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池田 千波留 パーソナリティ、ライター 香のん
(←プロフィールは写真をクリック)宝塚歌劇の魅力にぐいぐい迫っていきます!
タカラジェンヌ歳時記 趣味・カルチャー 2014-06-20
オスカルは理想の上司@宙組「ベルサイユのばら」
「宝塚歌劇って、いつでも『ベルサイユのばら』をやっているんじゃないんですね?!」

宝塚歌劇を初めてご覧になるかたを劇場にお連れして、
こう言われることが何度かありました。

そのたびに「いえいえ、宝塚には『ベルサイユのばら』以外にも
名作がたくさんあるんです」と説明するのですが、
「宝塚歌劇=ベルサイユのばら」という図式が一般に浸透するほど
宝塚歌劇の歴史において大きな意味を持つ作品であることは間違いありません。

1972年に『週刊マーガレット』で連載が始まった
池田理代子の漫画「ベルサイユのばら」は
フランス革命を背景に恋や人間の生きざまを存分に描いた壮大な歴史物で、
空前の大ヒットとなりました。

物語はダブルヒロイン、ダブルヒーローの形をとっています。
14歳でオーストリアから政略結婚のためフランスに嫁ぎ、
のちに断頭台の露と消えた王妃マリー・アントワネット。
代々フランス王家を守護する軍人の家系の末子として生まれ
女性でありながら跡取りとして育てられる男装の麗人オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ。
フランス留学中にマリー・アントワネットと出会い、
禁じられた恋に落ちるスウェーデン貴族ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン。
そしてオスカルの乳母の孫として幼いころからオスカルを支えてきた
平民アンドレ・グランディエは、オスカルへの身分違いの想いを胸に秘めている…。

この4人の交錯する恋模様だけでも十分にドラマティックであるのに
彼らの周囲に登場する人物は実在・架空を問わず みな個性的。
舞台はベルサイユ宮殿、
コスチュームはロココ調のドレスや華麗な軍服、
主人公たちを待ちうける数奇な運命…
まさに宝塚歌劇にうってつけの作品だったのです。

初演は、1974年月組。
原作ファンからは期待の声よりも、反発が大きかったと聞きます。
特に、男装の麗人オスカルに対するファンの思いは熱く
「夢を壊す」として、オスカル役の榛名由梨にはカミソリの刃入りの手紙が
送られてくることも多かったとか。

これに対し宝塚歌劇団では、世紀の二枚目 長谷川一夫に演出を依頼する一方
出来る限り漫画に近いメイクを研究するなど
初日に向けて努力を重ねました。
そして初日。震えるような思いだった月組生の多くは
榛名オスカル登場の瞬間に客席から沸き起こった悲鳴のような歓声に
総毛立つ思いがしたと語っています。

この公演の好評を受け、花組、雪組、星組、そしてまた月組と
各組でさまざまなバージョンの「ベルサイユのばら」が上演されました。
これが「ベルばらブーム」です。
それ以前は空席が目立っていた宝塚大劇場は連日満員。
安奈淳、榛名由梨、汀夏子、鳳蘭という、
人気実力ともに充実したトップスターがそろっていたこともあり
宝塚歌劇黄金時代となりました。

その後、フランス革命200周年に当たる1989年、
東京宝塚劇場建て替え完成の2001年など、
節目の年に再演されてきた「ベルサイユのばら」。
今年、宝塚歌劇100周年にも、もちろん再演されることとなり、
つい先日、宙組「ベルサイユのばら」が宝塚大劇場で千秋楽を終え
6月20日からは東京公演が始まります。

先に書いたように「ベルサイユのばら」はダブルヒロイン、ダブルヒーローの物語なので
トップスターのキャラクターに合わせ、だれを中心に物語を再構築するかが決められます。
宙組トップスター凰稀かなめはオスカルタイプ。
そのため、宙組「ベルサイユのばら」はオスカル編となりました。

主人公になりえるキャラクターが4人いると言っても
男装の麗人オスカルは別格なようで、
歴代オスカル役者には毎回、大変なプレッシャーがかかっているようです。
私が客席でそれを感じたのは1990年花組「ベルサイユのばら」。
当時花組トップスターだった大浦みずきがフェルゼンを演じたため
「フェルゼン編」となったこの公演では
オスカルに4人がキャスティングされました。
月組 涼風真世 星組 紫苑ゆうの客演と、
当時花組で2番手3番手を競っていた安寿ミラと真矢みきです。
私は真矢みきオスカルの初日に1階2列目で観劇したのですが
オスカルが銀橋(エプロンステージ)を歌いながら歩くシーンで
真矢みきの体が細かく震えているのがわかり、びっくりしました。
舞台度胸満点の真矢みきが震えるなんて、
オスカルってすごい役なんだなと。

さて、このたびのトップスター凰稀かなめのオスカルは
173センチの長身、長い脚、ブロンドの長髪に
華麗な軍服、ひるがえるマント…。
まさに劇画から抜け出てきたようなビジュアル。
さすがにトップスター、役の重圧などないかのごとく堂々たる主役ぶりでした。

「ベルサイユのばら」の脚本を手掛ける植田紳爾は
再演のたびに脚本を書きかえています。
これまでのオスカル編では、
王妃に恋するフェルゼンを思うオスカルの叶わぬ恋や
幼なじみだったアンドレの思いに気づかされ、真の愛に目覚めるなど
胸がきゅんとなるような恋愛に重きが置かれていました。

ところが今回は異変あり。
革命の中、命を落としたオスカルが再び目覚めると
先に天に召されていたアンドレがガラスの馬車に乗って迎えに来ており
2人して天国へと旅立つ…という
宝塚ならではの美しい場面がカットされていたのです。
これはちょっとした衝撃でした。
オスカルの死に流した涙が、
天国で結ばれる身分違いの2人の姿に癒される、
良い場面だったのに…。
加えて、フェルゼンが出てこない脚本なので
オスカルの切ない恋心も描かれていません。

逆に加えられた部分は
オスカルの誕生シーンや成長過程など、
男性の軍人として生きざるをえなかったオスカルの運命を描く場面です。
一方で、同じ親から生まれながら普通の女性として育った姉たちが
美しく着飾り、無邪気に話をするシーンがあることで
男社会で生きるオスカルが、
身分制度への疑問を持ち、革命に巻き込まれていく様子が
際立つことになりました。

また、上下関係の厳しい軍隊にいながら、
筋違いのことを言う上官にはひるまず立ち向かい、
身分や立場をかさにきたような命令はいっさいせず部下を守る
「男前」なオスカル像もしっかりと描かれていました。
毎年アンケート調査がある「理想の上司像」に
もし架空の人物部門があるならば
オスカルはかなり上位にランクインすると思われます。

そんなオスカルが最後は貴族の身分を捨て、
人民とともに王家に刃を向け、命を散らす…。

宙組「ベルサイユのばら -オスカル編‐」は
恋愛部分を出来る限りそぎ落とし、
一人の人間としての成長を際立たせた作品なのです。
だからこそ「良い場面だったのにカットするなんてもったいない」と思った
アンドレが天国から迎えに来る場面も必要がなかったのかもしれません。

男子が草食化する一方で
真に自立し仕事に生きる女性が増えている現代にふさわしいオスカル、
それが宙組トップスター 凰稀かなめオスカルだと言えるでしょう。

先日、退団を発表した凰稀かなめのオスカルをぜひ劇場でご覧ください。

宙組
「ベルサイユのばら ―オスカル編―」
東京宝塚劇場:2014年6月20日(金)~7月27日(日)

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