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藤田 由布 婦人科医 レディース&ARTクリニック サンタクルス ザ ウメダ
生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、女性にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。
婦人科医が言いたいこと 医療・ヘルシーライフ 2021-02-03
婦人科を閉じるということ
それは、突然のことでした。

私の後任となる婦人科医が見つからなかった、ということで婦人科をどうしても閉じなければならなくなったのでした。

思えば一心不乱に診療に入魂し突き進んできた2年間でした。

患者さんには、なかなか伝わりにくいかもしれませんし、別に知るべき事でもないかもしれませんが、開業医と勤務医には決定的に違いがあります。

私はその後者で、勤務医です。ここのクリニックを立ち上げたわけでもなく、経営者でもなく、管理職でもありません。悪い言い方では「ただの医師」なのです。
2020年末で婦人科を閉じます
詳しい事は言えませんが、経営者から「年内で婦人科を閉めてください」と伝えられた時は、確かにショックでした。創設当初は、この地に新たに婦人科ができた事さえ周知されず、患者さんの数は1日に1人いらっしゃるかどうかのゼロレベル。

だからこそ、こんな時こそ一人一人の診療を大事にして、分かり易い説明に最善の注意をはらい、私も患者さんも納得のいく診療を心がけたものでした。
え?閉じるの?マジで?
この日から、多くの患者さんから「エレベータのお知らせみました。本当に閉じるのですか?」と尋ねられましたが、私の本心も「実は私も驚きました」でした。

常勤で外来診療できる婦人科医なんて、そう簡単には見つかりません。ただでさえ、医師不足の日本。どこのクリニックも、どの専門の科でも、ホイホイと後任が見つかる職種ではないのです。
大事なのは、患者さん
まず脳裏に浮かんだのは、大事な患者さんたちのことでした。

治療の経過途中の患者さん達を見放すわけにはいかない、すぐになんとかせねば、と考えました。

婦人科疾患の治療は継続していくものです。内服治療を開始してから少しずつ良くなっていく疾患も多いです。そんな患者さんの治療を途中で終わらすわけにはいきません。

私がたてた治療方針を受け継いでくれる婦人科クリニックを見つけなくてはなりません。

ここからが、気が遠くなる作業の始まりです。
診療情報提供書とは
まず初めに取りかかったのは、近隣の婦人科クリニックを調べ上げて、紹介先を見つけることです。同時に、過去半年間に当科を受診された患者さん全員に「紹介状」を書くことです。

紹介状とは、正確には「診療情報提供書」といいます。

これは、医師が他の医師、あるいは医療機関へ患者さんを紹介する場合に発行する書類ですが、内容は、初診時の主訴、行った検査内容、治療方針、治療内容などが書かれています。
今まで受け持った患者さん全員に、これを無料で配布させて頂きました。

私が料金を取らないと決めて発行しました。やはり、クリニック側の都合での紹介状というわけですので、患者さんからお金をとるわけにはいきません。

申し訳ない気持ちを持ちながら書く紹介状は、私にとっても初めての経験でした。

医師としてはあるまじき気持ちかもしれませんが、やはり自分が受け持ってきた患者さんは何がなんでも一番大事です。

紹介先のクリニックでも、しっかり診ていただけるよう紹介状を心込めて書き上げました。数えてみたら、900通以上でした。

興味深かったのは、9割以上の患者さんが「女医の婦人科クリニックを紹介してください」と希望されたことです。

男性医師が悪いのではありません。はっきりと言えるのは、女性医師による婦人科診療がもっと増えると女性にとって婦人科の敷居がうんと下がるということです。
仁王立ちで怒鳴る患者さん
突然の「婦人科を閉じます」という事態に、もちろん、患者さん皆が皆、納得される訳ではありません。

エレベーターに貼られた「婦人科の閉科のお知らせ」をみて、そのまま怒鳴り込んで診察室に入ってきた患者さんもいました。

「こんな無責任な婦人科はじめてよ!謝りなさいよ!」と、仁王立ちで大声で叫ぶ人もいました。

私が決めた事ではなない、経営陣の決定次事項であることなど、この人に説明しても仕方ないので、ただただ陳謝するしかないのでした。
怒鳴って怒る患者さんの気持ちも理解できない訳でもなく、きっと、せっかく見つけた近所の婦人科が急に消滅することに腹が立ったのでしょう。無理もありません。それだけ、彼女にとってうちの婦人科は大事な存在だったのでしょう。

