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10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」(森山至貴)

「ずるい言葉」に負けないための処方箋

10代から知っておきたい あなたを閉じ込める「ずるい言葉」
森山 至貴(著)
「もっと早く言ってくれればよかったのに」(ずるい度★)
「ひどいとは思うけど、そこまで傷つくことかな?」(ずるい度★★)
「あなたのためを思って言っているんだよ」(ずるい度★★★)

うまく丸め込こまれて私が悪いことになってしまったけど、本当にまちがっているのはやっぱり私ではない気がする。相手は私のことを思って言ってくれたのだとは思うけれど、ありがたいというよりはむしろ傷つく。私が言い返せないような言葉を、相手があえて選んでいるような気がする。

本書は、そんな「ずるい言葉」に負けないための処方箋です。「ずるい言葉」が登場する29の会話例を紹介し、そこに潜む思い込みや責任逃れ、偏見を読み解いたうえで、どう対処すればよいのかを、やさしく、そして厳しく説く一冊です。

著者の森山至貴さんは、差別、とくにセクシュアルマイノリティに対する差別について研究する社会学者です。

タイトルにあるように、「ずるい言葉」に閉じこめられてしまっていると感じる中学生、高校生にまず読んでほしいと思って書かれたそうですが、そのような閉鎖的な状況を打破したいと思っている大人にも有効です。

次の例は、ある生徒と先生との会話です。先生の同僚の山本先生が話題になっています。

生徒「山本先生って生徒たちから人気ですよね」
先生「女の先生だからね。やっぱり美人だと得だよね」
生徒「そういう言い方は山本先生に失礼だと思います」
先生「美人っていうのはほめ言葉なのに。そうやってあれもこれも言えないとなるともうなにも言えなくなる。息苦しい」

あるある…ですね。著者は、この先生の発言の問題点をふたつ指摘します。ひとつは、山本先生の人気の理由を、性別や容姿に求めている点です。それは教師としての実力や努力によるものではないと言っていることと等しいのです。さらに、そのような不当な評価を生徒に聞かせていることも問題です。

もうひとつの問題点は、自分が被害者であるかのように言って、反論を封じていることです。これが「ずるい言葉」(ずるい度★★★)です。

「あれもこれも言えないとなるともうなにも言えなくなる」と言いながら、実際には性別や容姿のことしか言っていません。

でも、失礼だと指摘されるような話題を避けたからといって、なにも言えなくなるということはありません。この場合なら、山本先生の授業の進め方や、生徒への接し方など、話題はいくらでもあるはずです。

「あれもこれもダメと言われて何も言えない」という愚痴や反発は、SNSやテレビのコメントなどでも見聞きします。しかしそれらは、従来見過ごされていた不公正や差別をこれからも維持することによって、自分が優位に立ちたいという心情の表れなのです。

となると、本書を一番読むべきなのは、「ずるい言葉」を発してしまう人なのですが、そうした人は、それが正当ではないとうすうすわかっていて発しているので、あまり期待できません。

だからこそ、人を「閉じこめてしまう」ような「ずるい言葉」を受けた側、聞いてしまった側が、モヤモヤの原因をきちんと分析して、適切に対処していくことが必要になります。そこに潜む差別意識を黙認したり、同意するような反応を示したりすることは、それを認めることにもなりかねないのですから。

本書には、ずるい言葉の分析だけではなく、具体的な受け答えのアドバイスもありますよ!
10代から知っておきたい あなたを閉じ込める「ずるい言葉」
森山 至貴(著)
WAVE出版 (2020年)
大人より弱い立場にある子どもが、「ずるい言葉」にだまされないようにするためのヒントを伝える本です。大人にも実感を持って読んでもらえると思います。 出典:amazon
profile
橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師

同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。
BLOG:http://chekosan.exblog.jp/
Facebook:nobuko.hashimoto.566
⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら

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