あなたのための短歌集(木下龍也)
号泣しながら読んだ あなたのための短歌集
木下龍也(著) X(旧Twitter)でこの本を知り、読みました。著者である木下龍也さんは1988年生まれ。歌人でいらっしゃいます。2017年から2021年にかけ「あなたのための短歌1首」という、短歌の個人販売をされていました。
私は「歌の個人販売」とは何だろうかと首をひねりました。 それは、依頼者からのメールで届くお題をもとに短歌を作り、便せんに書いて封書で届けること。いわば短歌のオーダーメイドですね。 依頼者からのお題に沿って、その人のためだけに詠み、納入したらその短歌は依頼者のもの。 木下さんはご自分の作品であっても記録には残さず、公表することもなかったそうです。 一方依頼者は買い取っていますので、その短歌をどのようにあつかっても自由というわけ。 なんと面白い取り組みでしょうか。「歌の個人販売」は4年間続き、販売された短歌は700首にものぼるのだとか。 『あなたのための短歌集』には、その中の100首が納められています。 上にも書いたように、木下さんの手元に記録がありませんから、この本に納められた100首は、主旨を説明して依頼者から提供していただいたもの。 本を開いて右側のページには依頼者からの「お題」が、左のページにはそのお題に沿って詠まれた短歌が掲載される形式で紹介されています。 短歌のオーダーメイド、誰か一人のために詠まれた短歌を赤の他人が鑑賞して面白いだろうか?心に響くかしらん? 本を開く前にはそう思いました。 ですが実際に読んでみると、不思議なことに最初から最後まで、我がことのように感じられました。 そしてあまりにも共感してしまい、号泣することが何度もありました。 私が号泣した短歌の中から二つピックアップしましょう。依頼文の前に記載している数字は、本に収められた100の短歌に付けられたナンバーです。そのまま引用させていただきます。 038
いま飼っている犬、かつて飼っていた犬、そして、実家の病気になっている老犬たち。私は犬をすごく愛していますが、その分、いつかやってくる別れのことを思うと、胸がつぶれそうなほどに寂しくて恐ろしくて仕方がないのです。そんな私のお守りとなる短歌をください。 愛された犬は来世で風となりあなたの日々を何度も撫でる 086 実家には、私が中学生のときに飼いはじめた犬がいます。15才の老犬です。大学生で一人暮らしを始めるまでは、いつも散歩や就寝をともにしていました。家を離れて働いている私が犬に会えるのは半年に一度ほどです。会うたびに老いをましています。こないだ会ったときは、わたしのことをわすれてしまったようでした。いつもなら、しっぽを振って迎えてくれるところを、吠えられ、噛みつかれてしまいました。噛みつかれた悲しみや驚きより、お別れが近づいているこどが受け入れ難く、心を重たくさせています。もっとしてやれたことがあったのでは、と考えては涙を流してしまうのです。どうかこんな私を慰める短歌をお願いします。 習性として老犬は大切なきみを記憶に埋めて隠した (木下龍也さん『あなたのための短歌集』より引用) ああ、こうして転記しているだけでも泣いてしまいます。
もちろん、号泣する短歌ばかりではありません。 「名前の文字を入れて短歌を詠んで欲しい」という依頼などは、もし私の名前を詠み込んでもらったらどんな短歌ができるのかしら?なんて想像しながら読みました。 悩みから脱却したいという依頼もあり、その答えとなる短歌には、おおいに励まされたりします。 妙ですね。個人販売された短歌であるはずなのに、第三者が読んでも癒やされたり元気が出たりするのですから。 これが言葉の力、短歌の力なのかも知れません。 最後に、あなたはあなただし、私は私。金子みすゞさんじゃないけれど「みんな違ってみんな良い」と思えた短歌をご紹介します。 010
人は生まれた時から、もしかすると生まれる前から不平等だと思います。でも、不平等だからこそ生きたいと思えるような短歌をお願いします。 大きさも深さも違う花瓶にはそれぞれ似合う一輪がある (木下龍也さん『あなたのための短歌集』より引用) 掲載された100の短歌の中に、きっとあなたにぴったりのものがあると思います。
ぜひこの本を手にとってそれを探してみてくださいね。 なお、増刷版の表紙には101番目の依頼者として詩人の谷川俊太郎さんが登場。谷川さんの依頼文と、そのお題に答えた短歌が記されています。ご注目を。 あなたのための短歌集
木下龍也(著) ナナロク社 歌人・木下龍也さんが「お題」を受けて作歌する、短歌の個人販売プロジェクトが一冊の本になりました。 これまで作歌した700首の中から「100題100首」を収めています。 歌人がひとりの想い(お題)と向き合うことで生まれた短歌が詰まった歌集です 出典:楽天 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
|
OtherBook