内で民族紛争!?
4年生くらいの時に、医学部のキャンパスで「International Food Day」という各国の自慢の料理を競い合うイベントが開催された。

※実際にキャンパスのこの場所でInternational Food Dayイベントが開催された
20カ国くらいの学生らが参加したこの「食の祭典」は、和気藹々としながらも、水面下では火花が散る戦いが繰り広げられていた。

日本人チームはお好み焼きを出して、日本から持ってきた貴重なオタフクお好みソースと青のりとカツオ節をかけて、なかなか好評だった。

問題は、日本人チームのブースの両隣にいた2チームだ。

右隣にパレスチナチーム。左隣にイスラエルチーム。この2つのチームが互いに隣同士になることはない。

温和な日本人がこの2つの国の間に置かれたのは、何か意味深な気がした。

※同級生アルバムの1ページ、筆者は友達が少なかったので写真に写ってない笑 
ハンガリー人の教官たちが全部のブースを回って各国の料理を採点し、いよいよ結果発表。

「優勝は・・・・、パレスチナ!!」

この直後のイスラエルチームの不貞腐れた態度が印象的だった。

その真横でパレスチナ人の学生たちが肩車をして国旗を身に纏って大喜びで駆け巡る。

私たち日本人たちは、2つの国に挟まれて気付いたことがあった。

パレスチナは、日本人に与えられた場所の3分の1くらいまで彼らの大きな荷物を置いて、日本人の陣地を侵略していた。

片や、イスラエルは、彼らが使っていた炭焼き料理の木炭の煙とほこりが、風下の日本人陣地に直撃していても気に留めず、私たちがモロに埃まみれになっていた。
ここで文句を言ったら、キャンパス内で世界大戦になりかねない。

大学といえども、この多国籍な環境から世界の縮図が見えるようで、俯瞰で見るとなんか面白かった。

※路面電車トラムの医学部キャンパス駅 5〜10分おきでトラムはやってくる
そんな最中で起こった東日本大震災。海外から見た日本の天災とは・・・、次号へ続く
profile
全国で展開する「婦人科漫談セミナー」は100回を超えました。生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期障害は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、HPVワクチンのこと、婦人科のカーテンの向こう側のこと、女性の健康にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。
藤田 由布
婦人科医

大学でメディア制作を学び、青年海外協力隊でアフリカのニジェールへ赴任。1997年からギニアワームという寄生虫感染症の活動でアフリカ未開の奥地などで約10年間活動。猿を肩に乗せて馬で通勤し、猿とはハウサ語で会話し、一夫多妻制のアフリカの文化で青春時代を過ごした。

飼っていた愛犬が狂犬病にかかり、仲良かったはずの飼っていた猿に最後はガブっと噛まれるフィナーレで日本に帰国し、アメリカ財団やJICA専門家などの仕事を経て、37歳でようやくヨーロッパで医師となり、日本でも医師免許を取得し、ようやく日本定住。日本人で一番ハウサ語を操ることができますが、日本でハウサ語が役に立ったことはまだ一度もない。

女性が安心してかかれる婦人科を常に意識して女性の健康を守りたい、単純に本気で強く思っています。

⇒藤田由布さんのインタビュー記事はこちら
FB:https://www.facebook.com/fujitayu
レディース&ARTクリニック サンタクルス ザ ウメダ 副院長
〒530-0013 大阪府大阪市北区茶屋町8-26 NU茶屋町プラス3F
TEL:06-6374-1188(代表)
https://umeda.santacruz.or.jp/

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