何を隠そう、うちの婦人科は、更年期障害の保険診療で安価にプラセンタ注射を施行している「女性の味方」でもあったのですから。
あの子からのSOS
私には、厄介なのに気になる未成年の患者でKという子がいました。

診察室に突然泣いて現れたK。「今までありがとう、先生いなくなるの悲しいわ」と言って大きな紙袋を私の机にドンと置いて、Kは鼻をすすり、「これ開けてよ。先生のために選んでんで。飾ってな」と。

2年前に性暴力被害に遭ってうちを受診し、その頃から頻繁に現れるようになった17歳のK。

施設で育ち、学校にも行かず、周囲にまともな大人が居ないのが一目瞭然。

18歳の誕生日に診察室に現れて、「今日わたし誕生日やねん、おめでとうって言って欲しいから来てんで」と。

今日はどっかでお祝いするの?と尋ねると、「やっと18になったから、今から風俗の面接に行ってくるねん」と。

Kとは深くは関わってこなかったが、この子が何も用事がないのに何度も診察室に現れたのは、何かのSOSを発しているのだけは感じていたわけで。

そんなKが、最後に診察室で泣きじゃくり、何も助けてあげれない私に向かって何度もお礼を言ってきて、さすがにグッときてしまいました。

あの子の幸せをただただ願うばかりで。まだ未成年、なんぼでも化けれる。

強く生きて欲しい。
アロマの登場
嬉しかった事の一つとして、アロマを導入したこと。これは、私の個人的な大事な繋がりがきっかけで、当院に贈呈してもらったものです。

このアロマは、私の中学高校時代の同窓生が代表を務める「パーフェクトポーション」社の製品です。

彼女は、妹さんを婦人科疾患でなくした過去があります。敷居が高く行きづらい婦人科診療の場を、少しでも安心して通える所にできれば、とアロマセットとディフューザ3台をも当院に寄贈してくれました。

ありがとう、貴世。今も当院では多くの患者さんをアロマが癒してくれています。
仕方がない閉科
当院では、経営陣にとっても婦人科閉科は本望ではありませんでした。

クリニック経営というのは、どうしようもないことが沢山あります。後任の医師が見つからないという事態は、本当にどうしようもありません。誰も責めることが出来ないのです。

ここで大事なことは、今まで治療を継続してきた患者さんを宙ぶらりんにしないこと。しっかり次の医師へバトンタッチすること、です。私はここで、婦人科の創設から閉科までの一連を経験することとなりました。学びに学んだ2年間です。

※ここでの注意点は、半年以上前に診療を自己中断された患者さんの紹介状は用意していません。ご了承ください。
2年前の2018年10月に開院したばかりの当婦人科で、皆様の温かい御厚意に支えられながら今日までやってこれました。常日頃より皆様には感謝しております。これ迄の皆様の御厚意に報いるべく、一意専心、今後も婦人科診療に邁進いたす所存でございます。
profile
全国で展開する「婦人科漫談セミナー」は100回を超えました。生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期障害は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、HPVワクチンのこと、婦人科のカーテンの向こう側のこと、女性の健康にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。
藤田 由布
婦人科医

大学でメディア制作を学び、青年海外協力隊でアフリカのニジェールへ赴任。1997年からギニアワームという寄生虫感染症の活動でアフリカ未開の奥地などで約10年間活動。猿を肩に乗せて馬で通勤し、猿とはハウサ語で会話し、一夫多妻制のアフリカの文化で青春時代を過ごした。

飼っていた愛犬が狂犬病にかかり、仲良かったはずの飼っていた猿に最後はガブっと噛まれるフィナーレで日本に帰国し、アメリカ財団やJICA専門家などの仕事を経て、37歳でようやくヨーロッパで医師となり、日本でも医師免許を取得し、ようやく日本定住。日本人で一番ハウサ語を操ることができますが、日本でハウサ語が役に立ったことはまだ一度もない。

女性が安心してかかれる婦人科を常に意識して女性の健康を守りたい、単純に本気で強く思っています。

⇒藤田由布さんのインタビュー記事はこちら
FB:https://www.facebook.com/fujitayu
レディース&ARTクリニック サンタクルス ザ ウメダ 副院長
〒530-0013 大阪府大阪市北区茶屋町8-26 NU茶屋町プラス3F
TEL:06-6374-1188(代表)
https://umeda.santacruz.or.jp/

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