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代理母、はじめました(垣谷美雨)

現実世界でもちゃんと議論するべき問題

代理母、はじめました
垣谷 美雨(著)
結婚、嫁姑問題、高齢化社会、定年退職後の夫についてなど、女性の人生に起こるさまざまな問題を描く垣谷美雨さん。

今回の題材はかなりシリアス。

『代理母、はじめました』を読み終えました。
16歳のユキは代理出産を終えたばかり。未婚で、初産、それどころか恋愛すらしたことがないユキが年齢を偽ってまで代理母になったのは、義父の説得による。

望んでも子どもを産めない人たちを助ける立派な行いである上、前金100万円、出産後に400万円もらえるので、家族も助かる、というのだ。

ユキには弟と妹がいるが、ユキだけ父親が違う。そのせいか、いつもユキに冷たく当たっていた義父が代理出産を引き受けて以来、妙に優しくなっていた。

それにホッとしてたユキだったが、義父は今後もユキに代理出産をさせて、自分は遊んで暮らすつもりだということがわかり、たまりかねて家出した。

ユキは、同じく親から虐待され家出した幼馴染のミチオと二人で代理出産の代理店を立ち上げる。
(垣谷美雨さん『代理母、はじめました』の冒頭を私なりに紹介しました)
私は不妊治療を経験しましたが、残念ながら子どもには恵まれませんでした。

私たち夫婦は子供がいない人生を選択したわけですが、どうしてもこどもが欲しいご夫婦の気持ちはわかります。 特に2002年、アメリカでの代理出産という方法を選んだ高田延彦さんと向井亜紀さんご夫婦の気持ちはよくわかりました。そして無事にお子さんが産まれた時には人ごとながら嬉しかったです。ところがこの時、日本では出生届が受理されませんでした。

作品の中で紹介されている判決文は多分、この時ものだと思います。
ーー妊娠・出産によって母性は育まれるから、子の福祉の観点からも出産した女性を母とすることに合理性がある。人を生殖の手段として使うのは人道上問題。代理母との間で、子どもをめぐる深刻な争いが生じる危険性もあり、契約は公序良俗に反して無効と考えるのが相当。
(垣谷美雨さん『代理母、はじめました』P161より引用)
私は判決文の後半にはうなづけるけれど、出だしの文言には納得しかねます。

必ずしも「妊娠・出産によって母性は育まれる」とは限らないのではないですか?これはいわゆる母性神話というやつではないかと思います。

ともかく、このように裁かれてしまったことに関して、なんとかならないものかと思ったものです。

つまり、私は代理出産を頭から否定する気持ちがないのです。犯罪の温床になる可能性もあるから、慎重な対応が必要とは思いますが、そういう方法があってもいいんじゃないかと思います。

例えば病気が原因で子どもを産めない、不妊治療を続けたけれど実らず年齢が経過して妊娠の可能性が低くなった、などの理由で子どもを諦めざるを得ない人のために。

ところが、この小説を読んでみると、代理母、代理出産で子どもを持ちたいと望むのは、不妊治療に疲れたご夫婦だけではありません。独身だけど子どもだけ欲しい、妊娠期間中仕事ができなくなるのが嫌なので代理出産を利用したい、あるいは生物学的に子どもができないLGBTQのカップルなどなど。

それらを無条件に全て受け入れて代理出産をコーディネートするわけにはいきません。なかなか難しい問題です。

そもそも、小説の中とはいえ、この日本で代理出産斡旋業が成り立つなんてどういうことだろうと思ったら、この小説は近未来が舞台なのでした。

少子化問題はますます深刻化しており日本人の人口は減少。そこに海外からの移民が流入しているといった状態。

環境面も厳しく、富士山が噴火し、火山灰と放射線物質に汚染されています。富裕層が安全な地域に引っ越したため、かつての高級住宅街がスラム化し、治安はかなり悪くなっています。

貧困問題を抱えた日本の女性や、まとまったお金が欲しい移民女性が代理母に登録する一方、生まれてきた子どもを欲しがっているのが日本人だけではなく、裕福な中国人だったりして、なんだか暗い気持ちになってしまいました。

しかし、代理出産が認められれば、さまざまな理由で子どもを諦めている人に希望が生まれることは事実。

そして代理母を単に「代わりに産む人」「お腹だけ貸す人」とするのではなく、産む側、産んでもらう側相互に理解し合い、感謝しあう関係性を築くことが大切であることが語られていました。

『代理母、はじめました』は小説ですが、現実世界でもちゃんと議論するべき問題だと改めて思いました。
代理母、はじめました
垣谷 美雨(著)
中央公論新社
独身のまま子供が欲しい、もう不妊治療をやめたい、五十を過ぎたら、家族は持てない?…貧困と虐待から脱するため、少女ユキが始めたのは“代理母ビジネス”。葛藤と不合理だらけの“命”の現場で、医師の芽衣子やゲイのミチオとタッグを組み、女たちの自由を求めて立ち上がるー!不妊、高齢、独身、ゲイーもう“タブー”だなんて言ってられない。「子を抱きたい」人々と女たちが手をつなぐ出産革命小説。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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