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グレート・ギャツビー(フィッツジェラルド)

初版から約100年経った今もなお、傑作

グレート・ギャツビー
フランシス・スコット・フィッツジェラルド(著)
先日、宝塚歌劇 月組の『グレート・ギャツビー』を観劇しましたが、作品の出来栄えは別にして、話自体をそんなに好きになれませんでした。

実は1991年雪組の『グレート・ギャツビー』を見たときも同じような感じだったのです。

それを家で話したところ、夫はチラッと私に一瞥をくれたあと「そりゃ、お前にはわからんやろな」。

む、なんだかムッとする言い方。

続けて言うには「あれはな、純愛やねん」

つまり、私には純愛が理解できないと、そう言うのね?

なんだか私が計算高い女、または心がピュアではないみたいではないですか。

夫は宝塚歌劇の『グレート・ギャツビー』は見たことがなく、原作を読んだ感想がそれ。

そうか、じゃあ、原作を読んでみようではないの。

そう思って読んだフィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』でした。
ニューヨーク郊外に住むギャツビー。

豪華な邸宅では夜毎盛大なパーティーが催され、いろいろな人が館に出入りしていた。

略歴も、どのようにして富を得たのかも定かではない謎の男ギャツビー。

彼は毎日のように、邸宅から湾を眺めていた。

対岸には、かつての恋人デイズィの住む館があるのだ。

ギャツビーは、失った恋を取り戻すために、成功者となり彼女の近くに引っ越してきた。

今や人妻であるデイズィに、彼の思いは届くのか?
(フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』の出だしを私なりに紹介しました)
読んでまず、1920年代に書かれたこの小説がなぜ今も古びず、残っているのかがわかる気がしました。

小説として、とても面白いのです。

この小説の主な登場人物は、6人。

タイトルロールでもあるジェイ・ギャツビー、ギャツビーの隣に引っ越してきたニック・キャラウェイ、ニックのいとこデイズィ・ブキャナン、デイズィの夫トム・ブキャナン、そしてトムの浮気相手マートル・ウィルスンとその夫ジョージ・ウィルスン。ここに、デイズィの友人であるミス・ベイカーも入れて7人とカウントしてもいいかもしれません。

小説はニックの語りで進行していきます。つまり、すべてのことはニックの目を通しています。逆にいうと、ニックが知らないこと、知り得ないことは読者には提示されない形になります。

例えば、ギャツビーとデイズィの関係については、ギャツビーから聞いた範囲でしか記述されていません。かつて恋人同士だったことはわかっても、出会いやどれくらい思い合った仲なのか、誰にどのように引き裂かれたのかはほとんど描かれていません。

宝塚歌劇では、ニックを語り部にしていないぶん、二人の過去の恋愛の様子を丁寧に描くことができており、恋愛を全面に押し出すことに成功していると思います。

また、妻マートルを自動車事故で失い自分を見失ってしまったジョージ・ウィルスンが、ひき逃げした車の持ち主であるギャツビーを殺害してしまう場面も、宝塚歌劇では観客の目の前で悲劇が起こってしまうけれど、小説の中ではニックが後で知ったことしか書かれていません。

つまり宝塚歌劇の舞台の方が、愛憎劇に焦点を絞り、よりドラマティックに描かれていることになります。

では小説の方では何に主眼が置かれているのかといえば、ギャツビー自身、彼の人生そのものに焦点が当てられているように感じました。

宝塚歌劇版はかなり「純愛」寄りにアレンジしているので、デイズィを失ったギャツビーが戦場に出た後、成功を収めて豪邸に暮らし、夜毎豪華なパーティを開催するのは、再びデイズィに会い過去の恋を成就させるためだけだったように感じたのですが、小説を読むとそれだけではないように思えたのです。

それは彼の死後、現れた父親がニックに見せたギャツビーのメモから受ける印象です。

ギャツビーは裕福とは言えない境遇に生まれました。そしてまだ子どもの頃から、貧しい境遇から抜け出るのだと決めており、同時にそのための努力を惜しまない人間だったようです。

そして青年になったギャツビーは裕福な家庭のお嬢さんであるデイズィに出会います。

彼女と二度目にあった時のギャツビーの気持ちはこのように記されています。
そしてギャツビーは、富というものがいかに若さと神秘を守りこれ維持させるものであるか、衣装が多いということがいかに新鮮な感じを与えるものかを痛感し、デイズィが貧乏人の汗水流す苦闘などからは超然として誇らかに、銀のように輝いていることを痛切に意識させられたのである。
(フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』P247より引用)
よく「愛があればお金なんていらない」という言葉を聞きますが、必ずしもそうではないことをギャツビーは若いうちにすでに知っていたわけです。デイズィの輝きは彼女が持っている人間としての魅力に、富が磨きをかけているのだと。

