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ザリガニの鳴くところ(ディーリア・オーエンズ)

評判通りの面白さ

ザリガニの鳴くところ
ディーリア・オーエンズ(著)
面白いと聞き、ディーリア・オーエンズさんの『ザリガニの鳴くところ』を読みました。
1952年のアメリカ。6歳のカイアは両親と4人の兄姉とともに、ノースカロライナ州の湿地に住んでいた。

ある日、子どもたちを置いて、母が家を出て行ってしまった。酒に溺れ、飲むと暴力を振るう夫に耐えられなくなったのだ。

妻が出て行ってしまうと、父親は子どもたちに手をあげるようになった。

母がいなくなって数週間で、一番上の兄と二人の姉も姿を消した。

そして、一番年齢が近い兄ジョディもついに出て行ってしまい、湿地のボロ家に残ったのはカイアと父親だけになってしまった。

カイアは幼いながらに食事や洗濯をこなし、父の怒りをやり過ごすことを覚えた。

しかしその父親までが家に戻らなくなり、カイアはたった一人で生きていかねばならなくなった……
(ディーリア・オーエンズさんの『ザリガニの鳴くところ』の出だしを私なりにまとめました。)
主人公カイアの置かれた環境をご紹介しましたが、物語はそれから17年後の1969年からスタートします。

1969年、10月30日に沼地で一人の男の死体が発見されるのです。

10月30日!!

よりによって私の誕生日から物語がスタートするなんて、なんということでしょう。

そんな個人的な理由から、すぐに物語の中に入っていくことができました。

死体発見現場の様子からは、その死体が事故死なのか、他殺体なのか、よくわかりません。

町の人たちは「湿地の少女」に疑いの目を向けるようになります。

湿地の少女とはカイアのことです。

物語は、まだ6歳のカイアが知恵を絞って生きている過去と、1969年を行き来して、進んでいき、徐々に、発見された遺体とカイアの関係がわかってきます。

本当にカイアが犯人なのか?

裁判の場面では、検察側と弁護側の論戦にハラハラしっぱなし。

というのも「湿地の少女」カイアは、町の人から見ると得体の知れない人間、偏見の対象です。

陪審員は最初からカイアに対して「やりかねない」と思っているのではないかと感じるのです。

証拠が乏しいなかで、陪審員たちがカイアを有罪無罪、どちらと判定するのか、息がつまりそうになりました。

しかしこの小説の面白さは、ミステリ以外のところにもあります。

6歳の少女が、たった一人で生きていけるはずがないと思いきや、たくましく自立していくカイアの成長が本当に興味深いのです。

調理は母親がやっていたことを思い出しながら、魚釣りは、機嫌が良い時の父親から教わった通りに。

最後まで家に残ってくれた兄 ジョディからは、周囲の人から襲われそうになった時に、どうやって逃れ隠れるかを教わりました。

おかげでカイアは補導員から何度も逃れ、一人暮らしを続けることができます。

それはほとんどサバイバルですが、食べ物といい、お金を稼ぐ方法といい、豊かな自然の中に住んでいたからできたことかも知れません。

カイアはやがて、兄ジョディの友だちテイトから読み書きを教えてもらい、知識を身につけていきます。

勉強ってやる気さえあれば学校に通わなくてもできるのね、と、思うと同時に、知識や教養の大切さをしみじみ感じました。

現代の日本では、子どもに

「どうして勉強しなくちゃいけないの?」

と聞かれた時、明確に答えることが難しいと思います。

でも、カイアなら

「より良く生きるために。自分のために勉強するのよ」と

はっきり答えられるはず。

幼いカイアが孤独に耐えながら、一人で生き、勉強し、立派な知識人になっていくのが素晴らしい。

だからこそ、殺人の疑いをかけられたカイアに、どのような判決が下されるのか、ハラハラしてしまうのですよ。

そして最後の最後に「ややや!!そういうことだったのね!」という結末があり、ミステリとしても秀逸。

前評判通り、本当に面白い小説でした。
ザリガニの鳴くところ
ディーリア・オーエンズ(著)
早川書房
ノースカロライナ州の湿地で村の青年チェイスの死体が発見された。人々は真っ先に、「湿地の少女」と呼ばれているカイアを疑う。6歳のときからたったひとりで生き延びてきたカイアは、果たして犯人なのか? 不気味な殺人事件の顚末と少女の成長が絡み合う長篇 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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