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産医お信なぞとき帖(和田はつ子)

江戸時代の医療ミステリー

産医お信なぞとき帖
和田はつ子(著)
お信の母親は産婆だった。

母の後ろ姿を見て、その仕事を尊敬し、自身も産婆となったお信。

母の教えが良かったのか、腕のいい産婆だと評判を取るようになったお信だが、多くの出産現場に立ち会っているうちに、産婆の知識だけでは乗り越えられないことがあると実感。

医師としての知識があれば母子共に救える命があったはずだと思ったのだ。

そこで知り合いの医師に弟子入りし、医学の知識を学ぶことになった。

やがて師匠である医師と夫婦になるが、夫は事件に巻き込まれ突然この世を去ってしまう。

尊敬していた母も流行病で亡くなっており、お信はただ一人でお産を中心とした医療に取り組むことになった。

卓越した助産の腕前と清廉なお信の人柄は口コミで広がり大人気となったが、江戸時代は医師といえば男性であることが当たり前。

男性医師たちにとってお信は邪魔で生意気な存在だった。

あるお産をきっかけとして、お信は殺人事件に巻き込まれる。

お信は容疑者になってしまったのだ。

頼れる人がほとんどいないお信は、自身で身の潔白を証明しようとするのだった。
(和田はつ子さん『産医お信なぞとき帖』を私なりにご紹介しました。)
この小説には複数のテーマがあります。

まずは江戸時代の女性の生き方。

手に職を持ち、夫亡き後は自分一人の力で生きていこうとするお信の凛とした姿は同性の私から見てもかっこいい。しかもお信は美人さんなのです。

2つ目はお仕事小説としての側面。

産婆の仕事や、医師としての知識が随所に出てきます。特に薬物についての知識が「なぞとき」に生かされているのが興味深いです。

ただ、産婆としてのお信さんの仕事ぶりの描写はとても生々しく、出産経験のない私にはきついものがありました。文章とはいえ、血を見ると貧血を起こすような方には無理かもしれません。

でも、それがリアルな出産というものなのでしょう。

3つ目は出産の大変さ、生まれてくることは当たり前ではない、という観点。

医療の発達している現代では、妊婦さんの命も赤ちゃんの命も、ほぼ保証されているような感じですが、江戸時代には出産時に亡くなる母子が珍しくなかったのです。

また、命を落とさなかったとしても、出産後に普通の生活が送れなくなる「後遺症」を負わされる女性も多かったのです。

先ほどの出産の描写と同じくらい、この「後遺症」についての描写もリアルで、自分がそんな目に遭わされたら…と思うと、ズーンと落ち込んでしまうのでした。

4つ目がミステリー要素。

タイトルに「なぞとき帖」とあるように、お信が謎を解いていきます。

お信が犯人に仕立て上げられそうになった事件が最初のなぞときということになります。

その際、お信が犯人であるかの如く書き立てる瓦版は、現代のマスコミの過剰報道と通じるところがあります。本当の犯人が誰か、ということよりもセンセーショナルに面白く書き立てて販売数を上げることが大事、というのがマスコミの本質なのかもしれません。昔も今も。

このように、ちょっと盛り込みすぎかもと思うくらいたくさんのテーマを盛り込んだ江戸の医療ミステリーですが、読後感があまり爽やかではありませんでした。

心身ともに健康な時でないと、きついものがあるかも。

特に、これから初めての出産を控えておられる方にはお勧めできません。

もう出産などには無縁の年齢になった私でも読み終わってしばらく、ドヨーンとしておりました。

心も体も元気元気、何がきても大丈夫よ、という状態でお読みください。
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産医お信なぞとき帖
和田はつ子(著)
PHP研究所
亡き夫の理想を継いで、卓越した腕で助産と日常の医療を手掛ける女医、お信。ある日、宮田という大物の産医が不在だったため、容体が急変した大店の妻の出産に代理で携わることに。無事出産を終え、胸を撫でおろしたものの、その数日後、宮田が殺されてしまい、嫌疑がお信にかけられてしまう…。お信が巻き込まれる陰謀、そして産医として直面する生と死のドラマを描く時代医療ミステリー。 出典:楽天
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池田 千波留
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コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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