つまりデイズィは、ギャツビーの目には幼い頃から目指していた豊かな生活、こうありたいという人生の象徴に見えたのではないかと私は感じます。

その後、ギャツビーが成り上がっていく原動力になったのは、自分がデイズィの輝きを維持できるだけの富を得るのだという強い思いであり、それが可能な今、デイズィを人生の伴侶として迎え入れることで、完璧な人生になる、と感じていたのではないかと思うのです。

この解釈でお分かりだと思うのですが、私はこの小説は「純愛」とはちょっと違う気がしてなりません。ギャツビーは宝塚歌劇で言えば、柴田侑宏先生の作品「アルジェの男」のジュリアンに似ているような気がしてならないのです。

まぁ、ギャツビーの思いが純愛だったのか、それとも自分が作り上げた偶像、幸せの象徴に恋をしていたのかは置いておき、そんな思いを寄せられたデイズィはどんな反応だったのか、先を読んで私はがっかりしました。

一時は夫と別れてギャツビーの元に行ってもいいかも、と思ったような節は見られるのですが、自分が引き起こした自動車事故のせいで、一人の女性(マートル)が亡くなり、おまけに逆恨みされたギャツビーがその夫(ジョージ・ウィルスン)に殺されてしまったあとは、全く作品に登場しなくなるのです。

宝塚歌劇では、良心の呵責に耐えかねて夫に本当のことを言うような設定になっていますが、小説の中のデイズィはそんなことはしていないようです。

トムがニックに向かって「ギャツビーがひき逃げをしたのだから、ジョージに殺されたのは自業自得だ」と言うような発言をしているのですから。

そもそもマートルをひいて逃げた車の持ち主はギャツビーだと、ジョージに教えたのはトム。考えようによってはギャツビーはトムとデイズィ二人のせいで亡くなってしまったと言えるのです。

なんてことなの!!

私は元々デイズィが好きじゃなかったのだけれど、本当に嫌いになりましたわ。

デイズィはギャツビーに心動かされたこともあったけれど、大きな事件が起こってしまうと、すっと安全地帯に逃げ帰り、何事もなかったかのように元の生活に戻ってしまったのですよ。キー!!こんな人のためにギャツビーは人生を終わらせてしまったのね。理不尽だわ!

そんな私の心をニックが代弁してくれています。
彼らは不注意な人間なのだ──トムも、デイズィも──品物でも人間でもを、めちゃめちゃにしておきながら、自分たちは、すっと、金だか、あきれるほどの不注意だか、その他なんだか知らないが、とにかく二人を結びつけているものの中に退却してしまって、自分たちのしでかしたごちゃごちゃの後片づけは他人にさせる……
でも、ギャツビーが不幸だったかといえば、決してそんなことはなかったと思うのです。

非常に強い意志と行動で自分を高みへと持ち上げていき、成功を収めることができたわけですから。

私は宝塚歌劇版を見た時に、ギャツビーの対極にいるのは恋のライバルであるトムだと思っていたのです。でも、原作小説を読みおわった時、ギャツビーの対極にいるのは、ジョージ・ウィルスンだったのではないかと思うようになりました。

決して裕福ではないジョージ・ウィルスン。外見も冴えない男で、妻には侮られ浮気されています。しかも妻の浮気相手であるトムに、仕事で偉そうにされても文句が言えない、なんともうら淋しい人物です。

ディズィがギャツビーにとって輝く理想であるとしたら、ジョージはその正反対の場所にいる人。ギャツビーの実家のイメージとちょっと通じるものがあると思います。もしギャツビーがデイズィに出会わず、運にも恵まれず、成功していなかったなら、ジョージのような人生を送っていたのかもしれません。

登場人物の配置の巧みさ、それぞれが互いの運命を左右しあっているストーリーの妙が、初版から約100年経った今もなお、傑作と称される所以だと思います。

読み応えのある面白い小説でしたわ。

とはいえ、私はこの小説のヒロインが全く好きではありません。

むしろ読む前より一層嫌いになりました。フン!!
グレート・ギャツビー
フランシス・スコット・フィッツジェラルド(著)
新潮文庫
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
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ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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